ウィルコムのW-ZERO3シリーズが好調だ。そして、ついにNTTドコモも同様の仕様のスマートフォンの発売を決めた。日本では成功しないといわれ続けてきたスマートフォンが続々登場する背景には、スマートフォンへの需要がようやく顕在化する条件が整ってきたことがある。
Windows MobileをOSに据えたウィルコムのシャープ製スマートフォンW-ZERO3は、カラーバリエーションの拡大、メモリ増強版やさらにスマートなデザインの新型「es」を加え、昨年12月の発売から半年の間に15万台以上が売れたという。そして、巨人ドコモも、やはりWindows Mobileベースのスマートフォン「hTc Z(台湾High Tech Computer Corporation製)」を発表した。
PalmやBlackberryなど、海外でビジネスコンシューマーに広く普及しているPDAやスマートフォン(PDA電話)であっても、これまで日本では売れないという一種のジンクスがあった。確かにZaurusやモバイルギア、Clie、CassiopeiaにSigmarionなどそれなりに優れたマシンが存在し、それなりの市場を形成していたという事実は歴然と存在する。しかし、依然として、それはガジェット好きを中心としたニッチ市場であったことは否めない。
だが、昨今このような状況に変化の兆しが現れてきた。冒頭に紹介したW-ZERO3やhTc Zの登場だ。
これまでは、「同じ人が、複数のガジェットを購入している」とよくいわれてきた。かく言う僕も、その1人だ。しかし、今回のW-ZERO3などのスマートフォンの購入者は、そんなガジェット好きばかりではなさそうだ。ちょっとITリテラシーの高い若いビジネスマンやキャリアOLの女性が街角でZERO3やNokia製スマートフォンなどを使っている姿を時折見かけるようになった。そんなとき、これまでとは違う需要が顕在化してきたことを実感する。
これまで、PDAやスマートフォンは、欧米型の多機能さをビジネスに生かすユーザーに向けて企画開発されてきた。しかし、結果的にモノ好きな人たちにとってイジり甲斐があるかどうかで、小さいながらもその市場での成功、失敗が決まっていた。
要するにターゲットとしているユーザーに到達する前に撃沈していたことになる。故に、想定していた訴求価値が十二分に理解されないままに、市場での評価がなされていたわけだ。これは「冷蔵庫を電源なしで『保湿箱』として利用する砂漠の民」や「洗濯機をジャガイモの皮剥き機として利用する中国奥地の人々」と同じように、本来想定していた提供価値とは異なる価値(再発見・再発明)によってイノベーションを受容するという「イノベーションの屈折」が起こっていたに近い。
しかし、今回はスマートフォンの持つ機能を純粋に使いたいという、ビジネスパーソンのわかりやすいニーズが発露した。ようやくその訴求価値に沿った普及のドライバになってきている。
もちろん、スケジュールの確認や変更を手軽に行いたいといった素朴な需要は常にあり続けてきた。が、これまでの日本企業の社内体制やそれに基づく慣習風土文化(部署付きのアシスタントが黒板に書かれた出先表を見るなどして、スケジュール管理を電話経由でしてくれた、など)が、「ITによって素朴な需要を満足させる」という選択肢の顕在化を遠のけてきたのではないか。そして、これが市場レベルで起きていた、スマートフォンが本来想定していた層ではなくガジェット好きにだけ受け入れられるという「イノベーションの屈折」の原因となっていたに違いない。
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