今月17日、KDDI、日本テレコムなどの新電電5社が監督官庁である総務省を相手取り、東京地裁に訴訟を起こすという異例の事態が起きた。新電電各社はなぜ、いま捨て身ともいえる反旗を翻したのか、その背景と今後の業績に与える影響、株価の推移について探った。
今回の提訴の内容は、4月22日に総務省が認可したNTT東西の接続約款変更の取り消しを求めたものだ。接続料とは、電話局と利用者宅(事業所)を結ぶ電話回線を持たない新電電各社が、NTT東西地域会社の回線網を借りる際に支払う料金のこと。今回の料金引き上げの理由としてNTTは、携帯電話の飛躍的な普及などに伴う固定電話の通話料の減少などで、一通話当たりのコストが上昇したことを挙げているが、新電電各社首脳による記者会見の席上では、「新電電5社の収益が(業績不振の)NTT西日本の救済原資になっている」との過激な発言が飛び出すほど事態は切迫したものとなった。
依然として典型的な規制業種で、なぜ新電電が総務省に対して反旗を翻さざるを得なかったのか。通信業界担当の外国証券のアナリストは、今回のNTT接続料の引き上げに伴い新電電各社の減収が数十億円程度となるのは確かだが、それより新電電が最も懸念しているのは総務省の姿勢の変化だという。「総務省は旧郵政省時代から、表向きには“通信事業者の競争を促進して利用者の料金を引き下げる”という基本姿勢を示してきた。今回の接続料の引き上げは新電電にとって、“利用者に負担を強いる懸念があるにもかかわらず、総務省がNTTを保護するという時代に逆行した姿勢を取った”と受け止めざるを得なかったようだ」(同アナリスト)
平均で約5%となる今回の接続料の引き上げについて、認可の取り消しを求めている新電電各社だが、現時点ではたとえ引き上げが実施されたとしても、ユーザーへの価格転嫁は行わず、経営努力で吸収する方針だ。ただ、ADSL(非対称デジタル加入者線)の増加で、電話回線を用いたダイヤルアップ回線数が減少、IP電話や携帯電話の普及もあり、固定電話の通信時間は今後も大幅に減少するものと見込まれる。したがって固定電話の通信時間が減少すると、接続料が再び引き上げられる懸念も残されているわけだ。
それでは、なぜ総務省が時代に逆行するような接続料の引き上げを認めたのか。業界内でささやかれているのが政治的圧力の存在だ。与野党を問わず、今春の統一地方選挙中に、巨大な集票組織でもあるNTTから同社支持への強烈な要望を受けたことや、今秋に迫った総選挙のことも考慮しての決断だったとの見方が有力だ。
今後の業績と株価について準大手証券のアナリストは、NTTが接続料金をひき上げたとしても、コストのかかる回線網貸し出し部門の採算は赤字のままだとしている。また新電電各社にしても、接続料の引き上げに伴って業績に与えるマイナス影響は比較的軽微に止まるものと予想され、株価への影響も極端な変化として表れることはなさそうだとしている。
しかしNTT東日本は、同社の高速通信回線を使ってインターネット事業を展開しようとする他の通信会社から回線接続の申し入れを受けた際、故意に契約を遅らせるなど、他社の業務や新規参入を妨害したとして独占禁止法違反で公正取引委員会の立ち入り検査を受けている。このことでNTTへの風当たりが一段と強くなっており、中長期的にNTTの株価形成にとってはマイナス材料となりそうだ。
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