17日後場から始まった「ライブドアショック」
そして、最も重要と考えられるのが、こうした強制捜査を受けた翌日1月17日の東京株式市場の動きだった。日経平均株価の終値では前日比462円安と急落した17日の東京株式市場だが、実際に下落に拍車がかかったのは、後場の午後1時半を過ぎてからだったのだ。下落どころか、当日の前場引けの日経平均株価は、なんと前日比プラス54円となっていたのだ。
17日の前場は、寄り付き直後こそライブドアの件を嫌気して、IT・ネット関連銘柄を中心に売り先行でスタートしたものの、午前9時15分に日経平均株価が前日比152円安となって以降は、主力株中心に押し目買いが入り、前日比でプラス圏に浮上していた。ところが、市場関係者の間に「ライブドアショックは回避されそうだ」とのムードが広がりかけた後場1時半過ぎから、一気に株価指数先物主導で市場全般がほぼ売り一色となり、大引けは東証1部の値下がりが1500銘柄を超える全面安となってしまったのだ。
後場寄り付きまで“堅調”な推移となっていた相場がなぜ一気に売り一色となったのか。中堅証券の投資情報部長は「17日後場に、ネット証券大手のマネックス証券が『ライブドアを含む関連会社5銘柄の信用取引きの担保掛目をそれまでの70〜80%からゼロ(その後、一部の銘柄については掛け目を元に戻した)にして担保から外す』と発表したことが市場に伝わり、ほかの証券会社も追随するのではとの思惑が急浮上し下落が加速したのでは」としている。
外資系証券の日本株トレーダーは「午後1時半過ぎから、株価指数先物に仕掛け的な売りが大量に出た。これにマネックス証券の信用担保外しが伝えられ、IT・ネット関連銘柄を担保に信用取引きをしているネット利用のデイトレーダーが一斉に売り注文を出したため、売りが売りを呼ぶ展開に陥ったわけだ」としている。
競争が激化するなかで、多くのネット証券は、ほとんど証拠金ゼロでも信用取引を認めることで顧客を取り込んできた経緯がある。例えば、手持ちの現金1000万円でライブドアの株を保有して、それを担保に800万円分(従来の担保掛目は80%)ほかのIT関連のA銘柄を買い付けていたとする。
まず、ライブドアについては、粉飾決算疑惑、堀江氏逮捕の可能性などにより上場廃止の懸念もあり、最悪の場合は株価がゼロになるケースも。さらに、A銘柄の担保価値がゼロになるため、800万円の現金か、ほかに株券を保有していれば800万円分の株券の差し入れを迫られることになる。ライブドアをはじめ関連会社の5社はネットトレーダーに人気の高い銘柄ばかりで、その銘柄の担保価値がゼロになることは、株式市場にとっては「ライブドアの強制捜査」よりも重大な影響を与えたことが真相だ。
“次”取りざたで余震には警戒必要
続く1月18日は、後場寄り直後の午後零時50分に、東証があまりの売り注文の多さにシステムが対応し切れないと判断して「全面売買停止」の可能性について発表したことから、これが売りマインドに一段と拍車を掛けることになった。売りが売りを呼ぶ展開となり、一時日経平均は前日比746円安の1万5000円割れ寸前まで叩き込まれた(終値は同464円安)。
結局、東証は午後2時40分に前代未聞の株式取引の全面売買停止に追い込まれた。ライブドアの株価は1月17日から20日までの4日間連続ストップ安となり、16日終値で696円だった株価が20日の終値では336円と半値以下の水準に売り込まれた。ソフトバンク、ヤフー、楽天といった代表的なIT・ネット関連も余波による大幅な下落を強いられた。
ただ、東証マザーズ指数の17、18日2日間合計の下落率は22.4%に達したが、TOPIX(東証株価指数)の2日間の下落率は5.5%、東証1部上場の代表的な優良大型株コア30指数採用銘柄の同下落率は3.7%にとどまった。つまり、力強い景気回復傾向への信頼感は揺らいでおらず、今後も全体相場の上昇トレンドに変化はないものと予想される。
ただし、東京地検特捜部の“次”のターゲットが、市場関係者間で取りざたされていることも確かだ。ライブドアとその経営陣への疑惑追及は、すでに表面化している株式交換偽装と粉飾決算疑惑の解明でひとまず一段落。ライブドアとほぼ同様の買収戦略と時価総額経営を進めてきた複数のIT・ネット企業、上場・非上場の投資ファンド事業会社とその出資会社に捜査が拡大する可能性が指摘されている。
今回のライブドアが“本震”とすれば、かなり規模の大きな“余震”に何回か襲われることへの警戒は必要となりそうだ。短期間での値戻しを狙った安易なIT・ネット関連株への投資は当面控えたほうが賢明といえそうだ。
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