信託商品、就職活動にまで!--UCCブームに沸く韓国

佐々木 朋美2007年05月15日 12時00分

 5月上旬、会社員のP氏は所属しているボランティア団体の連絡用掲示板を確認しようと、コミュニティサイトの「freechal」に接続したとたん、自分の目を疑ってしまった。

 freechalトップページが、それまでのテキスト・写真ベースから一転、動画一色になっていたのだ。ロゴマークまでがテレビ模様をあしらったものに変わっており「別のWebサイトに間違って来たのかと思い、URLまで確認した」という。

 freechalでは4月下旬に「動画ポータル」への変身を宣言し、ロゴマークやウェブデザインを大幅に変えている。とくに注力しているのは、ユーザーが撮影、編集した動画や写真などのことを指すユーザー作成コンテンツ(User Created Content:UCC)だ。この宣言以降freechalでは、ネティズンたちが自由に動画を共有できるスペースを設けたり、動画投稿イベントを行っているほか、経営陣紹介まで動画で行うなど、動画に大きく力を入れることとなった。同社ではこうしたUCC戦略で5年以内に年間1000億ウォンの売上達成を目指す。

 UCCという言葉が定着した韓国。UCCの完成度は必ずしもプロのようにはいかないが、偶然撮れたハプニング映像や個性あふれるユニークな映像は、視聴者の大きな注目を集める。話題のUCCが大型ポータルサイトの人気検索語ランキング上位を飾ることも今では珍しくない。

 こうした人気ぶりにビジネスチャンスを見出した企業がこぞってUCC事業に参入し、UCC関連のウェブサイトや新サービスなどが、雨後のたけのこのように出てきている。

 ポータルサイトでもっともUCCに力を入れいているのはDaumだ。同社では2006年からUCCサービスの提供を積極的に行い大々的にPRしてきた。最近ではDaum自体のキャッチコピーも「私たちのUCC世界」になり、DaumロゴにもUCCを示す模様があしらわれている。

 同社は5月からUCCスペースの「UCC世界」をオープン。ここではDaum内のブログやコミュニティ、動画コーナーなどさまざまなサービスに存在している30億件ものUCC中、ユーザーが推薦したものを選別。ここで検索を行えば、検索語と関連した選りすぐりのUCCが結果表示されるというわけだ。

 Daumではさらに、ネチズン投稿の感動的なUCCを見たネチズンが1000ウォンずつ寄付し、この寄付金を障害のある子どもたちに寄付する「UCCオンライン寄付キャンペーン」を実施するなど、あらゆるサービスがUCCを意識したものになっている。

 こうしたUCCブームは単なるお楽しみでは終わらなくなってきている。就職情報ポータルのキャリアが、全国250社の人事担当にアンケートを行ったところ、62.8%が「同様条件の志望者がいる場合、文書による履歴書よりも、動画による履歴書が好ましい」と考えていることが明らかになった。その理由としては「志望者の活き活きした姿を見られる」(47.8%)、「情熱が込もっている」(17.8%)、「個性が垣間見える」(16.6%)といったことが挙げられている。UCCが就職も左右すると同時に、上手にUCCを作る必要性まで出てきたから就職活動をする学生は大変である。

 さらに特異な例として外換銀行では3月下旬から「UCC Trust」という信託商品を提供し始めた。これは投資したい株式の選定や運用方法の指示など、具体的な投資方針を顧客自らが設計していける金融商品だ。ユーザー自らが作るという特徴から「UCC」という名前が付けられたようだ。

 このようにUCCブームが起こると、企業だけでなくユーザーも関心を持たざるを得なくなってくる。UCCについて知りたい人が増えることで、学生を対象とした「UCCを活用した成功創業戦略」セミナー、UCCについて分析し今後の展望を語る「UCCとコミュニケーション研究」セミナー、Web2.0時代に必要なUCC戦略を学ぶ「UCC 2.0 セミナー」など、関連のセミナーがあふれるようになった。

 まさにUCC一色の韓国。しかし今はビジネスチャンスを見い出した企業がブームを扇動している段階のようにも見える。韓国政府の情報通信部では2月、UCCの健全な活性化のための施策を用意すると発表した。この際に同部は韓国におけるUCCのレベルを「まだ初級者段階」と評価した。同部によるとネチズンの43.2%がUCC制作の経験があるとの調査結果が出てはいるものの、それらは既存コンテンツを加工しただけのものが大部分であったという。

 そのため情報通信部では、本格的なUCC作りを目指すネチズンに対し製品開発や特許出願などの教育を行ったり、動画データを効率的に転送できるプラットフォームを開発するなど、知識と技術の両面で支援していく。

 情報通信部ではUCCを単なる一過性の流行で終わらせないためにも、UCCの質向上が必須と考えているようだ。そうだとすれば今後は企業でも単に参加を促すだけでなく、UCC質向上のための努力が必要になってくるだろう。

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