連休に入る直前に、新型インフルエンザ(いわゆる豚インフルエンザ)が発生したというニュースがあり、世間を騒がせました。このインフルエンザの感染拡大という現象と、私が研究テーマとしている知識産業におけるイノベーション、特に情報伝播との間には関連性があります。今回は本論から少し脱線しますが、感染拡大と口コミなどの情報伝播が、構造的によく似ている点を説明したいと思います。
実は私は、2005年度に国立感染症研究所が実施したSARS対策研究(厚生労働科学研究、「生物テロに向けたシミュレーションの構築と介入効果の検討に関する研究」)において、人的接触を元にした感染シミュレーションを担当させていただいたことがあります。
その手法は、その後、同研究所の大日康史さんが発展され、現在もご活用いただいています。厚生労働科学研究は研究成果が無料で公開されています。こちらのリンクで課題名をキーワードにして検索してみてください。
そもそも何故、イノベーション研究をしている私が、感染症対策に駆り出されたのでしょうか。
新型インフルエンザに関しては、読者の皆さんも記憶に新しいように、日本では4月25日に、米国の疾病対策センター(CDC)がその前日に行った「米国内で症例が8件見つかった」という報告を受けて、一斉に報じられました。その後、感染が拡大し、我が国でも空港で検疫を強化しています。連休中もマスクをつけて外出された方も多いのではないでしょうか。
また、2003年には新型インフルエンザ(いわゆる鳥インフルエンザ)が確認され、中国を中心に流行しました。国内への流入を防ぐべく様々な対策が取られました。
新型インフルエンザにもさまざまなタイプがあるようですが、その中には毒性が高いものも低いものもあります。ここまで神経質になる必要があるのかというほど、徹底的な対策が急がれるのはなぜでしょうか?それには、現代社会における人同士の接触関係の構造に要因があります。
ご承知の通り、インフルエンザは伝染します。これは人から人へと感染が拡大するということです。感染した人の移動がわかれば、どの人がどのあたりで誰と接触し、感染拡大する可能性があるかを知ることができるのですが、そんなデータはなかなか得られません。
しかし、かなり有用なデータがあることがわかりました。それは、国土交通省が行っている「大都市交通センサス」です。
このデータは「首都圏、中京圏、近畿圏の三大都市圏における、大量公共交通機関(鉄道、乗合バス、路面電車)の利用実態を明らかにすることを目的として、1960年から5年ごとに実施してきた交通統計調査」です。
具体的には、調査当日、対象となった駅を通過した人は、改札において調査員からマークシート方式の記入用紙が渡されます。その後、その用紙を受け取った人は、記載されたIDを用いてインターネット上のフォームから移動経路を入力します。このようなデータを総合して、大都市圏(東京、名古屋、東京)における人の移動を高い精度で把握するという大変貴重な調査です。
この調査で得られたデータを用いて、一定の仮定の下、人同士がどのような接触を持つのかを分析しました。仮定の一部をご紹介すると次のようなものです。
乗車する人間は特定のどの車両にも平均的に乗車し、電車は駅間を同じスピードで移動し、乗車中に一定時間、一定の範囲内にいた人間同士は「もし感染していたら、うつる可能性がある」という意味で、関係性があるとみなす。
このようにして構成された人的接触関係のネットワークを分析することで、感染拡大の要因がわかるのではないかと考えました。
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