2月1日から1カ月間、CNET Japanの年次イベント「CNET Japan Live 2023」がオンラインで開催された。今回のテーマは「共創の価値を最大化させる『組織・チーム・文化づくり』」。新規事業開発や共創、あるいは組織風土の改善などに取り組んできた企業らが、その経験をもとに成功のヒントを明かした。
2月6日には、Sun Asteriskが登壇。同社が過去10年間、400社との事業共創を手がけてきたなかで明らかになった、成功する新規事業と失敗する新規事業の違い――その要因となりうるポイントを、企業の新規事業開発に18年間携わってきたSun Asterisk Business Design Pros. Division Manager 井上一鷹氏が解説した。既存事業の手法やしがらみから抜け出せず、新規事業を創出しようと思っても失敗が続いている企業にとって必見の内容だ。
どのようにすれば企業は新規事業開発を成功させることができるのか。井上氏は、成功を左右する要因について「チーム論」と「方法論」の2つの面から説明した。
まず「チーム論」では、「誰とどのようなチームを組むか」が主題。企業にとって未知の新規事業開発は、すでに利益を生み出し、ある意味ルーチンと化している既存事業とは異なり、そもそも自分たちが「何がわからないか」すら「わからない」状況。そんななかで戦っていくためには、「誰を仲間にするか」が重要だと井上氏は語る。「(自分が)わからないとき、気付きを与えてくれるのは(他の)人でしかない」からだ。
そこで同氏が勧めるのは、「ビジョンやウィルが近い人とチームを組む」こと。新規事業開発では、直前の方針を否定し「すぐにピボットして新しいものを探さなければいけない」ようなことが多々発生する。既存事業の考え方に固執した人が1人でもいると、そうした方針転換に異を唱えたり、「やらない理由を見つける」ようになったりするため、プロジェクトが進まなくなるのだという。
それでいて「できる限り自分と能力が異なる人」であることも重要だとする。ここでいう能力とは、「Biz人材(B)」「Tech人材(T)」「Creative人材(C)」の3パターンに分けたもの。
「Biz人材」は事業起点でそのサービス、プロダクトの価値を最大化し、持続可能な仕組みをつくることに長けた人物。「Tech人材」は技術起点でアイデアを形にし、新しい価値を創り出せる人物。また「Creative人材」は顧客(サービス・プロダクトのユーザー)起点で、顧客にとって有用な体験価値を見い出すことを得意とする人物、としている。
井上氏は、これらが「三位一体でないと新規事業はうまくいかない」と断言し、どれかに偏ったチームにならないよう、自身が「B・T・C」のどれに当たるのかをまず把握しつつ、自分にない能力をもつ他の人材をいかに採用するかを考えるべきだとする。
さらに、もう1つ重要なこととして挙げたのが、「最初のプロダクトをつくるまでは、できれば5人以下のチーム」にすること。「B・T・C」の各人材を揃えながら5人以下で構成することで、互いの能力を補完するバランスの良いチームにでき、かつコミュニケーションコストが高くなってプロジェクトが進みにくくなることも防げるという。
続いては「方法論」。スタートアップが新規事業のビジネスモデルを検討していくとき、顧客や課題、サービスやプロダクトなどの要素について1ページに整理して書く「リーンキャンバス」を作成することが多い。しかしSun Asteriskでは、その「進化版みたいなもの」である「VALUE DESIGN SYNTAX」という考え方で進めるのだという。
「VALUE DESIGN SYNTAX」では、マクロまたはミクロで見たサービスコンセプト、競争優位性や持続戦略、利益構造といった各領域に属する20の項目について記入していくことで、その新規事業アイデアを客観的に俯瞰して見られるようになる。そして、これを作成することによってアイデアの強い部分、あるいは弱い部分が明らかになり、先述の「B・T・C」のどれに起点をもつアイデアかがはっきりする。
井上氏によると、たいていの場合、企業のなかでは「B・T・Cのどれかに寄っている」とのこと。それを把握できれば、不足している部分を補完するようなチームビルドが可能になる。たとえば「Bに寄っているときは、顧客理解と価値の具体化のためにCの人材を入れる」、「Tに寄っているときは、技術に特化しているため、どのようにしてマーケットに届けるかを考えられるようにBの人材を入れる」、「Cに寄っているときは、プロダクトを買ってくれる人は1人はいるが拡大できるかわからない状況なので、Bの人材を入れる」といったような判断ができるわけだ。
もし自分自身が「B・T・C」のうちどの領域に属する人材か判断がつかないなら、この「VALUE DESIGN SYNTAX」を書き始めてみることでわかる、と井上氏。たとえば「B」の人材であればユーザーセグメントやコスト、利益といった要素が書きやすいが、「T」人材なら競合するプロダクトや自社リソースから書き始めることになる。また、「C」人材ならn1顧客(実在する1人の顧客)から書きたくなるだろう、という。
400件もの事業共創に関わってきた同社だが、その中にはもちろん失敗もある。原因として多いのは、既存事業と新規事業とで意思決定のプロセスや判断基準が異なる、ということを理解できていないケースだ。不確実なことばかりの新規事業は「不確実なことが減っていくことが大事」であり、反対に確実性を求める既存事業の考え方とは相容れない。「大企業だと“出島”を作るなどして、(既存事業とは)全く異なる生態系の意思決定方法をもっていたりする」とし、そのような本体と切り離す手法も成功確率を上げる方法の1つになるとした。
それでも失敗の可能性は低くない。だからこそ、企業としてはあらかじめ「成功・失敗の基準」を想定しておくべきだと同氏は提案する。基準を決めておかなければ、明らかに失敗したプロジェクトであっても撤退をずるずると先延ばしにし、傷口を広げかねない。また、その経験を糧に次のステップに進むこともできないだろう。
「何を失敗と定義するか、ちゃんと決めてある新規事業はきれいに撤退している」と井上氏。そしてもし撤退するとしても、「1つの新規事業しか考えず、それが失敗したら終わりという状況をなくすために、二の矢、三の矢を意識しておく」ことも、次につながる重要なポイントになると語った。
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