2月1日から1カ月間、CNET Japanの年次イベント「CNET Japan Live 2023」がオンラインで開催された。今回のテーマは「共創の価値を最大化させる『組織・チーム・文化づくり』」。新規事業開発や共創、あるいは組織風土の改善などに取り組んできた企業らが、その経験をもとに成功のヒントを明かした。
2月16日のセッションは、不動産テックのプレーヤーとして注目を浴びているいえらぶGROUP。不動産会社向けSaaS「いえらぶCLOUD」を展開している同社だが、ベンチャーながらもグループ10社の共創組織を作り上げることで不動産周辺の幅広い事業をカバーしている。いえらぶGROUP 常務取締役の庭山健一氏が、そこに至るまでの経緯などを明かした。
いえらぶGROUPは2008年に設立され、現在は東京本社に加えて大阪、名古屋、福岡、沖縄に拠点をもつ従業員数約700名の企業。不動産業界特有の業務内容に対応するSaaS型の業務支援システムであるいえらぶCLOUDを提供しているほか、不動産分野周辺のライフライン、駐車場DX、Web集客、SNSマーケティング、電子契約、家賃保証など、多様なニーズに対応する事業をグループ各社で担っている。
今や同社の年間売上高は約100億円規模となっているが、その軸となっているのはいえらぶCLOUDだ。旧態依然としたアナログ業務がはびこっているとされる不動産業界。庭山氏自身、そこに身を置いて「データ入力やチラシ配布などを一生懸命やってきた」ものの、次第に「非効率だと強く感じるようになった」ことからデジタル化を模索し始めた。
同氏が特に大きな課題と感じていたのは、1~4名程度の小規模事業者の多い不動産会社が、たびたび改正される不動産関連の法律をキャッチアップするのが難しくなっていたこと。リソース不足で対応が間に合わず「気付かないうちに法令に違反してしまう」可能性も高まっている。
しかし不動産業界に特化したいえらぶCLOUDであれば、各社が法改正に独自に対応する必要はなく、SaaS側の自動アップデートで正しく業務遂行できる。コミュニケーション、営業・マーケティングといった各領域の機能を1つにまとめた「バーティカルSaaS」として、「入口から出口までワンストップで提供している」のも特徴だ。
「業界にどうしたらより貢献できるのかを日々模索していると、不思議と同じ志を持った経営者とご縁があり、自然とグループ企業を増やしてきた」といういえらぶGROUP。そんななかで最も重視し、対外的にも強調しているのが「われわれは不動産取引業者にはならない」という宣言だ。
いえらぶCLOUDは、不動産会社にとって「命」でもある物件関連の情報なども預かっている。そこで不動産会社のコア事業である不動産売買・取引まで手がけてしまえば、クラウドにある情報を「流用するのではないか」といった不信を招きかねない。
近年のAIの進化もあり、今後は「物件をサーチする時代から、自動で提案されるレコメンドの時代になってくる」と予想する庭山氏。であれば、なおのこと情報の取り扱いは慎重になっていかざるを得ない。不動産取引を手がけるのではなく、あくまでもプラットフォーマーの立場から、不動産会社にとっての「安心と安全」を徹底的に追求したシステムの実現を目指しているという。
システムそのものは、PDCAを高速で回してアップデートを毎週1回、ユーザーからの意見をもとに次々に改修していくというアジャイルなスタイルで進化を続けている。「不動産会社はパソコンと向き合うのではなく、お客様と向き合うことが仕事。できるだけパソコンでの事務作業を減らせるように」との考えを軸にしているようだ。
「組織は人。“何をやる”より“誰とやる”か」が重要だとし、迅速な意思決定やビジョンの共感・共有を図るため、同社では各グループ会社の代表を含むボーディングメンバーによる経営会議を毎日実施している。従業員、特に若手社員に向けては、独自の社内ナレッジツールなどで自発的に成長していける環境も整備しているとのこと。
その一方で、他社や他社サービスを否定せず、嘘はつかず誠実であること、といったビジネスの「基本」も大切にしているという庭山氏。どんな不動産会社もIT化が必須と決めつけるのではなく、従来のアナログ業務のままで成立するような会社に対しては「無理にIT導入を勧めることはしていない」とも話す。
不動産会社はおよそ12万社あるとされ、まだまだ広がる余地がある不動産業界におけるデジタル化。「やりたいことが次々と出てくるため、ステークホルダーが増えると実行までの時間がかかってしまう」ことから、現時点まで未上場、無借金経営を貫いてきた。
今後手がける事業が広がっていけば、当然ながら失敗もありうる。しかし庭山氏は「改善の余地がある、事業責任者がまだ諦めないというスタンスで向き合い続けようとしている」限りは、赤字続きであっても撤退する必要はないとの考えだ。それよりも、共創するグループ会社と「黒字までもっていくシナリオを一緒に楽しもう、という気持ちの方が強い」と言う同氏。「ビジネスを成功させる」というより、「成功する過程を楽しむ」という思考の方が、ベンチャーの成長には大事なことなのかもしれない。
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