インバウンド激減を経た沖縄、福岡の現在--「航空券問題」解消はホテル業界を変えるのか?

 コロナ禍により長く苦戦を強いられてきた宿泊業界。しかし、ITを活用することで、この難局を乗り切っている宿泊施設もある。ここでは、ホテルや旅館向けの予約エンジンなどを提供するtripla(トリプラ)の高橋和久が、宿泊×DXを実践している企業などの事例から、これからの宿泊業界のあり方を解き明かす。

左から、ホワイト・ベアーファミリー 取締役の下村信夫氏、トリプラ 代表取締役CEOの高橋和久氏、リゾーツ琉球 取締役の近藤雅之氏
左から、ホワイト・ベアーファミリー 取締役の下村信夫氏、トリプラ 代表取締役CEOの高橋和久氏、リゾーツ琉球 取締役の近藤雅之氏

 新型コロナウイルスの影響で旅行業界が大きな打撃を受けたのは言うまでもない。中でも、インバウンドの恩恵を受けていたホテルや観光地にとってはかなり厳しい状況が続いていたが、2022年10月より海外渡航、滞在の水際措置が緩和された。このところ、街中でも外国人の姿を見かける機会が増えてきている。

 とはいえ、インバウンドに人気だった沖縄は、まだ以前ほどのにぎわいは見せていない。沖縄や福岡で複数のホテルを経営する、リゾーツ琉球 取締役の近藤雅之氏によれば「当社が運営する沖縄のホテルは、コロナ前は多いところでインバウンドが8割ほどだったが、現在はまだ多くて2割程度」だそうだ。

リゾーツ琉球 取締役の近藤雅之氏
リゾーツ琉球 取締役の近藤雅之氏

 その点、福岡のホテルは韓国からの訪日客が急激に戻ってきているとも。10月に観光ビザが緩和され、急激に韓国人観光客が増加している状況だ。

 ここ数年で、韓国人に人気の観光地となった福岡だが、同社のホテルが韓国人に好まれるようになったのは「韓国人スタッフの採用」と「SNSで拡散された」ことが大きいという。

 「2017年から2018年にかけて、弊社が福岡に3つのホテルを開業した際に、韓国においても採用活動を積極的に行った。すると、現地のSNS上のコミュニティで『福岡に韓国語が話せるスタッフがいるホテルがある』という評判が広まり、認知度がアップ。現在、韓国人スタッフは2名となっているが、それでも以前からの評判もあってたくさんの韓国人の方に宿泊していただいている」(近藤氏)

 一方、同社は2022年4月1日、日本一朝食が美味しいホテルグループを目指して「The BREAKFAST HOTEL(ブレックファーストホテル)」ブランドをスタートし、リブランディングを図っている。「宿泊するだけではなく、お客様にホテルに行くことを目的にしてほしい」という想いから、ブランド食材などを取り入れるなどして朝食メニューを強化した結果、メディアで取り上げられる機会が増え、さらに「楽天トラベル」の『クチコミ高評価!食事評価が高い宿ランキング(ビジネスホテル)』の全国3位、九州エリアの1位を獲得した。

 こうしたリブランディングは、どうしても国内向けのアプローチにとどまってしまうため、インバウンド需要回復のために、コロナ禍の前後でユーザーのOTA(オンライン上の旅行代理店)の利用方法が変化したことに注目。

 コロナ前は、外国人は「エクスペディア」「Booking.com」といった海外のOTAを利用し、日本人は「楽天トラベル」「じゃらん」と言った日本のOTAを利用する傾向が強かったが、このところは若年層を中心に日本人も海外のOTAを利用することが増加。よって、海外のOTAでの見せ方を工夫することが、国内外の宿泊客を取り込むことにつながると考えているという。

ユーザーがOTAに流れる要因のひとつ「航空券問題」を解消

 ただ、OTAに頼ってしまうと、ホテル側はOTAに支払う手数料がかかるだけでなく、競合との価格競争に巻き込まれ、ひいては人材不足を引き起こし、宿泊客に本来のおもてなしができなくなるというリスクもある。

 また、飛行機を伴う旅行などでは、航空券のみの運賃よりもパッケージツアー向けの運賃が安価に設定されていることが多いが、ホテル公式サイトの会員には航空券付きのパッケージツアーを販売できないため、OTAに宿泊客を逃してしまうことが多かった。沖縄など航空券が必須の観光地にあるホテルにとっては悩ましい問題である。

 こうした問題を解消するため、弊社の宿泊予約エンジン「tripla Book」は、国内、海外旅行の企画、販売を手がける「ホワイト・ベアーファミリー」が提供するダイナミックパッケージとの連携を開始。「tripla Book」を利用する宿泊施設は、公式サイトにて国内大手航空会社及びLCCの航空券付き宿泊プランの販売が可能となった。

 「各宿泊施設において、公式サイトの予約率向上は課題になっていると思われる。ダイナミックパッケージの提供も含めて、公式サイトの利便性を向上させてユーザーに買いやすい環境を整えることは、OTAに流れていたユーザーの獲得につながり、他社の価格に左右されない適切なADR(客室の室料)をキープできるようになるのでは」(ホワイト・ベアーファミリー 取締役の下村信夫氏)

ホワイト・ベアーファミリー 取締役の下村信夫氏
ホワイト・ベアーファミリー 取締役の下村信夫氏

 ADRをキープすれば、ホテル側の収益アップにつながるのはもちろんだが、収益アップによって、特定のサービスや業務をDX化する最新システムの導入などに予算を振り分けもできるようになる。

 そうして人材不足問題が解消すれば、人対人ならではの心がこもった“プラスアルファのサービス”を拡充することにもつながるのだ。“プラスアルファのサービス”に力を入れることで、競合との差別化にもなり、特にインバウンドの訪日客にとっては「異国での特別な体験」として、いつまでも心に残る思い出になり得るだろう。

 現代の消費行動は、その日、その場所、その時間でしか体験できない「トキ消費」にシフトしていると言われているが、ホテルの“プラスアルファのサービス”はまさにトキ消費そのもの。接客はホテル運営に欠かせない部分ではあるが、その真価が問われる時期に来ているのかもしれない。

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