なぜ頭を使うと疲れるのか--精神疲労のメカニズム、脳内の変化を解説

Monisha Ravisetti (CNET News) 翻訳校正: 編集部2022年08月26日 07時30分

 仕事で急ぎの報告書を仕上げるために10時間ディスプレイを見続けたり、長い論文を読解したりするなど、精神的な持久力勝負をしたときのことを思い出してほしい。そうした作業の後は、脳がもうろうとし、世界との関係を断ち切りたいという気持ちにならないだろうか。

オフィスでひとり残業をする人物
人間の脳は、ある時点で思考を物理的に妨げられることがあるようだ。
提供:Getty Images

 そのような感覚は「精神的疲労」と呼ばれる。眠いわけではないが精神が弱り、それまでは出来ていた複雑な思考を続けるのが非常に難しくなる。無理にやろうとしても、うまくできない。

 いい知らせがある。

 この、もうろうとした脳の感覚は、頭の中だけで発生しているのではないようだ。8月11日付でCurrent Biologyに掲載された論文によると、長時間にわたる激しい認知活動が行われると、脳内にはグルタミン酸と呼ばれるアミノ酸の一種のような潜在的に毒性のある副産物が蓄積されるという。この副産物は、人間の意思決定を調整し、根を詰めて考えることをやめさせ、よりリラックスしたストレスの少ない活動に導くと考えられている。これは、燃え尽き症候群から身を守るための、人体に備わる防御手段なのかもしれない。

 この論文の筆頭著者で仏ピティエサルペトリエール大学のMathias Pessiglione氏はプレスリリースで次のように述べた。「疲労は、人間に作業を中断させ、より快適な活動に向かわせるために脳が作り出す幻想だとする理論が有力だ。だが、われわれの研究結果は、認知作業が実際の機能的変化(有害物質の蓄積)をもたらすことを示している。したがって、疲労は確かに人間に仕事を中断させる合図ではあるが、脳機能の完全性を維持するためという、別の目的もあると考えられる」

 「プロのチェスプレーヤーでさえ、通常ゲームを開始してから4~5時間もすると、休息が十分であればしないようなミスをし始める」と著者らは論文に書いている。

 Pessiglione氏ら研究者は、MRスペクトロスコピー法と呼ばれる脳の生化学的変化を測定する技術を使って2つのグループの人々で実験し、この結論に至った。最初のグループには、ストレスの多い経済関連の決断を伴うような難しい認知タスクが与えられた。2つ目のグループには、各質問の間に十分な休憩時間を設け、母音と子音を識別するなど、はるかに簡単な作業を行わせた。

 実験の結果、より高度な思考を強いられたグループの人々の瞳孔は収縮し、脳の前頭前皮質でグルタミン酸のレベルが上昇したことが示された。前頭前皮質は、認知の柔軟性、注意力、意思決定、衝動制御などに影響を与える部位だ。

 この結果を受け、研究チームは関連する他の脳スキャンデータも確認し、非常に強度の思考により脳内にグルタミン酸が蓄積したことで前頭前皮質の活性化が困難になり、認知制御などの前頭前野機能が低下する可能性が高いという結論に達した。ただし論文では、難しい思考とグルタミン酸蓄積の関係について、「われわれの実験結果は相関関係に過ぎず、認知制御の働きが制御されるのは、グルタミン酸蓄積を防ぐ必要性があるからだと見なすことはできない」と注意を呼びかけている。

 因果関係を確認するには、さらに実験する必要がある。論文には「それでもやはり、グルタミン酸の調節は、脳のエネルギー収支の重要な要素だと指摘されており、認知疲労の潜在的な原因として議論されている」とある。

 では、認知疲労に解決策はあるのだろうか。

 Pessiglione氏によると残念ながら解決策はないが、「古き良き方法、休息と睡眠が効果的だろう。睡眠中にグルタミン酸がシナプスから除去されるという証拠がある」という。

 つまり、精神的活動も、肉体的活動と同じように考えればいいのだ。登山では、急がずに休憩と水と食事、そしてしっかりした睡眠をはさみつつ着実に歩くのが最善の方法だ。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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