Metaの最高経営責任者(CEO)Mark Zuckerberg氏は、単一のメタバースの実現を約束している。それは開発元を問わず、あらゆる仮想世界がシームレスにつながった、3Dの広大な世界だ。しかし現在のテック業界の動向を見る限り、未来はむしろ、独自のメタバース体験を提供する無数のデジタルドメインが乱立する世界となりそうだ。
企業によって理想とするメタバースの姿は違う。しかし、どの企業も認識しているのはプラットフォームが持つ力だ。Appleの「iPhone」、騰訊(テンセント)の「WeChat」、Metaの「Facebook」が示しているのは、技術プラットフォームを支配する者は「地代」を請求できるという真理である。iPhone向けアプリを売りたいなら、儲けの一部をAppleに収めなければならない。
同じことがメタバースにも言える、とSingulos ResearchのCEO、Brad Quintond氏は言う。同社はメタバースの3Dインターフェースの1つ、拡張現実(AR)の中で現実世界の物体を認識するための技術「Perceptus AI」を開発している。
Quinton氏は、「『WhatsApp』と『iMessage』は一緒には使えない」と指摘する。前者はMetaの、後者はAppleのチャットアプリだ。「この問題は当面解決しそうにない」
2021年、メタバースの最も雄弁な支持者であるZuckerberg氏が、Facebookの未来をメタバースに賭けると宣言すると、世界中でメタバースが注目を集めるようになった。同氏は、メタバースはオープンな標準に基づいて複数の企業が共同で構築する世界だとアピールする。それは作家Neal Stephensonが1992年の小説「スノウ・クラッシュ」で描いた世界だ。メタバースという言葉を生み出したことで知られるこの小説は、メタバースを人々が言葉を交わし、ケンカし、景色を眺め、互いのアバターを品定めする単一のデジタル世界として描いている。
しかし現実のメタバースは話題先行の色が強く、早晩、収拾の付かないカオスとなりそうだ。サービスごとにログインが必要で、使用する通貨も、連絡先、アバター、アイテムの保管庫も違う現在のインターネットにうんざりしているなら、かさばるヘルメットをかぶってログインしなければならなくなる日を待とう。
大まかに言えば、メタバースとはいずれ多くの人が過ごすことになる3D環境のことだ−−そう語るのは、ForresterのアナリストMartha Bennett氏だ。メタバースには仮想現実(VR)による完全にデジタル化された世界と、拡張現実(AR)と呼ばれるデジタルと現実が融合した世界とがある。適切なヘッドセットがあれば、没入型のビデオゲームで遊んだり、ふさげたアバターで仮想のパーティーに繰り出したり、ショッピングにでかけたり、毎日のエクササイズに新しいデータや風景画面を取り入れたり、現実世界の景色に広告や案内図を重ねて表示したりすることができる。
ある意味では、ビデオゲームやオンラインチャット、不動産サイトのシミュレーションには、すでにメタバースが存在する。今後は没入感がさらに高まり、違和感のない体験が可能になるとメタバース推進派は言う。
メタバースの概念は、3月に開催された「South By Southwest(SXSW)」や「Game Developers Conference」といった業界の最先端を伝えるカンファレンスでも取り上げられた。
Metaが思い描くメタバースでは、仕事の会議からVR卓球、オンライン教育まで、多彩なアクティビティーが行われるようになる。Zuckerberg氏は2021年10月の基調講演で、メタバースは共通の基盤上に構築されると宣言した。同氏はこの講演で社名をMetaに変更することを発表し、この新たなデジタル世界に社運を賭ける覚悟を示した。
「メタバースでは、インターネット上のリンクをクリックするように、テレポートで移動できるようになる。これはオープンな標準に基づいて構築される世界だ。メタバースの可能性を解き放つためには相互運用性が欠かせない」と、Zuckerberg氏は10月のメタバース宣言で述べ、デジタル製品はサービスをまたいで利用できなければならないと主張した。「オンライン世界で購入したアイテムや作ったアイテムは、さまざまな場所で活用できる。特定の世界やプラットフォームに囲い込むべきではない」
このような世界が実現すれば、ゲーム「アングリーバード」を「Android」端末とAppleの「iPad」で遊ぶために2回購入する必要はなくなる。メタバース推進派は、例えばNikeのスニーカーのような独自の価値を持つデジタル資産にはNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を活用できると主張する。NFTは仮想通貨と同じく、ブロックチェーン技術を使って所有権を記録する技術だ。
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