インドの首都ニューデリー郊外のグルガオンで2月23日、ペットケア施設「DCC(Dogs Cats Companions)アニマルホスピタル」がオープンした。日本発のベンチャー企業「A'alda Pte Ltd」が手がける、インド初の日系動物病院の誕生だ。テクノロジーを活用して動物と飼い主の課題解決を目指し、日本での展開も進めているという。同社CEOの奥田昌道氏に話を聞いた。
――創業のきっかけを教えてください。
高校時代は140kmの速球を投げる左腕投手でした。甲子園出場は果たせなかったものの、慶應義塾大学体育会野球部に進み、プロ野球選手を夢見ていました。ところが左膝のじん帯を断裂するなどして断念。あまりの落ち込みようを心配した母親が連れてきた一匹の黒いラブラドール「でん」との出会いがきっかけでした。犬がかけがえのないパートナーになるとともに、殺処分といった課題に気づきました。
――なぜ、動物病院を手がけようと思ったのでしょうか。
殺処分の課題に気づいて、保護施設でボランティアをしたんです。そこでの仕事は人々の善意に支えられており、尊いものでした。でも、殺処分問題の根本解決にはならない、と感じたんです。ちょうど就職活動の時期でしたので、いろいろな方に相談しましたが「そのような課題解決は難しい」「これからはAIやゲノムだ」「とりあえず大企業に入れ」という声を受け、悩みつつも野村證券に入社しました。
――動物業界から一度遠ざかったのですね。
はい。でも3カ月で辞め、ペットメディアを運営するPECOに入社しました。学生時代からお付き合いのあった同社CEOの岡崎純さんに声をかけていただきました。同社で海外事業を担当する中で、海外のペット事情や課題とチャンスを知り、起業を決意しました。
正直なところ、殺処分をゼロにする方法は、まだわかりません。ただ、日本の動物病院は利益率が低く、ペット業界全体の待遇もいいとは言えない。テクノロジーの力で業界の利益水準を上げることがペットと飼い主の幸せにつながる、と考えています。
――具体的にはどのような取り組みを考えているのでしょうか。
まず、獣医も専門医にわかれていくべきで、そのためには規模の拡大、グループ化と、業務のデジタルトランスフォーメーションが必要です。国内でいくつかの動物病院と準備を進めています。
例えば電子カルテ。現在の動物病院向けの電子カルテは、ペット保険を提供する会社によって開発されたものが主流で、決済に特化しているんです。動物病院間でデータの共有もできないので、休日や深夜にペットの体調が急変し、緊急病院にかかるような場合、かかりつけ医からの引継ぎがないので、問診からスタートします。基本情報があれば、迅速に処置にはいることができて、命を助けられる確率も上がります。弊社では、診察に特化した電子カルテを開発しています。
獣医師の業務は、問診、検査、処置。そして経理や総務などの管理業務、と多岐にわたります。問診と検査、管理業務はテクノロジーで解決し、獣医師を処置に専念させたいのです。
――なぜインドに進出しようと考えたのでしょうか。
インドでは酪農が重要な産業で、獣医師の95%が公務員です。大動物専門で、犬猫に対する医療レベルは日本より低い。一方で、犬猫を飼う富裕層は増えており、彼らが支払う診察費は、日本国内とそう変わらない。インド国内のペットに関する課題解決に貢献することができ、かつ持続的なビジネスが成立する、と判断しました。また、インドには優秀なエンジニアがおり、システム開発に適していたという点もあります。
――日本での活動予定を教えてください。
インドの施設向けに開発したシステム(Hospital Managemet System)を日本向けにカスタマイズ中です。このシステムに電子カルテの機能も含まれています。根本的な機能は変わらないのですが、税金や保険について対応が必要で、2021年の春以降に港区にある自社の動物病院に導入する予定です。
中長期的には、このシステムに個体情報や症状を入力すると自動で考えられる病気や検査方法、治療方法などの提案がAIにより行われる機能や、薬剤投与(種類や量)を記入すると在庫が自動で管理できる機能の実装を計画しています。
システム以外では、ライフスタイルに関する課題の解決も進めていきたい。たとえば、住宅領域では都内のペット可マンションに対して、往診サービスの提供を行うことが決まっています。
また、日本国内には世界でも指折りの獣医師がいますが、世界にアピールできていない面もある。弊社の海外展開を通じて、そいういった課題解決もお手伝いしたいですね。
まだ決定的な解決方法を見いだせていませんが、殺処分のない世界を目指して、さまざまなことに取り組んでいきたいと思います。
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