人類はいずれ地球から脱出し、月や火星への移住、さらにはほかの惑星のテラフォーミングへと向かうことになるのか。そのときには一体どんな課題が待ち受けているのだろう……。今までSFの世界の話でしかなかった話題が、本誌CNET Japan主催のオンラインイベント「FoodTech Festival 2020 “食”環境が変革する新時代の挑戦者たち」で取り上げられた。
宇宙や地球外の惑星で暮らす時代を見据え、“食”の観点からその課題を探り、多様な企業・人材の力を連携・統合させる共創プログラムを展開しているSPACE FOODSPHERE。その代表理事を務める小正瑞季氏が講演した。
少年の頃にアニメや映画で見て憧れ、夢にまで見た宇宙ステーションや別の惑星での未来的な暮らし。電動自動車テスラのイーロン・マスク氏やAmazon創業者ジェフ・ベゾス氏らの民間宇宙船事業などへの莫大な投資によって宇宙旅行が現実になろうとしている今、そんな宇宙での生活も絵空事でなくなってきている。
しかし、現実にはいまださまざまな部分で課題があり、置き去りにされたままの問題も少なくない。たとえば「人や物資を宇宙空間に送ることはできているのに、人が持続的に暮らすという部分では全然チャレンジされていない」と小正氏は感じていたという。
近年のフードテックの潮流を宇宙開発に掛け合わせていくことが「宇宙での持続的な暮らし」における課題の解決策につながると考えた同氏は、SPACE FOODSPHEREを立ち上げ、西暦2100年の未来に向けた「ロングスパンの計画」をスタートさせた。宇宙開発を“食”の側面から支援するのが目的で、その技術・知見は現在の“地球上”における食料問題の解決に向けても還元していくという。
世界中で開発されている食に関わるさまざまな技術を、地球上や宇宙で役立てられるようにするのが活動の中心となるが、各企業が個々の技術を1つ1つ適用しようとしてもうまくいきにくい。なぜなら、宇宙開発では月や火星に設置する1つの拠点の中にあらゆる技術を統合することになるからだ。そうした統合のための技術開発をSPACE FOODSPHEREが担おうとしており、「バイオスフィア研究所」と「ヒューマノスフィア研究所」という2つの研究所の設立を目指している。
バイオスフィア研究所は、密閉された閉鎖空間内で「食料の生産、加工を行い、資源の再生を自動化して完全に循環させる施設を作り、技術を高めながら統合していく」のが目的。また、ヒューマノスフィア研究所は、そういった閉鎖空間内で課題となる人の心身の問題を扱うことになる。「宇宙基地を模擬した施設で長期滞在実験を行う。そこでは食が生活の潤いになるので、食をコアとした解決策もデザインしていく」という。
すでにSPACE FOODSPHEREには50を超える企業、個人が参画している。企業・組織については宇宙開発のJAXAに加え、大手食品会社、食料生産用ロボットの開発や資源再生のベンチャー、陸上養殖を手がける企業など分野は幅広い。ほかにも南極観測隊の元隊員で極地建築家の村上祐資氏が代表を務めるフィールドアシスタントや、国立健康・栄養研究所の室長であり「災害栄養のプロフェッショナル」でもある笠岡宜代氏らも加わっているとのこと。産官学連携も視野に入っている。
参画組織名(五十音順)※2020年9月1日時点
計画では、2030年に地球上の食糧危機に対応し、2040年代に月面基地での人の暮らしに技術・知見を適用させ、さらに2050年代には火星の基地でも同様の支援を行っていく。そして2100年には火星やそのほかの星への移住、テラフォーミングを前提にした技術を開発・提供していく、というのが同氏のシナリオだ。
ただし、「地球を見捨てて宇宙に行くという話ではない」と同氏。「海上や砂漠など、今まで人が住めなかった場所でも暮らせるようにする技術も作れるのではないか」と付け加える。2020年の現在は、「どういった技術や知見が必要になるか、議論しながら計画を策定している」ところだ。
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