「再建は鴻海流、日本流、早川流のミックス」--シャープ戴会長兼社長ロングインタビュー前編 - (page 2)

シャープの再建は鴻海流、日本流、早川流のミックス

――社員にメッセージを送るという手法は、鴻海精密工業の副総裁時代にもやっていたのですか。

 そのときにはやっていませんでした。鴻海の時には、一部の事業部門の責任しか任されていませんでしたが、シャープではすべての責任を私が持っています。私が何を考えているのかということを発信し、社員とのコミュニケーションに力を入れて、会社のガバナンスを効かせられる体制にしなくてはなりません。そして、One SHARPという意識を徹底するためにも重要なことだといえます。

――では、社員メッセージは、鴻海精密工業前総裁である郭台銘氏の手法なのですか。

 いや違います。私のオリジナルのやり方です。シャープの再建は「鴻海流」で行われたとよく言われますが、私は「日本式」で再建したと考えています。もちろん、「鴻海流」の挑戦する風土やスピード感といったものを、経営の中に生かしているのは事実です。しかし、私が、大同股份有限公司時代に、日本に駐在し、日本人の上司から学んだこと、そして、シャープの創業者である早川徳次氏の経営の考え方も生かしています。鴻海流、日本流、早川流のミックスだといえます。

シャープの創業者である早川徳次氏
シャープの創業者である早川徳次氏
――それを、「戴流」の経営手法だという表現はできませんか。

 いや、「戴流」というのはありません。私の経営は、まだまだです。勉強しなくてはならないことがたくさんあります。

量の追求によって100年以上続いたブランドが輝きを失う

――シャープの過去3年間の経営で失敗したことはありますか。

 あります。例えば中国ですね。従来から契約していたeコマースサイトを活用し、「量」を追ってしまったことです。それによって、低価格のテレビを売ってしまい、シャープのブランドイメージはダウンしてしまった。そこで、2018年9月から、私自身が中国代表となり、中国市場での巻き返しを図っているところです。一度、落としたブランドイメージの回復は大変です。私は、一定期間中国に滞在し、現地を調査し、今後の施策を考えました。これからいろいろと手を打っていきます。私自身が最前線に行って、チャレンジとスピードアップの手法で改革に取り組んでいるところであり、スピードアップしないと赤字はどんどん膨らむだけです。

――中国以外の海外事業はどうですか。シャープでは、海外比率を全体の売上の8割に高める計画を打ち出していますが、その進捗は。

 売上の海外比率は、すでに7割にまで高まっています。ではなぜ、シャープは、8割という目標を打ち出したのか。その理由は、経営トップとして、明確な方向性を打ち出す必要性があること、そして、海外比率を8割にすることで経営の安定性が生まれます。

 日本の売上げ構成比が5割を占めるという状況で、もし、日本市場に対して、スピード力を持った中国企業が参入してきたらどうなるでしょうか。売上げを守るための経営をしなくてはなりませんし、また、海外での経験が少なければ、それに対抗するためにどうすべきかといったノウハウがなく、ビジネスが大きな影響を受けかねません。さらに、BtoBを成長させるためにも、成長が見込める海外ビジネスの比率を高める必要があます。日本の企業は、言葉の障壁もあり、海外でのビジネスがうまくありません。シャープの社員には、どんどん海外に行ってもらい、言葉を学ぶ機会を得たり、文化を勉強する機会を得たりし、その経験をもとに各国市場でのシェアを高める努力をしてもらいたいと思っています。

 先ほどもお話したように、中国はこれから巻き返しを図っていきますが、その一方で、ASEANは、シャープにとって重要な成長市場であり、私自身、ASEAN各国を何度も訪問し、多くの時間を割きました。ASEANでは、この3年間で60%の成長を遂げましたが、2019年はさらに20%増という成長を目標にし、この成長率を維持していきます。また、北米市場はようやくテレビのブランドを取り戻しました。交渉に時間がかかりましたが、いよいよ北米でビジネスを進めることができる体制が整いました。

――再参入する北米のテレビ事業では、どんな手を打ちますか。

 北米のテレビ事業の再参入のタイミングは、11月下旬のブラックフライデーを予定しています。このタイミングに新機種を投入したいと思っていますが、それが間に合わない可能性もあります。

 北米のテレビ市場に向けては、シャープは、8Kを中心に展開します。4Kテレビは価格競争に入っており、その分野に入っても意味がありません。しかし、120型の4Kテレビであれば、シャープの独自性が生かせます。つまり、北米市場で展開するのは、8Kテレビおよび8Kディスプレイ、そして、120型4Kテレビといった付加価値商品に限定します。

80V型液晶テレビ「8T-C80AX1」
80V型液晶テレビ「8T-C80AX1」

 32型、40型、50型などの4Kテレビは、北米ではやりません。北米のテレビ事業は、テクノロジーアップ、バリューアップ、クオリティアップという3つの方向性を打ち出し、シャープのテレビのブランドイメージは、高級ブランドであるという状況を構築したい。ブランドは価値になります。このブランドイメージをどうつくるのかが、とても大切になります。

――シャープは、テレビ事業において年間1000万台の出荷を目安にしていますね。

 もちろん、その数字はキープしたいと考えています。ただ、それよりも大切なのは黒字化です。黒字化できなければ、1000万台をやっても意味がありません。「量より質」です。量を追求し続けると、高品質なものを作ることをやめてしまいます。数を追求した結果が、2012年頃のシャープです。将来のシャープがそこに戻ってはいけません。100年以上続いたブランドが輝きを失うだけです。

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