「再建は鴻海流、日本流、早川流のミックス」--シャープ戴会長兼社長ロングインタビュー前編 - (page 3)

削減や効率化による「マイナス経営」から新事業を生み出す「プラス経営」へ

――海外事業では、米中貿易摩擦の影響や中国市場の景気減速などの影響が気になりますが。

 タイと中国で生産をしている複合機については、米国向けの新機種からタイで生産を行うことになります。量産試作のところからタイで生産しますから、コスト面でも影響はありません。また、Dynabookは、米国への輸出比率が10%しかありません。商品事業において、米中貿易摩擦の影響は少ないといえます。また、中国国家統計局の発表で、2019年4~6月のGDPが6.2%と減速しましたが、これもシャープへの影響はないと考えています。さらに、日本政府による韓国向け半導体材料の輸出規制に関しても、社内で検討をしましたが、液晶や有機ELには関係がありませんので影響はしませんし、半導体はシャープの中心事業ではありませんから影響はないといえます。

――東証一部への復帰の際に、戴会長兼社長はシャープの「復活」を宣言しました。しかし、事業構造改革は道半ばだという発言もしています。そして、2019年度を最終年度とする中期経営計画は、結果として下方修正をすることになりました。今、シャープが置かれた立場をどう見ていますか。

 東証一部復帰という最優先すべき目標を掲げ、これを達成できたことで「復活」と宣言しました。しかし、その一方で、構造改革はずっと続くものです。やりたいことがあっても、一気にできるものでもありませんし、まだまだやることはあります。その点で、シャープの改革は、いまだに道半ばだといえます。

 今、太陽光パネルの生産を行っている奈良県葛城市の葛城事業所、家電の修理などを行っている大阪市の平野事業所の閉鎖についても検討をしています。平野事業所は、55年以上の古い建物で、耐震性の問題もあり、危険です。ですから壊さなくてはならないと考えています。もともとシャープには製造拠点が多く、それらを残していてもコミュニケーションが難しくなるという課題があり、合理化やスピードアップのためにはさらに集中させなくてはならないと考えていました。大阪府八尾市の八尾工場は広く、交通も便利で、ここを活用することも考えたいですね。また、堺工場をもっとうまく使えないかということも考えていきます。

 こうした取り組みを推進していく上では、削減や効率化一辺倒の引き算の発想となる「マイナス経営」から、新たな価値や新たな事業を生み出していく足し算の発想である「プラス経営」へとマインドを変えていく必要があります。

 拠点の集約や閉鎖、不採算事業の見直しといった構造改革を実行するにあたっても、単なる削減や効率化ではなく、「集約先の拠点で新たな化学反応を起こし、新規事業の創出につなげるためにはどうすべきか」、「単に拠点を閉鎖するのではなく、事業拡大に向け、再活用することはできないか」、「これまで蓄積した技術や販路を有効活用できないか」といった「プラス経営」へとマインドを転換することで、より良い成果へとつなげていくことが可能になります。これによって、新規事業の創出やM&A、協業などを通じた新たな価値の創出を一層加速することができます。

 一方で、中期経営計画の下方修正の要因を分析すると、シャープの商品事業は、厳しい環境にあるものの、依然として成長を維持しています。下方修正に影響したのはOEM/ODMビジネスであり、これは私自身がコントロールすることはできません。OEM/ODMビジネスの取引先が、米中貿易摩擦やスマホ需要の影響を受けるなど、外的な要因に左右されたものです。

 商品事業は成長フェーズにありますが、これから100年続く企業になるという観点から見れば、商品事業をさらに強化することが大切な要素になると考えています。商品事業においては、現在、BtoBが35%、BtoCが65%ですが、これを2021年度までには50%ずつの比率にしたいですね。BtoCに関しては、中国の国有企業が政府の後押しを受けながら、価格をダンピングして、日本やASEAN市場に入ってきており、価格勝負ばかりになりかねない。ここで戦うには限界があります。しかし、BtoBは技術勝負の市場です。シャープの特徴が生かせるのはそこです。

「BtoBは技術勝負の市場。シャープの特徴が生かせるのはここです」
「BtoBは技術勝負の市場。シャープの特徴が生かせるのはここです」

半導体、液晶から学ぶスピード力とコスト競争力の重要性

――改めてお伺いしますが、シャープの強みはなんですか。

 やっぱり創業者の言葉に集約されると思います。「他社がまねするような商品をつくれ」という言葉の通り、これをしっかりやることが大切です。シャープは創業から107年を経過した企業です。100年の歴史を持つ企業は、まさに宝です。アドバンテージがあります。

――8K+5Gエコシステムに力を注ぐ方針を打ち出しています。しかし、まだビジネスにはつながっていません。これはシャープの強みになるのですか。

 例えば、これまでのテレビの歴史を振り返りますと、フルHDが登場したときや、4Kが登場したときにも、最初は、それほどテレビは売れませんでした。新たなものが登場して、普及まで時間がかかるのは当然です。2020年の東京オリンピックでは、8Kでの放送が行われます。また、2022年の中国・北京での冬季オリンピックでも、中国で8K衛星放送が開始されます。そうした動きにあわせて、サムスンやソニー、あるいは中国のテレビメーカーが8Kテレビを製品化しはじめています。

 ただ、シャープが狙っているのは、こうしたコンシューマビジネスではなく、BtoBです。ですから「8K+5Gエコシステム」が重要であり、フルHDや4Kとは違うビジネスをやろうとしているのです。ここでは、セキュリティ、スポーツ、アート、エンターテインメイント、教育、医療もあります。狙いはここにあります。そして、BtoBを50%に高めていくという観点で見た場合にも、8K+5Gエコシステムは大切なものになります。

――一方でシャープの弱みとはなんですか。

 やはり人材不足ですね。新卒者を教育して育てるには時間がかかりますが、それは地道にやっていきます。また、社員の教育、他社との協業、M&Aによる人材確保といったことも同時に行って、人材不足を補っていきます。M&Aは重視しています。

 例えば、シャープの弱みのひとつにITがありました。これをDynabookの買収によって補完できるようになりました。シャープは2019年、「8K+5Gエコシステム」、「スマートホーム」、「ICT」の3つの方向性を打ち出していますが、M&Aもこの3つの領域にフォーカスしていきます。とくに、8K+5Gエコシステムは重要です。インプットの8Kカメラ、編集作業を行うソリューション、アウトプットのディスプレイまでをどうやって事業化するか、協業をどうやっていくか、どうやって拡販するかということを考えていきます。

 この領域はみなさんが思っている以上に広い領域です。足りない部分はまだまだあります。たとえば、医療分野に展開するには、その分野の専門知識が必要です。シャープはその経験が少ない。ここは、協業したり、M&Aをしたりといったことで強化しなくてはならない領域のひとつです。

――毎月、社員に向けた発信しているメッセージでは、「創意」が足りないということを強調していますね。戴会長兼社長が、まだ弱いと感じている部分ではないでしょうか。

 私が要求しているレベルが高いのかもしれませんが(笑)、まだまだ創意が足りないと思っています。例えば、まだ「真似される」商品が少ない。また、AIoTは、ゼロからスタートし、現時点では、271機種がつながっていますが、私は「まだ少ない」とプッシュしています。2019年度中には、400機種以上に拡大して欲しいと言っています。2018年度の2倍ぐらいのペースでやらないと達成できない目標です。これも創意のひとつです。

AIoT機器事業は2019年度累計400機種以上の拡大を目指す
AIoT機器事業は2019年度累計400機種以上の拡大を目指す

 AIoTで世界が変わるのは明らかです。しかし、スローペースでやっていては世の中を変えることはできませんし、意味がありません。

 また、これからの時代は、単機能の商品だけでなく、システム、ソリューション、サービスまでを考えなくてはなりませんが、ここもシャープが苦手としてきたところです。苦手克服のために、組織再編や、異業種との協業、M&Aをしていきたいと思っています。

 社長が打ち出すターゲットは、ちょっとやそっとでは達成できないぐらいのものでないといけませんから、要求するレベルはどうしても高くなりますね。

――社長就任以来、「スピード」の大切さも、社員に徹底していますね。

 スピードについては、3年前とは随分変わったといえますが、まだ改善できるところがあります。もっとスピードをあげないといけません。かつて、日本の企業は半導体で圧倒的な強さを誇りました。また、液晶でも多くの企業が参入し、それぞれに強みを発揮していました。しかし、どちらも、今は日本の企業が強い状況にはありません。スピード力やコスト競争力がないと、現時点で日本の企業が強い分野でも同じことが起こる可能性があります。それはしっかりと捉えておくべき教訓です。

 また、日本にはガラパゴス化という言葉があります。そして、同質化することがうまい。新卒でシャープに入ると、あとはずっとシャープのまま。外部の環境が変わっても、シャープの社員たちは変わっていないということが多々見受けられました。これを打破するには、もっとコミュニケーションを活発化し、外の人たちとも交流してほしい。そうしないと、スピード感もでませんし、シャープがガラパゴスの会社になってしまいます。社員が同質化しない会社であることは大切です。以前は、変わらないことがいい時代でしたが、いまの時代はそうではありません。シャープの社員には、外部のことをもっと知ってほしいと思っています。

――一方で、これまで6月と12月に支給している年2回の賞与を、四半期ごとに年4回の支給にすることを検討していますね。

 シャープでは、業績に貢献した社員には、多くの賞与を支給する「信賞必罰」の仕組みを導入しています。年4回の賞与の支給は、この考え方をさらに加速するものになります。その背景には、半年で評価するのは期間が長すぎるため、業績がいいとか、悪いとかということを社員が感じにくいという理由があります。社員がもっと業績に対する意識を高めてもらうことが狙いです。信賞必罰のさらなる徹底によって、スピードアップと効率アップも実現します。

 まずは日本でやって、海外拠点にも展開したいですね。ただ、これを実行するには、経営戦略会議や人事評価委員会での議論が必要です。シャープオリジナルの施策として、これから検討に入ります。

 ロングインタビュー後編はこちら

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