ベトナムのタクシー配車アプリ市場に学ぶ、現地で成功するための3つの鍵 - (page 2)

ネルソン水嶋2016年01月14日 10時00分

黒船に追随する現地企業の現状

 2015年9月、交通運輸ソリューション事業を手がけるベトトラフィック、携帯通信大手のビナフォン、そしてナムタンフーコックタクシーの3社による共同事業として配車アプリ「Vrada」がリリースされた。先行2社と比べて、機能面で大きな違いはない。しいて挙げるとすれば、事業を開始したエリアが、とある島という点だ。

 島の名前はフーコック島。ここは近年ベトナムでも注目されるリゾート地で、2014年中には100万人が島内の空港を利用。ホーチミン市やハノイ市などの都市部をまず起点としたUberとGrab Taxiは全く手つかずのエリアで、試験運用も兼ねてまずここを制したいというVradaの狙いが見える。その2カ月後にはホーチミン市での展開を発表。さらに、BIDV(ベトナム投資開発銀行)と決済方式での協力を計画しており、クレジットカードの保有率が10%を切るといわれるベトナムで、デビットカードなどの利用によってキャッシュレス決済の実現を目指す可能性が高い。


Vrada

 もうひとつの大きな存在が、大手タクシー会社「Vinasun Taxi」が開発した「Vinasun App」だ。もともとホーチミン市を走る1万2000台のタクシーの3分の1以上を占める最大手だが、アプリのスタートを念頭に2015年中に新たに1100台の投入を発表。合計6000台を超える所有台数を強みに、先行する大手2社を追い上げる。こちらもまずはUberとGrab Taxiが展開していない第三の都市・ダナン市で試験運用を終え、現在はホーチミン市にも展開している。

 ただし、冒頭でも触れた通り、大手タクシー会社には以前から「態度が悪い」「遠回りする」など、運転手のモラルの低さが指摘されていた。それを踏まえると6000台、つまり6000人を超える運転手による運用が容易ではないことは想像に難くない。すでに利用した筆者の友人からも「リクエストを拒否された」などの不満を聞いている。事情はいろいろあれど、多数のタクシーを抱えることは、その数だけ火種を抱えるということであり、所有台数の多さがかえって仇となる可能性もある。

 もともと、UberとGrab Taxiは、既存のタクシー運転手の低いモラルへのカウンタとして受け入れられた側面があった。運転手個人のアプリ運用はもちろん、そうした根本的な課題を解決できない限り、Vinasun Appの先行きは不透明だ。

展開の鍵を握るのは「愛国心」?

 筆者は、今後の展開の鍵を握る要因は「法律」「愛国心」「都市鉄道の開通」だと考える。

 「法律」については、前述の通り当局の姿勢だ。その点で、今回紹介した4つのアプリでは、一見すると最も調子が良いように見えるUberだけが、いまだにグレーというリスクを抱えている。

 次に「愛国心」。ビジネスとは縁がなさそうな言葉だが、ベトナムでは国産Facebookともいえる「Zing」が固定ユーザーを掴んでいるほか、メッセージアプリ分野では「LINE」や「WeChat」などを引き離して国産の「Zalo」がほぼ一人勝ちしている。そして、何よりその根拠と言えるのが、Vradaのリリース時にPeter Nguyen氏が発したこの言葉だ。

 「私は、このVradaによって、我々ベトナム人は、欲しいものは自分で生み出せる民族であると強調したい。ベトナム発のアプリは国民全員に愛されると信じている。また、Varadaは、法律を遵守するタクシー会社としか協力しない。人・タクシー会社・政府の利益を保証できるよう力を尽くしていきたいと思っている(意訳)」

 彼にとって、UberやGrab Taxiが市場を席巻することに対して思うところがあるのだろう。ビジネスライクに考えていると、ベトナム人の愛国心という要素は見えてこない。果たして国民は彼の言葉と精神に呼応するのだろうか。

 そして、全社にとって共通の脅威となるのが、2020年の都市地下鉄の開通。この交通インフラの変革によって、タクシー社会が基盤から崩壊する可能性は大いにある。そのときこそ、配車アプリはラグジュアリー感の演出を求められるかもしれないし、それもまた発展したベトナムの新たな姿なのかもしれない。

ベトナム進出においては「アプリ」「富裕層」「当局」を念頭に

 タクシー配車アプリ市場の分析を踏まえ、日系企業がベトナムに進出する際、3つのことを念頭に置くべきだと考える。1つめは「アプリ」。東南アジアの多くの国にいえることだが、ベトナムでは学生ですら2年ほど前からスマートフォンを所有してきた。彼らは決して先進国に大きな遅れを取っているわけではなく、リテラシーも日本人と同等と考えたほうがよいだろう。

 2つめは、「富裕層」。イオンなどの日系デパートが週末に大勢の人びとで賑わっているように中間層が分厚くなっているとはいえ、あらゆる市場において富裕層は重要な顧客だ。2014年の訪日外国人観光客でも、主要18カ国の中で最も支出が高かった国はベトナムだったが、それを後押ししているのは富裕層だろう。Uberはベトナムでも富裕層をターゲットとしたサービスとなっている。彼らの勘所を知ることは事業に生かせるだろう。

 最後に、「ベトナム当局」。総じて外資系企業に厳しく、税金の徴収も大きいと聞く。参入の規制を緩和したとなれば、彼らは自分たちの目の届かない場所でお金が落ちることを許さないだろう。味方にすれば心強く、敵に回すと恐ろしい存在だ。事業内容にもよるが、普段から情報を集め、人脈を築いておきたいものだ。

(編集協力:岡徳之)

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