電子書籍ビジネスの真相

「出版不況」再び--本・雑誌が売れないのは“活字離れ”のせい? - (page 2)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2014年09月16日 08時00分

本・雑誌が売れないのは「活字離れ」のせい?

 ここまでお話してきたことをまとめてみます。

  • 「紙」+「電子」の売上で見ると、「(総合)書籍」は復活しつつある。「(総合)雑誌」を加えた「(総合)出版」市場についても、ゆるやかな回復が望める。
  • コミックを考慮しても、どうやら同じことが言えそう。
  • 「書店」「取次」は、確かに苦境にあるが、それはビジネス全体の傾向と無縁ではない。
  • 「雑誌広告」は非常に苦しいが、すべての伝統メディアが陥っている傾向でもある。

 ところで、「出版不況」と常にセットで語られがちな言葉として、「活字離れ」があります。たとえば、こんなコメントを目にしたことがありませんか?

 「最近の若者は『活字離れ』が著しい。『活字』を読まなければ、これからの国際社会を生き抜く教養を身につけるのは困難だ。相次ぐ若者の異常な犯罪も、活字離れが遠因ではないだろうか? 活字離れを克服しなければ、出版界の不況脱出も難しくなる。国民的運動が必要だ」。

 これについては、作家の永江朗さんが、2009年にまとめた下記の文章が参考になります。

第29回 読書世論調査データで検証する「読書離れ」のウソ(1)

 また、著名ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」のDainさんも、07年という早い時期に、同様の指摘をされています。

「最近の若者は本を読まない」本当の理由

 どちらも、毎日新聞の「読書世論調査」「学校読書調査」に依拠して、「若者の活字離れ」というのは神話に過ぎないことを明らかにしています。データが古くなっているので、最新の情報を見てみましょう。まず、読書世論調査。

 ご覧のとおり「読書率」はこの20年、小さな上がり下がりはありますが、一方的に下降しているわけではありません。一言付け加えておくと、ここでいう「読書」にはコミックは入っていません。小中高生を対象とした学校読書調査の結果は、以下のとおり。

 こちらは最近10年の傾向ですが、読書量はむしろじりじりと上がっていることがわかります。

 歴史ある読書調査としては、他に家の光協会が実施している「農村読書調査」、全国大学生協の「学生の消費生活に関する実態調査」があります。「農村読書調査」では、下記のとおり、80年台から比べるとやや読書率が下がっていますが、この10年ほどは横ばいのようです。また、下がっているのは主に「雑誌」が原因で、「書籍」にはそれほどの変化は見られません。

 他方、全国大学生協の調査による「大学生の読書時間」では、この10年はそれほどの変化は見られません。

 さらに、公共図書館の貸出数は、以下のとおりここ数年は横ばいです。

 他に、読書時間についての統計などもあり、1年単位で見ると多少の上下は確認できますが、10年~数十年単位で「活字離れ」を決定的に裏付けるようなデータは、発見できませんでした。

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