植村:Reservationですとか、Guaranteedに関しても、いくつか類型があります。先ほど挙げた独自の世界観を売りにしているコンテンツでの場合、広告主はそのコンテンツを指名しており、コンテンツがGuaranteedなのかどうか(掲載予約が保証されているかどうか)が最優先事項になるでしょう。一方で、広告目的によっては、広告配信先のコンテンツではなく、掲載時期やボリューム(掲載総量)等、つまりはSOV(Share of Voice)のGuaranteedが優先されるケースもあります。
純粋なプログラマティックの問題は、掲載面・コンテンツや掲載のタイミング、SOVの予約が出来ないということです。企業によっては例えば年末に集中的に売れるなど、明確な需要期のある商品を持っていることもあります。この場合、需要期の掲載価格が高いとしても、広告主は競合他社の同時期の広告掲載ボリュームも考慮しながら、広告枠を確保しなければならないわけで、それが全て予約型で完売してしまっていたらアウトなわけです。
一方、メディア側から見れば、広告主をGuarantee(予約保証)したいという意向もあります。それは、売上計画・事業計画をしっかり立てるためでもあり、自社メディアのブランドを守り向上させるため、広告主やクリエイティブを選別したいという意図です。結果的に、広告主、メディア、クリエイティブ、さらにコンテンツもすべてがプレミアム価格なのか、動画広告がどういったマーケットプレイスにポジショニングしているのかを見極める必要があります。
また、コンテンツや掲載のタイミングなどによって、適正な価格は異なるため、例えば価格を低く販売できる枠であれば、ターゲティング配信を活用するといったことも考えられます。こうした販売手法や売り方については、メディアと広告代理店双方でコントロールしていくということだと思っています。それがビジネスの知恵であって、交通機関にせよホテルにせよ、優良在庫に限界がある市場において、商取引や価格決定を市場に丸投げすることはありえません。
電通としては、動画ということのみに拘泥するのではなく、新たな技術やトレンドにキャッチアップし、また創出しながらも、これまでのノウハウを活用していくことで、より顧客目線に立った事業を行っていきます。動画在庫を取り扱っていく上では、広告枠やコンテンツ、ターゲティングによって単価も適正に設定します。オンラインであっても、電通の商売ノウハウは活用できるものだと思っています。
植村:電通には、113年の歴史がありますが、この間、常に日本社会の可処分時間に寄り添って事業を行ってきました。電通自身が新たなマーケットを創出してきたこともありますが、根本として電通は、人々の利用する主要なメディアが新聞、ラジオ、テレビと移り変わると同時に、その事業領域を拡張し、重心を移行させてきた歴史があります。今後、さらに動画視聴がインターネットへと移行が進むのであれば、インターネット事業に重点を移していくことになるのかもしれません。
インターネット動画に関しては、現時点ではその動画視聴者がどれだけ増加しているのか、注目を集めているのか、そもそも安心してナショナルクライアントに提案できる優良な動画コンテンツやメディアが揃ってきているのか、社会や業界の動向を注視しています。仮に、Huluの視聴者数が急増していたとしても、その分、競合するインターネットビデオサービスの視聴者が減少したとすれば、市場としてはゼロサムであって、電通として大幅に事業領域を変更するところまではいかないかもしれません。分析にあたっては、プレミアム市場とフリーな市場を区別して捉える必要があり、それぞれの市場における需給バランスを見極めていかなければなりません。
電通としては、せっかくのインターネット動画コンテンツの価値と市場価格が下がってしまう事態は避けたいと思っています。クライアントが資金を投入するだけの価値のある市場を創っていきたいと思っており、一方でコンテンツ制作者に正当な対価が実現しませんと、健全な供給は継続しません。現在は潮目を見ている側面もありますが、動くとなれば迅速に動けるような準備も大切でしょう。タイミングが今年なのか、来年なのかは、まだ分かりませんが、今後、電通が大きく舵を切る可能性もあるでしょう。社を代表しているわけではないので、一般論ばかりで表現の歯切れは悪くなりますが、いずれにしても、メディアが変わったとしても、可処分時間に寄り添っていく基本的な姿勢に変わりはありません。
新しいマーケットの創造については、一定規模の先行投資があれば、コンテンツ制作にも弾みがつき、クライアントである広告主も資金を投入することになります。あるいは、広告主の資金が潤沢に行き渡れば、良質なコンテンツの制作が進みます。順序の議論はありますが、メディア、広告主、あるいは広告代理店の誰が先行投資をしてマーケットの創造をリードするのか、著作権などの権利処理テーマ等も踏まえて、新しい取組もありましょう。
米国と日本の市場の比較も含め、丁寧に解説いただき、私自身も非常に学びが多くあったインタビューでした。米国の事例を用いて、日本のマーケットでもこうあるべき、といった言い方は一概にできないと思いますが、米国の成功事例をどのように日本市場で役立てることが出来るか、ということを考察することは意味があると思います。
一方で、電通はインターネット動画広告に対して検討しており、各方面との協議も進めているとの印象を持ちました。テクノロジだけではなく、業界各社と歩調を合わせ、マーケットを作り上げるために、どのような手を打つ必要があるのか、慎重に、その時を見極めているようにも思います。植村氏の指摘のように、新たなゲーム・チェンジャーの出現により、日本でのインターネット動画広告市場は、一気に新しい局面を迎える可能性もあると思います。電通も含め、そのゲーム・チェンジャーが誰になるのか、非常に興味深いところです。
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