こうした行為が親切で役に立つものなのか、それとも恐ろしいほど侵害的なものなのかを決める要因は無数にあり、それらの要因は変化していくものだ。人によって要因が異なるというだけでなく、それぞれの人間自体が変わり、人々の生活におけるGoogleの役割が変わるのにつれて、刻一刻と変化する。
「気味の悪い一線」の曖昧な位置を照らし出すものとして、米国家安全保障局(NSA)による極めて侵害的な行為が明らかになったこと以上の好例はないだろう。NSAは、データ盗聴や暗号解読のほか、インターネット大手企業に保存された情報の開示を要求していた。1年前なら、ユーザーのプライバシーと、ユーザーの考えを知ろうとする広告主の欲望のバランスを取りながら、Googleが個人情報を取り扱っていることに、不安を感じることはなかったかもしれない。しかし、スパイ活動を行う新しい組織が登場し、Googleがその組織からのデータ開示要求に抵抗する余地はほとんどない。
Googleという名前が生まれたのは、1997年、スタンフォード大学で博士課程に在籍していたLarry Page氏とSergey Brin氏が構築した検索エンジン「BackRub」を改名したときのことだ。両氏はその1年後にGoogleとして起業し、口コミによって急速に新規ユーザーを獲得していった。
2000年はGoogleにとって極めて重要な年だった。強力な検索機能から広告で利益を上げ始めたからだ。
多くの人がMentalPlexを面白がっていたときからわずか2カ月後、Googleの検索インデックスのウェブアドレス数が10億に達し、世界最大の規模になった。10月には「AdWords」を開始している。AdWordsは、ユーザーがGoogleに入力した検索語と広告をマッチングするセルフサービスシステムだ。
AdWordsは馬鹿の一つ覚えだと批評家たちに酷評された。しかし、たとえGoogleの収益源の数が少ないとしても、AdWordsは非常に収益力の高い技術であり、Googleがオンラインサービスに進出するための資金を捻出し、企業買収を行うことを可能にした。広告売り上げはGoogleの売上高の約97%を占める(2012年は425億ドル)。ただし、現在ではグラフィカルな「ディスプレイ」広告も含まれるようになった。
手元資金の増加とともに、Googleは検索サービスを拡大。2011年には「Internet Explorer」(IE)向けのツールバーを公開し、検索がより簡単になり、検索クエリの量が増大した。英語以外の言語にもサポートを拡大して、2002年前半までに72言語に対応している(実用的な多くの言語のほかに、Swedish Chef(「マペット・ショー」のキャラクター)の言葉やクリンゴン語(「スター・トレック」に登場するクリンゴン人が話す言語)も含まれる)。これにより、Googleは世界的なブランドとなった。
Googleは、動画、ショッピング、画像、書籍内の文言、特許など、多数の特化型検索サービスを構築した後、それらすべてを再び統合して、単一の「ユニバーサル検索」インターフェースを作り上げた。こうした新分野に進出しても、データを求める同社の欲求はとどまるところを知らない。2001年の時点でGoogleのデータベースには2億5000万枚の画像が登録されていたが、それから4年も経たないうちに画像数は11億枚に到達。その後、この画像データベースはGoogleの画像認識データベースを支える基盤となった。
Googleの検索結果の質の高さはAltaVistaからAsk、Microsoftまで、有望な競合をすべて打ち負かした。現在では、全世界の検索トラフィックの約3分の2をGoogleが獲得している。しかしGoogleは、別の手段によって、良心的な企業というイメージを築き上げることにも取り組んだ。非営利組織に無料の広告を提供し、奨学金に出資したほか、外部の開発者が自分のプログラムをGoogle検索に簡単に組み込めるようにし、多額の賞金が出るコーディングコンテストのスポンサーにもなっている。また、検索ページのロゴを、コンピューティング分野のビジョナリーやアーティストに敬意を表する「Doodle(ドゥードゥル)」に置き換えることもあった。高度な知識を持つテクノロジストさえも、増大するGoogleの支配力に懸念を表明するのではなく、逆に魅了されて同社を支持するようになり、Googleのやり方こそが正しい道だと確信する。
こうしたGoogle創設後の初期の段階では、バランスを取ることが今よりも簡単だった。検索広告もあまりプライバシー侵害とは見なされなかった。検索クエリが広告主に提供する情報は、極めて限定的かつ的確であり、意図的に共有されたものだったからだ。
問題が深刻化したのは、Google検索によって、公開を望まない人々についての情報が公開されてしまったときのことだ。しかし、Googleはこの状況においても、単に他者が作成したウェブサイトを皆が見られる状態にしているだけで、批評家は問題を明らかにした企業を非難しようとしている、と主張することができた。
もっともな主張だが、だからといって、社会が新しい水準の個人情報開示への適応を余儀なくされた、という事実は変わらなかった。恋愛対象になりそうな人をGoogleで検索したり、自分のオンラインでの評判を管理したりすることが日常的なことになっている。
だが、人々はそれを我慢した。より多くの情報を手に入れたいという欲求が、侵害に対する怒りを上回ったからだ。旧世代の人々がしてきた愚かな行為の証拠は書類整理棚やフィルムが詰め込まれた靴箱の中で朽ち果てるが、新世代の人々は、デジタルデータは容易にコピーや共有が可能という前提の下で育っている。
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