アナリスト名指しでの批判は正しいのか--楽天の開示情報に集まる疑問の声 - (page 2)

岩本有平 (編集部)2013年07月04日 18時00分

 「ご自分を棚に上げて批判するのはいかがなものか」――三菱UFJモルガン・スタンレー証券の広報は語気を強めて語る。

  • 2012年度通期決算(左)と2010年度通期決算(右)の決算短信。事業セグメントのくくりが変更されている

 実は楽天は、2011年度以降何度も事業セグメントを変更している。それにともなって、以前開示されていた細かな事業別の業績が開示されなくなっている。そういった背景もあることから、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は(1)について、「我々は限られた情報の範囲内でベストエフォートな予測をしている。開示のないものを無理にセクターごとに分けるというやり方もあるが、我々としてはそれはできない。『事業別に分析しろ』とおっしゃるのであれば、(楽天自体が)開示を後退させている会社であるということも理解頂きたい」と語る。

 また(2)に関しては、楽天が次年度の業績予想を開示しておらず、不確定要素が高いと説明。また国ごと、セグメントごとに赤字黒字の会社があると予測されることから、「そういった内容をマトリクスで分析しないと分からない。従って暫定的に前年度と同様にした」と説明。ただし、6月21日のレポートでは法人税減税や一時的な要因も考慮されていなかったため、楽天からの指摘を受けて修正したとした。

 さらに(3)には、「理論株価を算出するには単純なPERからさまざま方法がある。我々は株価変動が説明できないと意味がない。我々なりにきちんと分析してバリエーションを出している。それに対して会社が『ファイナンス理論が違う』というのはいかがなものか。これはマーケットが決めるべきだ」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)とした。

  荒木氏はトムソン・ロイターが発表した2011年の日本株アナリストランキング、日経ヴェリタスが発表した2008年、2009年の人気アナリストランキングでそれぞれIT部門の1位となっているアナリスト。ある企業のIR担当者は「F5キーを連打して広告の表示割合までチェックするようなデータオタク。ストーリーで人を見るのではなく、エクセルをはじくタイプ」だと同氏を評する。同社広報も「市場でも評価が高く、いい加減な分析をするアナリストではない。(楽天は)『分析をしていない』と言うが、そもそも楽天の開示が後退している中でのベストエフォートな分析だ」と語り、名指しでの批判について「異例中の異例の事態」と非難した。

意図する投資家やアナリストだけに情報を出すのか

 一連の騒動について、金融業界関係者や企業のIR担当者からは楽天の“名指しでの批判”に対する批判の声が少なくない。楽天は毎年セグメントを変えており、またネット企業でありながら金融のセグメントが大きい企業だ。そのため、インターネットセグメントのアナリストが間違った認識を持つ可能性はないとは言い切れない。あるIR担当者は「適時開示、任意開示で伝えるかは別として、指摘すること自体は評価できる行為」と語る。

 だが、本来投資家、アナリストに対してフェアに情報を開示すべきところでアナリスト個人を名指しで出禁にするという情報を開示すことについては、「信じられない。事業会社は自らが意図する投資家やアナリストだけに情報を出すことが許されるのか。情報は平等に提供されるべき」(別の関係者)という。「アナリストの意見を取捨選択して投資の判断をすることでこそ市場が適正に運営される」「同社のレポートがフェアなのか判断できなくなる」「カバーするアナリストが減るということは、投資家にとっても不利益」といった声もあった。一方では、「レーティングを出す側も厳しく見られて当然」「アナリストのレーティングなんていい加減ではないか」という意見もネット上で見られた。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券では、「今後も外部データからの分析、予測をベースに適切な株価判断ができるのであれば」と条件付けした上で、荒木氏による楽天のカバレッジを継続させたいとしている。

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