縮小均衡は求められた解なのか--日本の「モノづくり」の原点を考える - (page 2)

永井美智子(編集部)2008年03月14日 08時00分

 発展途上国のメーカーが見よう見まねで、似て非なるモノを作っていた時代は過ぎ去り、本家同様のプロセス技術を獲得し、実質的に同じ機能の製品を作れるようになってしまった。それが現実であり、ゆえにこれまでとは質的に異なる市場競争のルールに対応し、より積極的に新たな競争のルールを構築することが必要不可避となっている。

 反面、汎用的な電子部品の製造では、日本は固有のポジションを構築している。いったんコモディティ化の極みにまで達してしまえば、そこから先は寡占状態になりうることを象徴する。ただ問題は、これら製品の単価がそれほど大きいものではないことだろう。枯れたプロダクトを扱うのもビジネスとしては悪くない。ただ、今、求められているのは、枯れたプロダクトによる勝負ではない。

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 「苦しいときほど、原点に立ち返れ」という教えがある。そんなとき、「モノづくり」立国日本はどこに立ち戻るべきなのだろうか。

 20世紀型製造業が台頭し、大量生産、大量消費で大きな成長を遂げ、1980年代の大きな成功体験の礎となった1970年代なのか、それとも?

 議論が分かれるであろうが、僕は特定の時代や経験ではなく、より高度なプロダクトを作り出すことに価値を置いた気風にこそ立ち戻るべきではないか、と思う。多くの製品の開発者や事業の創設者たちは、その製品や事業による自らの成功を願うと同時に、多くの人たちへこれまでになかった新たな価値観や、今までの経験を覆すほどの利便性、あるいはそれらに伴う感動や興奮をもたらすことにこそ、その意義を感じていたのではないだろうか。

 組織化され、構造化された現代の企業の中では、そういった気風に触れることは難しい。もちろん、そういった気風が途絶えてしまった、あるいは現在世に出ている製品の多くがそういった気風に支えられてこなかったというつもりは全くない。しかし、そんな努力を背景に持った製品が存在しているとしても、それらを購入し、持ち、使う悦びを、はたして僕らはどれほど味わえているだろうか。消費する側と相対したところに宿る気風にこそ、日本のモノづくりの源泉があるのではないかと思う。

 NHKの「プロジェクトX」のような過去の感動のストーリーを求めるのは、あるいはデザイナーたちの「顔」が見えるデザインプロダクトへの注目などは、そんな気風や気持ちへの飢餓感から生まれてきたのではないかと、ときおり感じる。

消費者と相対する気風から生まれるもの

 常々、「現在の日本の最大の競争優位点は、優れた消費者の感性であり、その存在感である」と、発言してきた。そして、モノづくり大国日本のあるべき姿とは、特定の職人さんたちや産業遺産的な過去の栄華ではなく、優れた消費者と真剣に相対してきたプロフェッショナルたちに支えられたものであろう。現在、それが失われたわけではないとは思う。しかし、依然として過去の成功体験に拘泥するが故に、今までとは異なるルールが求められていることに組織として対応しきれず、可能性を自らの内部に封印してしまっているのではないか。

 例えば、勝者として上げられることの多いApple。iPhone向けのSDKを公開し、iPhoneを新たなアプリケーションを開発し活用するプラットフォームとして位置づけなおすことで、ハードウェアの新たな価値づくりに成功している。ただ、それもクラシックな手法でだけではなく、ひと捻りもふた捻りもしている。例えば、サードパーティのアプリケーションをユーザーが購入してダウンロードできる「App Store」の開設(これは以前も指摘したとおり、iモードからの学習だろう)や、高名なベンチャーキャピタルKleiner Perkins Caufield & Byersと組んだiPhoe向けアプリ開発企業への投資事業「iFund」の構築だ。

 確かに、Blu-ray Discに収められた映像を大画面フルハイビジョンの美しい画面とサラウンドの迫力ある音響によって楽しむという感動もあろう。しかし、もう僕たちはそれだけでは満足しきれない。僕らは、どこかの誰かと何らかの形で関わりあいながら(といっても、それは妄想的なものでもいい!)、何かこれまでとは違う経験を生み出すことを求めているのだ。

 縮小均衡という選択肢を選びつつある家電メーカー。そんな中であっても、今一度、これまでのルールに拘ることなく、新たな、想像しきれないほどの感動を僕らのために作ってはくれないだろうか。そのためにはこれまでの製品の分類や概念とは別の観点からのアプローチが必要なのだろうが、その勘所はきっとどこかに、すでに持っているはずだ。

 僕たちは、モノを造る/作るだけではなく、創り出すことに、価値を感じあえる機会こそを求めているのだ。

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