また、加入電話網事業を中核とした、NTTから分離独立させた移動体通信事業者のNTTドコモは、NTT本体とは異なるイノベーションへの対応姿勢をiモードによって半ば偶然に確立することに成功し、利益面で間接的にNTTグループ全体の下支えを行った。
「イノベーションのジレンマ」からの学習に従えば、一度破壊的なイノベーションへの対応を誤ったレガシーな組織は、その市場からの退出を余儀なくされるはずだ。しかしながら、上述のように2度の屈折を経て、「未来の衝撃」はNTTグループが四半世紀前にイメージしたものとは異なるテクノロジー(B-ISDNではなくTCP/IP)や異なる体制(NTT1社ではなく地域・長距離や固定・移動で区分された企業グループ)ではあるものの、半ば同じ「未来予想図」へと帰着してきた。
そして、一時的な麻痺からさめた今、NTTはあるべき軌道=既知の未来へと向けて、通信が先駆けて実現してきた「機能による事業のアンバンドル」に従ってレイヤ別の事業戦略を実践するという意思表明を行ったに過ぎない。
今回のNTTの中期経営戦略は、本来ならば時代錯誤な、アナログ固定電話事業における地域分割という、そもそも日本という状況から見ても適切性に疑問が生じかねない選択によって生じた「未来の衝撃」の遺物からの逸脱を果たしただけある。それを再々編というのは形式的な部分に目をとらわれすぎているとしか言いようがない。ようやく、先行する比較的自由な選択が可能であったプレイヤーたちと同じ条件が整ったに過ぎないのではないか。
もちろん、それはかつての公社時代の「独占」体制の再来という心理的な不安を醸し出すものでもあろう。とはいえ、すでに垂直統合的な独占は体制的にも不効率であるということは誰の目にも明らかだし、加入回線網のADSL事業者への開放という成功体験もあるわが国の市場では、その姿勢を崩すことがなければ決して全体最適という視点ではマイナス要素は少ないのではないかと思える。
もちろん、不安がないわけではない。前述したように、1990年代前半までに想定されていた未来予想図に現実が追いつき、未来の衝撃波がようやく過ぎ去ったに過ぎないのだ。これから、本当の意味での「未来」が始まる。そこでは、これまであったような「既知の未来」のイメージは薄く、透明性に欠けている。あるべき世界のビジョンが提供されていないのだ。
そんな不確定性の高い時代が始まった。ここでこそ、NTTの本質的な体力が問われるのではないか。かつて世界有数といわれ、日本の頭脳とまで称されたNTT研究所は、いまだ健在なのか?また、グループとして、従業員数では他通信事業者を明らかに圧倒する規模を誇っているが、それはむしろ足かせにはならないのだろうか・・・。
はたして、正しき轍(わだち)にようやく戻ることのできたNTTは、これからどのような未来を選択するのだろうか。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
パナソニックのV2H蓄電システムで創る
エコなのに快適な未来の住宅環境
OMO戦略や小売DXの実現へ
顧客満足度を高めるデータ活用5つの打ち手
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
企業や自治体、教育機関で再び注目を集める
身近なメタバース活用を実現する