Linuxはサーバ分野で市民権を得ることに成功し、コンシューマエレクトロニクス分野にもその存在感を発揮し始めている。しかし、マイクロソフトが支配するデスクトップ分野では、まだLinuxの声は小さく弱々しい。
そのような中、ターボリナックスはデスクトップ用Linux OSの「Turbolinux 10 Desktop(10D)」を10月2日に発表した。Windowsとの親和性を重視し、国産Linux OSの強みを生かして日本語対応を強化している。
ターボリナックス代表取締役社長の矢野広一氏はオープンソースを雨水に例え、誰でも無料で利用できるが飲用には適さないと語る。そして、ターボリナックスは誰でも安心して使えるミネラルウォーターを提供する企業を目指すという。
3980円からという価格の安さ、操作性やWindowsとの互換性という点で様々な改良を施した10Dだが、そこにはまだ壁がある。マイクロソフトのメーカー囲い込み戦略にターボリナックスは立ち向かうことができるのか。矢野氏に話を聞いた。
ターボリナックス代表取締役社長兼CEOの矢野広一氏は「Turbolinux 10 Desktop(10D)」の発表会で熱弁をふるっていた | |
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---まずは10Dの販売戦略について聞かせてください。10Dのターゲットはどのような層ですか。
今までの(10Dの前のバージョンである)「Turbolinux 8 Workstation」を利用していたユーザーは、Linuxのヘビーユーザーでした。それはRed HatでもTurblinuxでも、とにかく新製品が出たら買ってみるという層です。今までのコンセプトで3980円に値段を下げても、新しいユーザーは生まれません。Linuxは使いにくいからです。
今回はヘビーユーザーだけでなく、中級レベルのオフィスユーザーが(Linuxの世界に)入ってこられるよう、使いやすいものを作ることを意識しました。それにより、市場を広げる戦略です。この市場は日本でおそらく100万本か、それ以上になると思います。
今まで企業のPCをWindowsからLinuxにしようという話はほとんどありませんでしたが、今年の後半から増えてきています。2004年から、企業に大量にLinuxを入れるケースが出てくるのではないかと見ています。
今回の10Dは非常に使いやすいものに仕上がっています。アクセサリのソフトが少ないことが長らくLinuxの弱点とされてきましたが、逆にアダルトソフトや違法ソフトも少ないので、会社で使うPCにインストールされてしまう危険性が少なく、会社としては統制がしやすいというメリットがあります。会社がそのようなポリシーを持っていれば、採用はもっと進むでしょう。
---デスクトップ用Linuxの売りは。
価格の安さや安全性もあります。しかしそれ以上に、Windowsを使わなくてはいけない理由がありません。私も(WindowsとLinuxを同一PCにインストールする)デュアルブートでLinuxを使っていますが、今まではWindowsのソフトを使いたい場合、一度Linuxを落としてWindowsを立ち上げ、メールでファイルを自分に送ってLinuxをもう一度立ち上げてファイルをメーラーから起動する、ということをしなくてはいけませんでした。しかし10DではLinuxを立ち上げたまま、Windowsのソフトを直接取りに行くことができます。
さらに、10DではインスタントメッセンジャーにGaimを利用しています。これを使うと、Yahoo!やMSN、AOLのメッセンジャーを1つの画面で使うことができます。そうしたらもう、Windowsを使う理由はないですね。価格も安いですし。
---10Dの販売目標は初年度10万本ということですが、その後はさらに伸びていくとお考えですか。
従来のTurbolinux 8 Workstationのマーケット規模が年間約4万本でした。それを今回10万本にするということは、今までの計画の倍以上ですから、相当市場を広げようとしています。今までLinuxに触れたこともなかった層にまで10Dが広がれば、それこそ年々倍に売上が伸びていくでしょう。ただ、そうなれば競争も激しくなると思います。
---同じデスクトップ用LinuxのLindowOS 4.0がエッジから販売されていますが、ユーザーの意見を取り入れるために販売前に行われたインサイダープログラムでは、ユーザーの環境によってはOSのインストールができない、といったトラブルがありました。この問題をどう分析されますか。
「(デスクトップ用Linuxを)やってみたら思ったより大変だった」というのが正直なところではないでしょうか。ターボリナックスやRed Hat、SuSEなどはメディアから叩かれながらも何年もビジネスをしてきましたから、お金では買えない経験値があります。我々からすると今回のことは予想通りの結果という感じです。
Lindowsには期待している部分と恐れている部分があります。期待しているのは、今後5、6年の経験を積めば、よりいいものになるだろうという点です。「やってみたがトラブルが多く大変で、思ったより儲からないからやめます」というようにはならないで欲しい。OSはゲームソフトとは違います。売った以上はきちんと育て上げていくべきです。地道に頑張れば、それこそターボリナックスが競合と認める良いものになる。そこまで頑張って欲しいと思います。
恐れているのは、OSの知識もない、罪のないユーザーが、「LindowsではWindowsのアプリケーションも動きます」という話を聞いて使ってみたら正常に動作せず、OSのインストールすらできずに「Linuxってこんなもんか」と思って去ってしまう。それが一番怖いんです。
そうではなくて、Linuxでは使えないソフトがあるとか、本体の価格は安くても毎年利用料がかかるとか、ユーザーに誤解のないようにマイナスの部分もきちんと伝えないといけません。
---デスクトップLinuxの普及の鍵は何でしょう。
それは振り返って見たとき、後からわかることです。ただ、いくつか思いつくものはあります。例えば公共機関や学校などでクライアントPCにLinuxを利用すれば、それに他の人々が引っ張られるかもしれません。また、IBMなどはリサイクルPCにLinuxを使いたいと言っています。8月に起こったMSBlastなどのウイルス騒ぎも1つのきっかけになるでしょう。
---10Dはどのようにして販売していきますか。
現在は量販店のパッケージ販売が主流です。最終的にはPCにプリインストールされたモデルを増やしていきたいと思っています。ただし日本では、PCメーカーとマイクロソフトの契約の問題があって難しいんです。
ですから、現状のターゲットは(ノーブランドの)ホワイトボックスベンダーです。マイクロソフトと特に契約をしていないメーカーのプリインストールモデルを増やしていきたいと考えています。
それから、日本以外では話が違ってきます。マイクロソフトを刺激したくないのでメーカー名は出せませんが、ある大手ベンダーとは、インドとタイの2カ国で、今年10万台ほどプリインストールPCを出荷しています。
---今年4月に施行された、家電リサイクル法の影響はありますか。
中古PCにTurbolinuxを使いたいという引き合いはあります。ただ、ターボリナックスはkernel 2.6という最新のOSを使うというスタンスを取っています。2、3年前のPCではスペック的に最新のLinuxカーネルに対応できません。そういった点で、技術的に越えなくてはならない壁がありますね。
---Linuxは対応アプリケーションが少ないという問題がありますが、この課題はどう克服していきますか。
サーバ用Linuxについては峠を越したと思っています。Turbolinuxはオラクルや(BEAの)WebLogic、(IBMの)Websphereなどに対応できたことが、勢いを呼んでいます。例えばNTTデータのintra-martもサポートされるようになりました。現時点で、サーバOSのほうで困っているものはほとんどありません。こちらから働きかけなくても、アプリケーション側から対応してくれるようになってきました。
クライアント用OSの場合については、ブラウジングやデジカメの写真編集など家庭で利用するソフトの80%は揃っています。今、アクセサリソフトが売れているソフトメーカーを色々回って話をしていますが、Turbolinuxだけでなく、Linux自体に対する反応がまだ鈍いですね。
例えば教材や子ども向けのソフトなどはWindowsにしか対応しないものが多いです。こういったものについては、今後ソフトメーカーとねばり強く交渉を続けていきたいと思っています。
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