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北里大学の研究グループが脊椎動物の性システム進化の一端を解明 ~オス決定遺伝子はメス化にも関与する~

北里大学 2016年12月07日 14時05分
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北里大学の回渕修治特任助教、伊藤道彦准教授の研究グループは、オス決定遺伝子dmrt1の“プロモーター”≪注1≫を各種の脊椎動物で解析した。生殖巣は体細胞と生殖細胞から構成されているが、解析の結果、脊椎動物共通と想定されていた体細胞での“DMRT1駆動型オス化システム”≪注2≫が初期の脊椎動物では存在しなかった可能性が示唆された。また、脊椎動物進化過程でダイナミックな“プロモーター“変遷が起きたことも分かった。さらに、ツメガエルでdmrt1発現を生殖細胞特異的にノックダウンすると、遺伝的メス個体に精巣構造(性転換)が観察された。すなわち、dmrt1は、体細胞発現はオス決定に、生殖細胞発現はメス決定に寄与すると考えられた。この研究成果は、2016年12月7日、分子進化学の国際学術雑誌「Molecular Biology and Evolution」に掲載された。


■ポイント
・dmrt1は、初期の脊椎動物では生殖細胞で機能していたが、魚類の祖先で、第1イントロンの一部が生殖巣の体細胞用プロモーターに分子進化し、オス化(精巣化)機能を獲得したと考えられる。【図1】
・両生類のdmrt1は、2つのプロモーター((1)生殖細胞用:“非コードエクソン1”≪注3≫上流、(2)体細胞用:第1イントロン部)が存在する。【図1】
・dmrt1は、爬虫類と哺乳類の祖先で“非コードエクソン1”が消失し、プロモーターが1つに集約された。【図1】
・ツメガエルでは、dmrt1の体細胞での発現がオス決定を誘導するだけでなく、生殖細胞での発現がメス(卵巣)決定あるいはメス化に寄与する。【図2】

■背景
 北里大学理学部の伊藤道彦准教授らは、以前、ZW/ZZの性決定機構をもつアフリカツメガエルで性決定遺伝子dm-Wを発見した(Yoshimoto et al., 2008 PNAS;現在、Wリンク型、およびメス決定型の性決定遺伝子として、脊椎動物ではこの遺伝子しか報告されていない)。dm-Wは、dmrt1の優性不活性型として重複進化した遺伝子で、dmrt1のオス決定機能を抑制してメスを誘導するアンチオス形成型の性決定遺伝子と考えられる。一方、dmrt1は、哺乳類マウスでは生後の生殖巣体細胞のオス決定とその維持に、鳥類ニワトリ・両生類ツメガエル・魚類メダカでは初期生殖巣分化期からオス決定・オス化に関わっており、“DMRT1駆動型オス化システム”は脊椎動物の性システムの基盤として普遍性があると考えられていた。

■研究内容
 北里大学の回渕修治特任助教、伊藤道彦准教授らの研究グループは、脊椎動物各種で、オス決定遺伝子dmrt1の“プロモーター”を同定し、それらの分子進化解析を行った。最も原始的な脊椎動物である無顎類に属するヤツメウナギ(スナヤツメ)で調べたところ、生殖細胞用に“プロモーター”が1つのみ存在していた。これまで脊椎動物で共通と考えられた生殖巣体細胞における“DMRT1駆動型オス化システム”が初期の原始的脊椎動物に存在しなかった可能性が示唆された。面白いことに、両生類ツメガエルでは生殖巣の生殖細胞と体細胞の発現のための“プロモーター”が別々に計2つ存在("選択的プロモーター"≪注4≫)するが、爬虫類ヒョウモントカゲモドキでは、鳥類や哺乳類と同様に“プロモーター”が1つになったことがわかり、爬虫類と哺乳類の共通祖先で“非コードエクソン1”が消失し、“プロモーター”が集約されたと考えられた。
 更に極めて興味深い事に、dmrt1発現をツメガエルで生殖細胞特異的にノックダウンすると、遺伝的メス個体に精巣(“性転換”)が認められ、体細胞のオス(精巣)決定遺伝子dmrt1は生殖細胞での発現がメス(卵巣)決定に寄与すると考えられた。

■今後の展開
 本研究は、dmrt1という遺伝子が、発現する細胞によって、オス化あるいがメス化にも関与することが示唆された。従来、脊椎動物の性決定は生殖巣の体細胞で行われると考えられてきたが、最近、生殖細胞の性差が雌雄生殖巣分化に重要である事が報告されており、今回の結果は"生殖細胞の性"の存在を支持する結果でもある。今後、dmrt1のオス化とメス化という相反する2つの機能の有無を脊椎動物の他種で検討し、進化的保存性があるか?あるいは、脊椎動物進化過程のどの段階でdmrt1のオス化の機能が獲得され、どのように“DMRT1駆動型オス化システム”が構築されてきたか?を検討することが望まれる。

■用語解説
≪注1≫プロモーター
 DNA からRNA を合成する転写の開始に関与する遺伝子の上流領域。真核生物では基本転写因子やRNA合成酵素が結合する。
≪注2≫DMRT1駆動型オス化システム
 転写因子DMRT1がオス化関連遺伝子の転写を誘導、あるいは、メス化関連遺伝子の転写を抑制することにより、生殖巣の体細胞のオス化を誘導するシステム。
≪注3≫非コードエクソン1(noncoding exon; 【図1】、ncEx1と略す)
 タンパク質をコードしていない第一番目のエクソンで、その上流領域にプロモーターが存在する。
≪注4≫選択的プロモーター
 ある遺伝子でプロモーター領域が2つ以上存在する状態。組織・細胞種特異的な転写の誘導に関与することが多い。本研究のツメガエルdmrt1は、非コードエクソン1に1つ、イントロン1内に1つ、計2つ保持する。

■論文に関する情報
【タイトル(和訳)】
"Molecular evolution of two distinct dmrt1 promoters for germ and somatic cells in vertebrate gonads"
(脊椎動物のdmrt1遺伝子における生殖巣の体細胞と生殖細胞用の2つのプロモーターの分子進化)
【著者名】
Shuuji Mawaribuchi, Masato Musashijima, Mikako Wada, Yumi Izutsu, Erina Kurakata, Min Kyun Park, Nobuhiko Takamatsu, and Michihiko Ito
【掲載誌】
米国科学誌「Molecular Biology and Evolution」
【URL】
リンク

▼本研究に関する問い合わせ先
 伊藤 道彦(イトウ ミチヒコ)
 北里大学 理学部 生物科学科 分子生物 准教授
 〒252-0373 神奈川県相模原市南区北里1-15-1
 TEL: 042-778-9408
 FAX: 042-778-9408
 E-mail: ito@sci.kitasato-u.ac.jp

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