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脳と行動の雌雄を分かつ遺伝子のスイッチを発見 ~ショウジョウバエでの研究成果 -- 東北大学

東北大学 2016年06月04日 08時05分 [ 東北大学のプレスリリース一覧 ]
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東北大学大学院生命科学研究科の山元大輔教授・伊藤弘樹研究員らは、ショウジョウバエを実験に用いて、脳と行動の雌雄による劇的な違いが、たった一つの遺伝子(“ロボ”と言う名前の遺伝子)のスイッチを入れるか、切るかによって生み出されることを立証した。


 人間の所作には男女差があり、少なくともその一部は脳の働きの性による違いに起因すると推察されるが、その仕組みは不明である。脳と行動の性差は動物界に普遍的にみられる現象であることから、ヒトでは不可能な実験を動物で行うことで、“心の性”の生まれる仕組みが解明されるものと期待されていた。

 このたび東北大学大学院生命科学研究科の山元大輔教授・伊藤弘樹研究員らは、ショウジョウバエを実験に用いて、脳と行動の雌雄による劇的な違いが、たった一つの遺伝子(“ロボ”と言う名前の遺伝子)のスイッチを入れるか、切るかによって生み出されることを立証した。ロボ遺伝子はヒトにも有り、脳細胞が余分な突起を伸ばさないように抑制する働きをしている。ショウジョウバエの雄の脳では、脳を男性化する「雄化物質」がロボ遺伝子にくっ付き、そのスイッチを「オフ」にする。そのため、脳細胞は突起を伸ばして雄の形に成長する。雌の脳では、「雄化物質」がないのでロボ遺伝子のスイッチは「オン」となり、脳細胞は突起のない雌の形に成長する。こうして、脳に性差が生じる謎が解明された。我々人類の脳も同じ仕組みで性差を獲得するのか、興味が持たれる。
 本研究成果は、Cell Press(USA)発行の科学誌『カレント・バイオロジー』 (Current Biology) Online版で6月3日午前1時(日本時間)に発表された。

【背景】
 ショウジョウバエには、雌雄で全く違った形をした脳細胞がある。この性差は、問題の細胞が「雄化物質」を持つ(雄)か、持たない(雌)か、これによって決まる。しかし、「雄化物質」がなぜ脳細胞の形を雄化できるのか、「雄化物質」を持たない雌ではなぜ脳細胞が雌の形になるのか、一切不明であった。「雄化物質」は、あらかじめ定められた遺伝子に結合して、その働きをオン・オフするスイッチであると予想される。今回、山元教授のグループは、ハエが持つ一万五千個の遺伝子の中から、「雄化物質」の指令のもと、脳細胞に雌雄差を賦与する切り札となっている遺伝子を、世界で初めて突き止めた。

【研究成果】
 雄が求愛行動をするには、fruitless*1と呼ばれる遺伝子の機能が必要である。fruitless遺伝子はおよそ10万個ある脳の神経細胞のうち約2000個(Fruitless細胞と呼ぶ)で働いており、この遺伝子が雄の脳内のこれらの細胞でFruitlessタンパク質を合成し、一方雌の脳ではFruitlessタンパク質を作らないことで、脳に性差を生み出す。つまりFruitlessタンパク質は脳の「雄化物質」なのである。Fruitless細胞のうち、mALの名で知られる細胞グループ(mAL細胞群)は、雄では3か所に突起を伸ばしているのに対して、雌ではそのうちの2か所だけに突起を伸ばすという歴然とした性差がある。今回山元教授らは、この雄にしかない突起、雄特異的突起がなぜ雄にだけ作られるのか、という謎に挑んだ。神経が突起を伸ばす際に使われる遺伝子を一つずつ人工的に阻害して神経細胞の形にどのような変化が現れるかを観察したのである。その結果、ロボという遺伝子の働きが低下すると雌の脳にも雄特異的突起が出来てくることを発見した*2。つまり、ロボ遺伝子は雌の脳内で、雄特異的突起が作られるのを妨害する働きをしていることになる。雄の脳では、Fruitlessタンパク質がロボ遺伝子にくっ付き、ロボ遺伝子を働けないようにしてしまうので、邪魔するものがなくなり、雄特異的突起が作られるわけである。この研究によって、Fruitlessタンパク質がくっ付く相手を見つける時に目印にしているDNAの暗号も判明した。その暗号は、16文字の回文構造、つまり「上から読んでも下から読んでも“同じ”」塩基配列であった*3。ロボ遺伝子がこの16文字の回文構造を持っているため、Fruitlessタンパク質がそこに結合し、ロボ遺伝子の働きを抑制することが出来たわけである。ロボ遺伝子から16文字の回文構造を取り除くと、雄のmAL細胞は雄特有の突起を伸ばすことが出来なくなり、求愛の動作も異常になった。こうして、脳に性差が生み出される仕組みが、遺伝子の暗号から解明されたのである。

【今後の展開】
 16文字の回文構造をゲノム中から探し出すことによって、Fruitlessタンパク質の結合する相手の遺伝子、つまり標的遺伝子が全て特定できる可能性が出てきた。Fruitlessタンパク質の標的遺伝子は100個程度あると推察されるが、その全貌がわかれば、脳の性差を作り出す仕組みの大枠が解明され、雌雄の行動の違いが生まれる原因が明らかになると期待される。
※ 本成果は、山元大輔教授を研究代表者とする文部科学省・基盤研究(S)、同・新学術領域研究、および伊藤弘樹研究員を研究代表者とする同・基盤研究(C)によるものです。

【図及び説明】
図A: Fruitlessタンパク質は雄の脳だけに存在する。ロボ遺伝子は脳のmAL細胞に雄特異的な突起が作られるのを妨害するが、Fruitlessタンパク質はロボ遺伝子の回文構造にくっ付きロボ遺伝子の働きを阻害するため、雄のmALでは雄特異的な突起が作られる。一方、雌の脳にはFruitlessタンパク質が存在せずロボ遺伝子が働くため雌のmALでは雄特異的な突起が作られない。
図B: ロボ遺伝子の回文構造を取り除いた雄(ロボ変異体)ではFruitlessタンパク質がロボ遺伝子に結合できない。そのためロボ遺伝子が働きmALの雄特異的な突起がなくなり、雄の求愛の動作も異常になる。

【用語説明】
*1 fruitless遺伝子: fruitless遺伝子は、キイロショウジョウバエの雄が同性愛化する突然変異、satoriの原因遺伝子として山元らにより同定された。fruitless遺伝子により雄の神経細胞で産生されるFruitlessタンパク質は、幾つもの標的遺伝子の調節配列に結合してその転写を抑制又は促進する転写調節因子で、細胞の性を決める働きを持つもう一つの遺伝子、doublesexと共に、脳神経系を雌雄で違ったものに組み立てる。結果として異なる回路を持つに至った雌雄は、それぞれの性に特有の行動をとることになる。
*2 遺伝子の働きを抑制する実験の方法: 遺伝子はDNAで出来ているが、働くときにはRNAのコピー(mRNA)が作られて、そこに写し取られた暗号からタンパク質が作られる。mRNAに貼りついてそれを分解するのがRNAiである。本研究では、ロボ遺伝子のmRNAを分解するRNAiを使ってその働きを阻害している。
*3 Fruitlessタンパク質が結合するDNA塩基配列:  実際の配列はT T C G C T G C G C C G T G A Aである。アルファベットは塩基の名前の略号で、Tはチミン、Cはシトシン、Gはグアニン、Aはアデニンである。TはAと向き合って対をつくり(対合)、CはGと向き合って対を作る。上記の暗号は左端と右端が対をなし、そこから一つずつ内側に向かって8対の塩基が対合する配列となっている。これを回文構造と言う。

【論文題目】
Fruitless represses robo1 transcription to shape male-specific neural morphology and behavior in Drosophila. Curr. Biol., in press.
「ショウジョウバエのFruitlessタンパク質はrobo1遺伝子の転写を抑制することによって雄特異的なニューロンの形態と行動とを作り出す」

▼本件に関するお問い合わせ先
 東北大学大学院生命科学研究科
 教授 山元 大輔 (やまもと だいすけ)
 電話番号: 022- 217-6218
 Eメール: daichan◎m.tohoku.ac.jp
 (メールアドレスの「◎」は「@(半角アットマーク)」に置き換えてください)

▼報道担当
 東北大学大学院生命科学研究科広報室
 担当: 高橋 さやか (たかはし さやか)
 電話番号: 022-217-6193
 ファックス: 022-217-5704
 Eメール: lifsci-pr◎ige.tohoku.ac.jp
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