なぜSMBのIT投資が進まない?監査法人/公認会計士の視点からの分析(後編)

IT導入に際して、サービス・製品選択の基準は効果を最優先に

 ITベンダーは相当以前から、中小企業へのIT武装を訴え、普及を図ってきたはずだが、必ずしも思惑通りにいっていない。IT導入の際に注意すべきこととして、大原氏は、以下の点を挙げる。「きわめて初歩的な会計システムや、どのシステムでも備えている機能があれば十分だという場合であれば、安い製品で構わない。そうでないのなら、最も安いシステムを選ぶのではなく、どれだけ効果が出るのかを基準に選択すべきでしょう」

 ベンダー側にも問題の一端はあるという。「システム構築を受け入れる中小企業の方がITの重要性や業務フローをわかっていない一方、ベンダー側も、それでどれだけの効果が見込めるか、相手の業務の本質を、必ずしも深く理解できていないケースは多い」(大原氏)という。

ITへの積極投資推進の鍵は、「説得力」ある提案

 企業内で、積極的なIT投資を推進しようとの有志がいても、経営トップが理解しなければ、実現は困難になる。そんな場合の対策として「どこの企業も状況は厳しいのだから、少なくとも、IT導入による、明らかな経費削減効果、あるいは拡販効果を明示できるのであれば、意味は大きなものになるでしょう。経営トップに、それをプレゼンし、理解してもらうチャンスをつくれるかどうかが一つの肝になると思います」と大原氏は指摘する。

 その背景には「システム担当役員は、面倒なことはやりたがらない傾向があり、自分たちに都合の悪いことは、社長に知られたくないと考えている」という事情がある。「社長に基本的な状況を伝達し、説得、理解してもらうことができるかどうかが問題です。また、システム担当役員は経営陣と現場の板挟みになっている面もあります。さまざまな利害対立があり、結局どちら側にも、『まあまあ』というようにどっちつかずな姿勢でやっていくしかない」というのが現状だという。

 他にも難題はある。「これまでのインターフェースでなければ使えないと主張する担当者がいれば、トレーニングするとか、極端に言えば配置転換することを考えなければならないでしょうが、そのラインのトップでもないシステム部門が、それを実現するのは無理」との状況がある。

 やはり、経営トップの意識改革が軸になる。そのためには、社長にアドバイスできる人材も不可欠だ。

 「こうすれば、これだけ利益が上がる。コストは下げられる。ただ数々のハードルもあります。(それらを乗り越えて)実行してもらえますか--?という提案を、社内の誰が社長に対してできるかも重要です。会社全体から見れば変えた方が良いにもかかわらず、担当部署の段階では、さまざまな利害対立があって変えられないという事態は発生するもの。それをクリアするには、経営トップにアプローチしていかないと難しいが、逆にそれが突破口になるはず」と、会社を変えていくアドバイスを大原氏は最後に語った。

コラム--記者の眼

 取材を終えて再認識したのは、中小企業がIT投資を成功させるためには、ことほど左様に、さまざまな難問、障害物が点在しているということだ。しかし、本連載では、中小企業が健闘している事例もこれまでに伝えてきた。そこで2つほど、改めて紹介したい。

ITの力で、愛知県から世界へ進出--家具メーカーの選択

 愛知県の家具メーカー・愛知は、長年にわたり学校用家具で市場をリードしてきたが、近年は大手オフィス家具メーカーの相次ぐ参入などで、事業環境は厳しさを増している。

 こうしたなか同社は、ITを原動力として、海外市場を今後の柱と位置づけ、家具の本場といわれる欧米のメーカーと互して戦おうとしている。特に注力したのは、ERPパッケージの活用で、社内各部門が多角的にデータを見られるようにしたことだ。その結果、部署の垣根を越えた相互理解も進んだという。同社にとって海外取引はまだ未知の事項も多いが、それらへの対応にITを活かすほか、期待できる領域、そうでない領域を判別するためにもITを用いていく意向だ。

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社長の経験や勘を見える化--地元密着型不動産企業の決断

 一方、埼玉、東京西部を中心に、不動産業を手がける西武開発は、「足でかせぐ」営業を軸に、業績を伸ばしてきたが、デジタル化の波に乗り、アナログ的な経験や勘といった強みをITの活用でさらに増大させようとしている。

 その第一歩には、従来の基幹システムを完全リプレースするという、大胆な決断があった。不動産業の顧客は、ものを見ないで買うことは決してない。また同社は、今後も仕事の基本は「アナログ」と捉えている。そこで今後は、デジタル化の時代にあって、デジタル情報をアナログに変換するという仕組みやサービスの強化を重視していく考えだ。

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