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なぜSMBのIT投資が進まない?監査法人/公認会計士の視点からの分析(後編)

日本の「伝統的」慣習は高い障壁

 IT投資をしているにもかかわらず、なかなか成果が上がらない企業は、何が問題なのか。一つには商習慣の問題があると大原氏。

アルテ監査法人 大原達朗 代表社員

 「たとえば、月末締め/翌月払いという締日の概念があります。ERPでインボイスごとに処理していくとなれば、その関係で月末締めなどは苦手です。一つ一つ承認をして、検収して出荷処理して、売上計上して、請求、回収という手順なのに、日本ではまとめてしまいます。このやり方を日本では改めようとしていません。

 ただ、これは慣習ですから、どこか数社の主だった大企業が変えてくれれば、変えざるを得ないでしょう。紙が中心だった頃は、いちいち、1枚1枚対応していくのは難しくて、区切っていかなければなりませんでしたが、システム化されていれば、何の問題もないはずです」

 出荷基準の問題もあるという。「商品をデリバリーする事業では、出荷基準に準拠してビジネスをしています。商品が倉庫から出た時点で売上としていますが、実際には、債権・債務がかなりめちゃくちゃになります。たとえば、出荷が3月31日で、着荷が4月1日だとすると、出荷した側は3月31日の売上になります。そうすると互いに債権・債務が合わないのです。売った方は、3月31日の時点で、売掛金があると思っているわけです。しかし、買った方では、その日には、まだモノが届いていないので、買掛金などあるとは思っていません。実は、この債権・債務を合わせる仕事は、財務の仕事として結構大きなものになるのですが、FAXをやり取りするなどして、非効率なことをやっています。請求書が来て、自分のところの検収データと照合すると、必ず違いが出ます。このような実態を経営者は知らないのではないでしょうか」(大原氏)

自社のフローへの固執は、IT装備を無意味化する

 IT投資の成功を阻む、より本質的な要因として、大原氏は「そもそもシステムを自社の業務フローにあわせてしまうからいけない。ERPを活用するにしても、それにあわせ業務フローも効率的なものに変えないといけません」と主張する。

 「例えばセールスフォースは優れたシステムで、自前サーバを用意しなくとも、IDとパスワードだけでつながり、設計の自由度も高いなど利点が多い。しかし中小において、うまく活用しているところがどれだけあるか。そもそも業務フローを設計する能力が不足しているうえ、何をしたいのかが明確ではない層にとっては、活用するのは困難なのです。結局、採用したものの使いこなすことができていない、などといった例も少なくないはず」(大原氏)

 さらに「以前のシステムへの愛着」も問題だ。あまり上手に使いこなせない中、これまでのシステムと同様にしたいと考え、アドオンのシステムを付加する。しかし、そこではバグが発生する可能性など、ある程度の弊害も出てくるだろう。大原氏は「これでは何の意味もないが、それで通っている例がある」と指摘する。

 「結局、導入しても十分に利用できないので、パートナー企業に手助けしてもらい、せっかくの自由度が高いシステムに、コストを費やして特別なインターフェースを作るようなことになるわけです。SaaSサービスの導入でサーバのメンテをしなくてすむとか、サーバが落ちなくなり稼働率が高くなったというメリットは得られても、入れ替えの総コストを考えると、トータルで導入前と変わらなくては意味がありません」(大原氏)

業務フローの整備が難しいのは何故?

 大原氏は、IT投資に限らず、業務フロー整備が確実でないと、危険だとする。業務フローを作るには、企業は何を心がければ良いのか。

 「基本は紙ベースで始めるのですが、そこには限界があるので、IT化を考えるわけです。業績の悪くなってしまった会社を訪れて話を聞くと、帳簿はいい加減で、システムもどう機能しているのか把握していない。しかし、不思議なことに今月は売上がいくらくらいかということを"大体"はわかっているのです。ただ、その"大体"に誤差があり、それが30年間くらい積み上がると、20億、30億の損失にもなってしまう恐れがあります。やはり、きちんとした業務フローをつくって、システムにデータを蓄積して、それを定期的にチェックしていかなければならないのですが、これが十分にできていないのが、今の日本の中小企業なのではないでしょうか」

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