沖縄県は11月12~15日の4日間、「沖縄で出会うビジネスブーストツアー~食と交流で感じる島の魅力~」を実施した。
ワーケーションをテーマとし、滞在費と沖縄までの渡航費の半分、最大5万円を県の事業費として補助するモニターツアーという位置づけで、計15人が参加した。一体どのような3泊4日だったのか、ツアーの様子をレポートしよう。
初日となる11月12日は移動日で、夕刻の集合のみが設定。参加者それぞれが4日間滞在するホテル「オキナワ グランメールリゾート」を目指した。
同ホテルは那覇空港から公共交通機関で約1時間半。ツアーの各参加者は到着時間がまちまちだったが、いずれもホテルへのシャトルバスが用意された。渋滞などで多少の前後はあったようだが、筆者が乗ったバスは約1時間ほどでホテルに到着した。
部屋や施設を確認しているとまもなく集合時間となり、ホテル内宴会場で参加者同士の自己紹介が始まった。今回のツアーは会社員と個人事業主、ワーケーション経験者と初心者、住まいは北海道から長崎までと、さまざまな背景を持つ参加者が集まったようだ。
一通りの挨拶が終わった後は、沖縄県 文化観光スポーツ部 観光振興課 誘致企画班 主査を務める安次嶺修氏がツアーの趣旨を説明。「沖縄の思い出、郷土料理のスキル、ビジネスの成果の3つを持ち帰ってほしい」と語り、乾杯の発声とともにさっそく沖縄の美食が詰まった夕食を堪能できた。
11月13日の2日目の午前中は、うるま市の「うるま4島」と呼ばれる「平安座島」「浜比嘉島」「宮城島」「伊計島」の離島を回った。
ここで少し、今回のツアーを補足しておこう。
沖縄といえばもちろん海だが、そのほかで特徴的な場所といえば、国際通りのイメージが強いのではないだろうか。実際に沖縄の繁華街は、那覇市を中心とした「南部」が特に賑わっているそう。一方、恩納村以北の「北部」は、国立公園などの自然が豊かな地域になるという。
ワーケーションの促進に注力する沖縄県は、「じゃらんnet」に特集ページを用意するとともに、施策の一環として2024年度の6月、11月、1月にモニターツアーを企画。6月に北部でのワーケーションツアーを実施済みで、2025年の1月には南部での開催を予定している。
今回の11月のツアーは、「中部」に位置するうるま市を中心に構成した第2回という位置づけ。3回を実施することで、内容に加えて沖縄のどの地域がワーケーションに最適かの検証も兼ねているのだ。
なお沖縄中部は、ほかの地域ほどリゾート開発が進んでおらず、昔ながらの沖縄の風景を見つけやすいことが特徴で、うるま4島は橋でつながっているためサイクリングで周遊する「うるまサイクルプロジェクト」も推進している。じゃらんnetの特集ページのキャッチコピーは「沖縄の歴史と食文化に触れる」。沖縄本島の与勝半島と4島をつなぐ海中道路から海を感じつつ離島をめぐり、絶景やビーチを楽しむことが可能だ。
本題に戻ろう。4島巡りは、参加者をサイクリングと車移動の2組に分かれての実施となった。4島いずれも見所を多く持つ島だが、ここでは一部を紹介していこう。
本島の与勝半島を出発して海中道路を進むと、平安座島との中央部に海の駅がある。ショップやレストランのほか、1日あたり2000~3000円で自転車を貸し出しており、今回のツアーもまずは車でここまで移動し、その後2組に別れての行動となった。
はじめにたどり着く平安座島では、うるま市の小中学生などが防波堤に施した「護岸アート」が出迎える。筆者は雨の危険性などを考慮して車移動を選択していたが、長さ1.6kmに渡るアートを車窓からじっくり楽しめた。
また、平安座島は食も魅力だ。うるま市出身のバンド「HY」が一押しという「肉や食堂inへんざ」は予約必須で入店できなかったが、漁港に隣接した海鮮食堂「味華(アジケー)」はいずれのメニューも大ボリューム。もちろん味も大満足の一言だ。
平安座島からは、伊計島に続く宮城島と浜比嘉島に行くことができる。まずは「天気がいいうちに」というドライバーさんのお勧めで宮城島に向かった。お目当ては、壮大な景色を眺められる「果報(かふう)バンタ」だ。
果報バンタは「幸せ岬」という愛称を持ち、約70mの崖の上から風景を眺められる。晴れた日は青い海の美しいグラデーションに迎えられ、満月の夜にはウミガメが産卵に訪れることもあるそうだ。
果報バンタの敷地内には、世界唯一の塩工場「ぬちまーす観光製塩ファクトリー」があり、世界初の製塩法「常温瞬間空中結晶製塩法」の工程を見学できる。
同製塩法では、細かい霧にした海水に温風を当てて水分だけを蒸発させ、海水に溶けていた塩分と「にがり」(塩以外のミネラル)のすべてを空中で結晶にするという。部屋一杯に塩を積もらせ、週に1度手作業で収穫、乾燥、梱包(こんぽう)、金属探知機の検査などを経て出荷できる状態にするというものだ。
一般的な製塩法と異なり塩分とその他の海洋成分(にがり)が分離しないため、塩分が25%低い、21種類の海洋成分を含むことができるという。特に海洋成分の中でも日常生活で不足しがちな「マグネシウム」は、一般の食塩の200倍含まれ、毎日の食事でバランス良く海洋成分を摂取できるとしている。
ぬちまーす観光製塩ファクトリーでは、お土産として塩を購入できるだけでなく、2階の「ぬちまーすレストランたかはなり」で料理を楽しめる。海を眺めながらの塩ソフトクリームは絶品だ。ちなみに工場名は、命のことを「ぬち」、塩のことを「まーす」という沖縄の方言から命名されているとのこと。
宮城島を後にして「伊計大橋」をわたると、うるま4島で1番奥に位置する伊計島にたどり着く。透明度の高い「伊計ビーチ」やシュノーケリングを楽しめる「大泊ビーチ」のほか、2023年に100周年を迎えた「伊計島共同売店」がある。
共同売店は、1906年に沖縄県北部にある国頭村の奥集落で生まれた。集落の住民が出資して設立、運営する、沖縄などでよく見られる商店形態。「地域の人々で運営するコンビニ」のようなイメージが近いだろう。しかし、数は徐々に減っているそうだ。
伊計島でも重要な拠点であるものの、人口減少や高齢化などの影響はある模様。一方で、ふるさと納税で島の特産品となる「もずく」を塩漬けにしたオリジナル商品の展開や、オリジナルTシャツの制作、販売など、多様な独自施策を実施している。
また徒歩5分の位置には、旧伊計小中学校を改修して2015年に設立された角川ドワンゴの「N高等学校」本校がある。同行は通信制高校ながら対面形式の「スクーリング」が必修のため毎年数1000人規模の登校があり、最寄りの商店として連携が深まっているということだ。
伊計島は、1番近いコンビニでも10kmの距離があるという。共同売店はまだまだ欠かせない場所であり、末永く続いてほしいところだ。
4島最後の島となる浜比嘉島にも、多くの見所がある。クワ科イチジク属の「ガジュマル」の木に守られる「シヌグ堂(東の御獄)」や、琉球開闢(かいびゃく)神話で登場する琉球創生の女神「アマミチュー」と男神「シルミチュー」が生活して子どもを授かったという「シルミチュー霊場」、「アマンジ」と名付けられた小島にある「アマミチューの墓」などだ。
4島を巡ったあとの午後は、浜比嘉島にある「高江洲製塩所」で「流下式塩田法」による塩作りを体験。ポンプを活用して海水をタンクからくみ上げ、竹の枝を滴って落ちる際に風の力で水分を飛ばすという行程を繰り返し、4~5倍ほど濃い海水をかまどで炊くという製塩法だ。
高江洲製塩所 代表を務める、塩職人の高江洲優氏は、「現在は機械のフィルターでナトリウムのみを濃くする製法がほとんどだが、自然の力を活用すれば『にがり』などのミネラル成分も濃縮できるため、体に良い塩ができる」と話す。
海水を濃くする工程を見学した後は、実際に濃縮した海水を活用して塩作りを体験。かまどで煮詰めつつ、煮詰まってきたら塩になるまでかき混ぜるという数十分ほどの作業で、かき混ぜ具合で辛さが変わるとのことだ。
塩作り体験のあとは、浜比嘉島の旧浜中学校校舎をリノベーションした地域交流拠点施設「HAMACHU(Uはマクロン)」内の「LivingAnywhere Commonsうるま(LACうるま)」に移動。「観光課題・解決事例・企業ソリューションの可能性」と題したワークショップを実施した。
ワークショップの冒頭、ホット沖縄総合研究所 取締役 兼 事業開発部 部長 兼 モビリティ事業部 部長を務める白石亮博氏は、沖縄が抱える課題を紹介する。
「経済、インバウンド対策、宿泊・観光施設、インフラ、環境、情報発信、社会課題などさまざまな課題があるが、例えば観光に焦点を絞ると、観光客の取り合い問題がある。外国人旅行客がゼロになるなどコロナ禍で一度死んだような状態になったが、ホテル数は22年連続で増え続けていた。飛行機の供給量は増えないのでお客の取り合いとなっている」(白石氏)と話す。
そのほか、観光の選択肢が多い沖縄の中で「うるま市」が選ばれにくいこと、2025年に沖縄北部でオープン予定の新テーマパーク「ジャングリア(JUNGLIA)」開設に伴う交通渋滞や人手不足なども挙げた。
また、プロモーションうるま 地域づくり事業部 ディレクターの菊地竜生氏は、2017年に宮城県から移住して現在もうるま市に住んでいる自身の観点から「地域の住民としては、変化を求めていない層もいる。外貨を稼ぐために観光を強化しても運営は県外・外資企業ということが多い。必ずしも地域の住民の幸せに直結していない」と加えた。
その後、沖縄で課題解決に寄与している成功企業例として、コロナ禍で一時激減したレンタカー需要の復活を完全自動化システムの提供で支えたKAFLIX CLOUDや、従来は廃棄対象だったパイナップルの葉、バナナの茎などの繊維を抽出してアパレル企業に販売するビジネスを展開するFOOD REBORNなどが紹介され、ワークショップの時間となった。
ワークショップでは参加者を3つに分けつつ沖縄県の関係者も参加し、40分ほどの議論が交わされた。多様な背景を持つ参加者が集まったこともあり、産学連携や東京・海外などからの来訪者と交流する上での課題、条件、具体的な施策案などの意見があった。沖縄県側、参加者ともに普段では獲得し得ない気付きを得られたようだ。
11月14日の3日目は、再びHAMACHUに移動してのスタートとなった。HAMACHUは「島の暮らしと生き方の探究がチャンプルーするワーケーション拠点」と位置づけられており、会議室やワークスペースといったコワーキングスペースがもちろん、レンタルオフィスやドミトリーとしても活用できる。ここで、この旅でホテルの自室以外で初となるワークタイムが設けられた。
HAMACHUのコワーキングスペースはWi-Fi完備で、オンライン会議用の個室を3部屋、外付けディスプレイなども用意されていた。筆者はもちろん参加者も満足の仕事環境だった一方で、HAMACHUを出て3分ほど歩けば「浜比嘉ビーチ」にたどり着く。オフィスで通常働くよりもリフレッシュしやすい環境といっていいだろう。
3日目の夕方には、沖縄農水産物直営店の「うるマルシェ」に移動。その後に予定されている「沖縄料理調理体験」の食材調達のためだ。直売所棟だけでも約550坪、200台分の駐車場などを合わせると約4000坪の大型スーパーで、都内では考えられないような値段で食材が売られていた。
沖縄料理調理体験では、調達した食材で「うるま野菜たっぷりサラダ」「津堅にんじんしりしりー」「魚のマース煮」「うるまの海ぶたラフテー煮」「勝連太もずくスープ」の5品を調理。沖縄料理の調理方法を学びつつおいしくいただいた。
最終日となる15日は、沖縄アリーナで開催された「ResorTech EXPO in Okinawa(リゾテックエキスポ)2024」に参加した。
同イベントは、11月14、15日の2日間開催されたIT・DXの1万人規模の展示会商談会。250社超が出展、海外からも韓国、台湾、香港、ベトナムなどから30社超が出展し、2日間で延べ1万1838人が来場したという。
2024年のテーマは「沖縄がつなげるアジアと日本」。沖縄をアジアと日本のゲートウェイとすることで地域発展を目指しつつ、テクノロジーの活用で文化・経済交流を推進するという意図を込めたとしている。
以上が3泊4日のツアーの中身だ。ここまでお読みいただいた方には分かるかもしれないが盛りだくさんの内容で、参加者からは「内容が多く、一つ一つの時間が足りない」「ワークの時間がない」などの声があった。実際に筆者もワークタイム自体ははかどったものの、時間としてはほぼ確保できなかった。
ただ、参加者が不満だったかというと、むしろ満足げな顔しか思い出せない。主催者側からたびたび「(沖縄の)自然の北部、賑やかな南部に比べれば、(中部は)巡る場所が少ない」という声も聞こえたが、参加者となる県外の人間にとっては十分すぎるほど魅力的だったのだろう。
今回のツアーを含む2024年度の3度にわたるツアーは、沖縄県が主催し、リクルートライフスタイル沖縄とホット沖縄総合研究所、日本ワーケーション協会、東武トップツアーズの4社が共同して企画に関わっている。これまでの結果を反映し、今後はさらに魅力的なワーケーションツアーが企画されるだろう。
また、沖縄中部は沖縄アリーナのほか、「イオンモール沖縄ライカム」といった巨大商業施設や、嘉手納空軍基地の関係者などで賑わい異国情緒を感じられる繁華街「コザ(胡差)」などが近い。観光も遊びも仕事も、目的に応じて十二分に堪能できる地域といえそうだ。
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