新野: クラウドで解決できない課題や、注目している技術などがあれば教えてください。
田井: 現状のクラウドサービスは急速に立ち上がってきたので、テクノロジー的にできることとできないことのばらつきがあるようですね。環境構築しようとしても制限が多いサービスもあり、さまざまなものが未成熟な印象です。
(IIJ常務執行役員、クラウド事業統括の時田一広氏が参加)
時田: クラウドベンダーから意見を述べさせていただければ、クラウドのサービスはベンチマークして作っているため似たようなものが多いと思います。例えば、IaaSでも自社のIPアドレスを使いたいという企業は多いのですが、大半のクラウドサービスは事業者側が配布するIPアドレス以外は使えないことが多いのです。当社のIIJ GIOのサービスも、即時利用型のレディメードのクラウドサービスと、エンタープライズ対応サービスがあり、エンタープライズ向けサービスには持ち込みIPアドレスは対応可能です。しかし、こうした違いはニューからは見えづらいようです。IIJ GIOでは現在、1300システムほど稼働しているのですが、この2~3年の間に多くのことを改善し成熟させてきたと思っています。
田井: また、クラウドでの心配はハードウェアの故障にあります。故障時には、適切にサイジングしていないと復旧に時間がかかってしまうこともあるなど、クラウド業者の能力に左右されることがあります。その判別が難しい。
髙原: それから、既存のシステムはそれなりの規模でデータ連携して成り立っている場合が多いので、ある部分だけクラウドに移行することは難しいですね。オンプレミスとクラウドで運用するハイブリッドのデザインを、データ構造やシステム配置などをベンダーとともにじっくりと検討していく必要があります。コストメリットや世の中の技術革新を享受する前提で、そうしたシステムデザインを3年や5年のスパンでやっていこうと決めてかかる覚悟がポイントになるかと思います。
渋谷: 地図はマッシュアップをかけることで更なる価値が出てくる領域でもあります。したがって、地図利活用の観点からはデータ連携をしないで固定的に同一のサービスだけ使い続けるという発想はあまりありません。そのため、クラウドは状況に応じていかにアドオンできるか、データ連携できるかが大事だと考えています。ここが制約されているとなると、コストメリットを優先して短期的に利用することがあるかもしれませんが、長期的に使うことはないでしょう。
新野: これからは、クラウドも柔軟に対応できるようなシステム構成を考えておくことが必要なのでしょうね。
渋谷: バックエンドの仕組みだけではなく、ユーザーインターフェースもどんどん変わっていくでしょう。当社の場合は、例えば調査員に新たに端末を持たせることになれば、現段階ではスマートフォンやタブレットの利用が考えられます。しかし、将来はAR眼鏡のようなもので調査業務をするかも知れません。そのときのユーザーインターフェースのデザインやデータのやりとりは大きく変わっている可能性があります。こうした新技術に対応していくこともとても大事だと考えています。
新野: 最後に、皆さんにクラウドに対する期待をうかがいたいと思います。
田井: 期待はたくさんあるんですが、注目していのはDRですね。当社の場合多くのデータセンターを抱えていますが、システムの2重化は莫大なコストがかかるのです。そのため、クラウドサービスとして1.2~1.3倍程度の投資で、物理空間を超えてリアルタイムに同期でき、リソースが分散される仮想的なシステム構築が可能になればと考えています。そうした技術は既に登場し始めているので、もう少し完成度が高まれば、クラウドの利用が別な意味で価値を持ってくると期待しています。
髙原: 従来の情報システムは専用サーバーや専用ネットワークを使ったオンプレミスで構築してきましたが、コスト構造を変えるためにはクラウドの技術を持ち込むことは不可欠であることは間違いありません。しかし、現状のクラウドは製品サイクルやサポート内容が急激に変化しているため、実際にスケールアウトを実現しているものはあまりなく、エンタープライズの仕組みを載せていくためには課題が山積です。
例えば、新しい技術を取り入れる一方で、塩漬けにしたいシステムがあればそれもサポートするなど、ハイブリッドでしっかりと作っていくことを考えています。
渋谷: これまで同様、これからも社会環境や市場環境が大きく変わり、今想定している業務もいつか通用しなくなるでしょう。そうした変化に対応するためにはITも変わらなければならず、対応力を保証するのがクラウドという基盤だと思っています。そのため、業務をドライブするバックエンドのシステムを構築する基盤がクラウドであることは必須の要素です。
私たちの生活にはクラウドが溢れており、クラウドサービスは当たり前になっているため、クラウドを前提としたサービスをもっと広げていくと、私たちのユーザーエクスペリエンスもより広がって、ITを身近にもっと楽しく使える環境が構築できるのではないかと想像しています。
新野: 本日はさまざまな形でクラウドの可能性に関する議論を広げることができました。皆さんありがとうございました。
今回の座談会は、ITで先行している著名企業から情報システム部門の責任者が一堂に介した貴重な機会となった。クラウド利用について、外部化できる部分は積極的に進める一方で、心臓部ともいえるコアコンピタンスとなる部分は決してクラウドに出さないという明確な切り分け意識を持っていることが判った。また、クラウド事業者選定においては、評価シートやチェックリストを用いて審査したり成熟度を重視したりするなど、冷静な判断を行っていることも興味深い。
今回、多忙な中で参集いただいた各企業の協力に深い感謝を示すとともに、今後もこのような機会を設けて、企業のクラウド利用実態を継続的にお伝えしていきたい。
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