まずは、オフィス家具のネット通販ビジネスを始めた背景について教えてください。
梁原氏:47インキュベーションの母体である「47株式会社」の事業が原点にあります。47は2002年の創業以降、オフィス仲介事業を長らく手掛けているのですが、事業を進める中で様々な変革に挑んできました。例えば、人を介した営業からオフィス検索サイト「officee」を中核に据えたネットマーケティングによる集客へと舵を切り、またこれまではパートナー企業を紹介していた内装の作り込みなど、事務所稼働までの準備もワンストップで提供するようになったのです。
そうした中で、オフィス家具に対する需要にも応えるために商品を販売してきました。サービスを提供する中でオフィス拡大などに伴う大口注文には応えやすい一方で、その後の人員増加などによる1個2個の家具追加には対応することが難しいという課題が見えてきました。家具1個のために営業担当者が納品・設置に立ち会うというのも現実的ではないですし、オフィス家具は大口注文と比較して1個で購入したほうが割高になる場合も多い。こうした課題に対して、オフィス仲介でネットマーケティングのビジネスモデルに舵を切ったようにネットの仕組みを活かしてビジネス構造を変革できないかと考え、2015年にオフィス家具の通販サイト「Kagg.jp」を立ち上げました。
オフィス家具の通販は既に大手も含めて様々な事業者が手掛けています。サービスの強みや独自性について教えてください。
梁原氏:私たちのサービスは、他社とは一線を画すものと考えています。例えば、他社のオフィス通販や大手ネット通販サイトは配送のスピードをセールスポイントにしている場合が多いですが、私たちのサービスでは配送のスピードは重視していません。なぜなら、オフィス家具を必要としている顧客にとって"商品が明日届くこと"は必ずしも重要なことではないからです。しかし、そのトレードオフによって私たちは在庫を抱える必要がなくなり(=注文ごとに個別にメーカーに発注する)、顧客は国内30社以上のメーカーの全ての商品ラインナップ約42万点の中から欲しい商品を選べるようになりました。一般的には商品配送のスピードを担保するために在庫を自社で抱え、その限られた選択肢の中で顧客に商品を提供していたところを、発想を転換することで顧客にとっての選択肢を大きく広げたのです。
確かに、ネット通販は配送スピードを重視する傾向がありますが、中にはスピードよりも重視したいことがある場合も少なくないですよね。
梁原氏:そうですね。私は、ネット通販は二極化していって然るべきだと思います。もちろん、配送スピードの速さはネット通販にとって高い付加価値であることは間違いありません。ただ、それがオフィス家具の通販に必要かというと、そうではない場合が多いですよね。顧客が求めていないのにコストを掛けて在庫を抱えて配送スピードの速さを押し付けがましく訴えても、顧客の本当のニーズには応えられないのではないかと考えました。企業にとっては、明日急に人が増えて家具が必要になるということは考えにくい。計画的に人員を増やしていく中で、豊富なバリエーションの中から商品を適正な価格で調達できたほうが本質的な価値になるのではないかと考えています。
在庫を持たないこと、対面販売をしないことというのが、適正価格を生み出すための大きな要素になっています。これによって、オフィス家具販売にある小口販売の際の割高感は解消できているのではないでしょうか。在庫を仕入れて持たないことによって、余計なマージンを乗せる必要はないのです。ちなみに、3月からは大口注文に対する"まとめ割引"も開始する予定で、オフィス家具の従来からある商慣習の良い面は取り入れていきたいと思います。
どのような顧客が利用していますか。
梁原氏:法人顧客に関しては規模や業態を問わず幅広くご利用いただいています。注文の規模も様々で、1個から購入いただく場合もあれば大口注文も多数いただいています。毎月のように注文をいただくケースもありますが、ECですぐに注文できるという利点を活かして、事業計画・人員計画に併せて柔軟に家具の調達をされているケースが多いですね。中には、1個試験的に購入してみて、その後リピートで大口注文するというケースも少なくありません。オンデマンドで1個から調達できるというECの利点を活かしていただいていると感じています。既存顧客に対しては、搬入するオフィスビルの搬入経路・搬入規定などをデータベースにして、スムーズに配送・設置できるよう工夫しています。
また、サービス開始当初は法人顧客しか想定していなかったのですが、いざやってみると個人顧客の多さに驚かされました。リモートワークをされる方やフリーランスの方にとって、自宅で長時間座って仕事をするためのオフィスチェアやデスクは重要ですよね。そうした仕事環境に高い意識をもっている方がサービスを利用するケースが多いです。個人顧客への販売は私たちだけでなくメーカーも注力してこなかった領域ですが、Kagg.jpを始めたことによって新たなニーズを発見することができました。全体の売上はこの半年で倍に増えていて、ビジネスの成長を実感しています。
個人顧客の増加や最近の売上規模の成長は、背景に働き方改革に伴うワークスタイルの変化などがあるのでしょうか。
梁原氏:もちろん、ワークスタイルの変化や働く環境に対する投資をしっかりするという企業の動向は要因の一つだと思います。ただ、さらに大きな要因として市場におけるゲームチェンジが生まれているのではないかとも思います。例えば、アパレル業界では市場規模自体は成長が鈍化している一方でネット通販は成長を続けていますよね。同じように、マクロの視点では人口減少によって労働者人口が減少している=オフィス家具に対する需要が鈍化していく中で、"ネットでオフィス家具を買う"という購入スタイルが盛り上がることで、成長鈍化する市場の中でもビジネスの成長を実現できているのではと思います。
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