2年間のつまずきと失敗を経て、GoogleはAIをものにしつつある。
GoogleのAI製品は、もはや絵に描いた餅ではない。先月開催された開発者向けイベント「Google I/O」で披露されたものは、まぎれもない「AIの成熟」と呼べる姿だった。
今回Googleが示したのは、単に優れた文章や画像編集を行うAIにとどまらない。テクノロジーの存在そのものを根本から捉え直し、再設計する試みだったのだ。もはや私たちが検索窓にキーワードを打ち込むだけの時代は終わろうとしている。人間とテクノロジーとのコミュニケーションは、単なる論理的な操作(ブール演算)を超え、直感的な対話へと進化し始めた。Googleが築き上げてきた従来のインターネット環境は、いま劇的に姿を変えつつある。
1998年に掲げられたGoogleの使命は、「世界中の情報を整理し、あらゆる人が簡単に使えるようにする」ことだった。しかしAIが本格的に動き出した今、焦点は情報を整理することから、「必要な情報を自動で届けること」へと変化している。
検索結果に並ぶお馴染みの「青いリンク10個」は時代遅れとなり、AIが自動的に検索や情報の統合を行うようになる。従来型の検索リンクは文字通り画面の下へと追いやられつつあるのだ。
同時に、ウェブサイトへのアクセス数は急激に減少しており、一部の検索エキスパートはその原因をAIベースの製品が急増したためだと指摘している。Googleの幹部ですら、検索トラフィックが今後さらに減少するのは避けられないと認めているほどだ。
Googleが混乱に陥ったのは、2022年末にChatGPTが突然登場した時だった。検索という安定収入に安住していたGoogleを脅かす存在とみられたからだ。OpenAIが提供する画期的なChatGPTのリリースにより、社内は危機感に包まれ、いわゆる「コードレッド(最高警戒態勢)」が発動された。Googleは急遽、社内の組織構造をAI中心に再編する必要に迫られた。
Googleの収益源は、その多くがオンライン検索と連動する広告だ。そのため、AIによって検索方法そのものを一変させる存在は、Googleの基盤を揺るがす重大な脅威となった。こうして、ChatGPTを擁するMicrosoft支援のOpenAIと、Googleとの間に、巨額の資金を投入した熾烈な「AI覇権争い」が勃発した。
両社は今なお、人々にとって「唯一無二のAI」になるために激しい攻防を続けている。テキスト、画像、コード、そして動画生成ツールまで、多様なAI分野でどちらがより優れたサービスを提供できるか、互いに熾烈な競争を繰り広げている。
背景にあるのは、2030年までに8260億ドル(約115兆円)という規模に成長すると予測されるAI市場だ(Statista調べ)。
この莫大なチャンスをつかむため、大手テクノロジー企業がいち早く覇権を握ろうと必死になるのは当然だろう。現に、サービス開始から急成長を遂げたChatGPTは週次アクティブユーザー数が4億人を突破。一方、GoogleのAIチャットボット「Gemini」も世界200を超える国と地域で4億人のアクティブユーザーを獲得し、その存在感を見せつけている。
「Geminiは、単に高度なAIモデルであるだけではありません。Googleのハードウェアやソフトウェアとの融合をますます深めています」と、調査会社Techsponentialの代表アナリスト、アヴィ・グリーンガート氏は指摘する。
「今年のGoogle I/Oの基調講演には、『今まさに実用可能なAI』、『間もなく利用できるAI』、『まだSFの領域を抜け出せないAI』が入り混じっていました。しかしGoogleは、単にAIモデルを巨大化させるだけでなく、動画編集ツールやテキストを自在に操る画像生成AI、ユーザーの文脈をくみ取って応答するAIなど、実用性を着実に高め続けているのです」
過去のGoogle I/Oから明確に変化した点は、その語られ方にある。2023年当時は、AIといえばメール作成や写真補正といった日常のちょっとしたタスクを支援する「便利な道具」としての位置付けだった。
だが2024年には、GoogleはAIアシスタントの「Bard」を「Gemini」に改称し、AIを使った未来像をさらに明確に示した。たとえば、ARグラスを通して見る新しいAI体験のコンセプトを披露したり、検索結果画面の上部にAIが質問に自動で答える「AI Overviews」を導入したりして、従来型の検索リンクをクリックしなくても情報が得られる仕組みを作り、出版社を慌てさせた。
そして2025年の今年、Googleはさらなる進化を遂げていた。伝統的なインターネットとの関わり方を根底から覆し、ユーザーの「時間と手間の削減」を徹底的に追求した。昨年は検索結果のトップ部分にAIを融合させただけだったが、今年は「AI Mode」と名付けられた新しい検索タブを導入。ここではGeminiと検索が完全に一体化し、かつて見慣れていた「青い10本のリンク」は姿を消した。
代わりに現れたのは、人間同士の会話と同じ自然な言葉による純粋なAIチャットだ。オンラインショッピングでは、自分の写真から作成したリアルな3Dボディに服を着せて試着体験をする「Try On」モードが登場。ビデオ通話やAI搭載のスマートグラスは即時のリアルタイム翻訳を提供し、新しい言語を学ぶ必要性すら減らしてしまう。プログラミングに至っては、シンプルな指示だけで複雑なアイデアをコード化できるようになり、もはや専門的な学位すら不要になりつつある。
「Googleは今年のI/Oで、検索、買い物、コミュニケーション、クリエイティブな作業など、生活のあらゆる場面から利用者の『面倒な手間』を徹底的に排除することで、AI競争のレベルを一段階引き上げました」と語るのは、顧客体験戦略を専門とする企業VectorHXの創業者、エリック・カロフスキー氏だ。「ただし、AIが実際に社会に浸透するためには、魅力的なデモを見せるだけでは不十分です。本当の難しさは、企業がこれをどう実務に取り入れるのか、どのように業務プロセスを変えていくのか、そしてAIがもたらす根本的な体験の変化をいかに評価・測定していくのかにあるのです」
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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