ソニーは近年、市場最高クラスのノイズキャンセリングヘッドホンを開発してきた。前フラッグシップモデルの「WH-1000XM5」の発売から3年で登場する新フラッグシップの「WH-1000XM6」は、大きな話題となるだろう。
XM5は発売当時も現在も、トップクラスに位置するオーバーイヤー型Bluetoothヘッドホンだ。しかし、改善の余地は常にある。XM6ではわずかにあった前モデルの設計上の欠点が修正され、全体的な性能が向上した。競合製品をわずかにリードする、トップクラスのヘッドホンと言えるだろう。
絶賛のように聞こえるかもしれない。実際そうだと思うが、気に入った点の前に悪いところから話そう。それは、450ドル(約6万5000円。ただし、日本での販売価格は5万9400円)という価格だ。400ドルという高額商品のXM5よりも、50ドルも高い。関税やインフレの影響もあるが、ヘッドホンに450ドルは高いと言わざるを得ない。
とはいえ、Boseは「QuietComfort Ultra Headphones」の希望小売価格をこっそりと430ドルから450ドルに引き上げたし、新しい「Bowers & Wilkins Px7 S3」、高評価の「Sonos Ace」も同様に450ドルだ。Appleの素晴らしい「AirPods Max」も約480ドルのため、残念ながらこれが現在の高級ノイズキャンセリングヘッドホンの相場と言える。
一見すると、XM6はXM5とかなり似ている。カラーバリエーションは「プラチナシルバー」「ブラック」と(日本では未発売の)「ミッドナイトブルー」の3色で、重さは254g。XM5より4グラムとわずかに重くなったが、385gもあるAirPods Maxと比べると非常に軽量だ。
一方、先述通りわずかにデザインが変わり、ユーザーや評論家からの小さいが目立っていたXM5へ不満に対応。XM5が前モデル「WH-1000XM4」からアップデートする際、コンパクトに折りたためるデュアルヒンジ設計が廃止されて不満を抱く人がいたが、XM6で復活となった。
キャリングケースも若干小さくなった。ケースにヘッドホンを収納するのはややコツがいるが、マグネットで開閉できる点を含めてお気に入りのデザインだ。
電源ボタンのデザインも改良され、気に入っている。丸みを帯びて凹んだデザインとなり、ノイズキャンセリングと外音取り込みモード(ソニーでは「アンビエントサウンドモード」と名付けている)を切り替えるボタンと物理的に区別しやすい。音声通話やビデオ会議中のマイクのミュート/ミュート解除も設定できる。(その場合、iOSおよびAndroid向けの「Sony Connect」アプリの設定で有効にする必要がある)。
私はXM5のヘッドバンドに不満はなかったが、幅が狭いと感じた人もいたようだ。XM6ではヘッドバンドがより広くなり、イヤーカップの外観も楕円ではなく円形になった。しかし、デザイン性とクッション性に優れたイヤーパッドの採用は継続されている。(オーバーイヤー型ヘッドホン全般に言えることだが、暑い日には耳が蒸れる。しかし、合成皮革のイヤーパッドは羊革パッドと比べてやや通気性がいい。)
タッチコントロールはXM5と同じで、物理ボタンは電源とNC/アンビエントボタンのみ。ハウジング部のタッチセンサーコントロールパネルの上下で音量が調整でき、前後のスワイプで曲の送り/戻しが操作できる。
個人的には物理ボタンの方が好みだ。しかし、ソニーのタッチコントロールは非常に優秀だと思う。極寒時に操作できなくなるという問題(特にWH-1000XM3で顕著だった)も解決されたようだ…
全体的に見て、XM6はXM5よりも少しだけ、頭のフィット感がいい。締め付けすぎず、よりぴったりと安定して装着できる。本当に快適だがフィット感はややタイトなため、イヤーパッドとの密閉性が少し向上している。
デザインは、微妙な変化でもノイズキャンセリングや音質に影響を与えることがある。XM6は新たに強力なQN3チップ(ソニーによると、XM5のQN1チップの7倍の性能)を搭載し、マイクの数はXM5の8基に対してXM6は片側6基、合計12基に増やした。30mmのドライバーユニットはドーム部の剛性を高めている。これらのアップグレードがパフォーマンス向上の最大の要因といえる。
XM5は、ノイズキャンセリングと通話性能が優れている。音質については後ほど触れるが、BoseのQuietComfort Ultra Headphonesと比較したところ、XM6のノイズキャンセリングがわずかに上回った。私が体験した中で最も優れたノイズキャンセリングと言えるかもしれない。
AppleのAirPods MaxやSonos Aceのノイズキャンセリング性能も非常に優れているが、通常はノイズキャンセリングの王座をBoseとSonyが交互に争い、新モデルが出るたびにどちらかが一歩リードする形となっている。
ニューヨークの騒がしい街中や地下鉄で長時間このヘッドホンを使用したところ、驚くほど広い周波数帯域で音を遮断してくれた。ほとんどのノイズキャンセリングヘッドホンは低音域の遮音は得意だが、高音域や人の声の遮音は苦手だ。XM6は周囲の人の声はかすかで、音量は以前よりも抑えられていた。
一人の意見では偏るかもしれないので、同僚数人にこのヘッドホンのノイズ遮断性能を試してもらった。その結果、多くの同僚が「XM6の方がBoseよりもわずかに優れている」と感じたようだ。(厳密な科学的テストではないが、その反応は私のレビュー動画で確認できる)
XM6のノイズキャンセリングは、XM5に搭載の「オートNCオプティマイザー」の改良版「アダプティブNCオプティマイザー」が搭載されている。デジタル処理性能が向上したということだろうが、いずれにせよXM6のノイズキャンセリングは、遮音の自然さと精度が一層高まったように感じる。アンビエントサウンドモード(外音取り込みモード)も少し改善され、より自然に聞こえるようになった(Appleは外部音取り込みで地位を確立したが、他社もそれに追いつきつつある)。
XM5は、最高レベルのノイズリダクション機能による、優れた通話性能を備えている。ソニーは、XM6は通話専用のAIビームフォーミングマイクを4基から6基に増やし、性能をさらに強化したとしている。
私がニューヨークの騒がしい街中でXM5を使った時、通話相手は「屋内にいるのかと思った」と言っていた。街のノイズはほとんど聞こえず、私の声はおおむねクリアに聞こえたそうだ。
XM6も同様のため、実際のところ通話面でどれ位向上しているかを判断するのは難しい。しかし、デジタル処理によるノイズフィルター機能で周囲の雑音を効果的に抑えつつ話者の声を的確に拾い、音の揺れを最小限に抑えながらクリアに伝えることができる、最高クラスのヘッドホンであると言えよう。
なお、私のXM6レビュー動画では、通話音声のサンプルも紹介中だ。
ソニーのヘッドホンは、豊富な機能を常に搭載している。XM6も同様だ。例えばソニーが他社に先駆けて導入した「Speak to Chat(話しかけ検出)」機能では、誰かと会話を始めると自動的に音量が下がるとともに、ノイズキャンセリングモードから外音取り込みモードへ切り替わり、周囲の音を取り込む。「クイックアテンション」機能では、右側のセンサー部に手をかざすだけで自動的に音量が下がり、外音取り込みモードに切り替わる。
また、ソニーはSony Connectの簡素化を進めているが、設定項目は依然として豊富だ。イコライザー設定、シーンごとのリスニング設定、うなずいて通話に応答・横に振ると拒否といったジェスチャー設定など、調整可能な設定がまだまだたくさんある。
XM6には、ソニーの360立体音響技術を使った「360 Reality Audio Upmix for Cinema」機能を活用した「シネマリスニングモード」の一部として新たに、ヘッドトラッキング対応の空間オーディオ機能が搭載された。
少し使ったが、正直にいうとまだ検証中だ。というのも、Appleのヘッドホンやイヤホンのように、「空間オーディオのオン/オフ(ヘッドトラッキングあり・固定)」といった単純な切り替えオプションが見当たらないため、どう使うかが少しわかりくいのだ。
デフォルトのオーディオコーデックはAACだが、AndroidユーザーはソニーのBluetoothストリーミング向け高音質LDACコーデックも選択できるほか、SBCおよびLC3コーデック、Bluetooth 5.3に対応する。Auracastによるブロードキャストオーディオについては言及がないが、将来的に対応する可能性はあるかもしれない。
XM4からXM5へのアップグレードでは、ドライバーサイズが40mmから30mmへと変更された。音質が劇的に変わり、好まない人も一定数存在している。XM4は現在も販売中で、より暖かみがあり、大きく力強い低温が特徴だ。一方、XM5はより繊細かつ締まりのある低音が特徴となっている。
XM6の音は、基本的にはXM5の強化版で、より滑らかかつ繊細で明瞭な中音域、わずかに向上した低音性能、といった具合だ。より豊かなサウンドで、音の深みと広がりが増している。
バランスが良く、さまざまな楽器の配置が正しく把握できるような正確な音で、ややスタジオヘッドホン的な雰囲気がある。ソニーのハイエンド有線ヘッドホンにより近い印象だ(とはいえ、ソニーはこのモデルをモニターヘッドホンとは位置づけていない)。
普段ヘッドホンのテストに使っている定番の楽曲を、一通り再生してみた。Spoonの「Knock Knock Knock」、Athletes of Godの「Don't Wanna Be Normal」、Orbitalの「Dirty Rat」、Bjorkの「Hollow」、Drakeの「Passionfruit」、Pixiesの「Vault of Heaven」、Florence and the Machineの「Choreomania」、Foo Fightersのさまざまな楽曲、そしてCar Seat Headrestの「The Scholars」、CNETのホームオーディオ編集者であるタイ・ペンデルバリー氏のお気に入りの新作アルバム(非常に良く録音できている)など、再生ジャンルは多岐に渡る。
XM6の音質を、Bose QuietComfort Ultra Headphones、Sonos Ace、AirPods Maxといった前述の競合モデルとじっくり比較した。Bowers & Wilkins PX7 S3はまだレビュー用サンプルを入手していないが、入手次第コメントを追加する予定だ。これらすべてのモデルは、音質こそ微妙に異なるが、どれも非常に音質の良いBluetoothヘッドホンだ。
ソニーは今回のXM6の開発で、ニューヨークにいる極めて優秀な音響エンジニアを起用したことを強調している。発売前にそのうちの一人と話したところ、音質面で最も強力なライバルはAirPods Maxと話していた。Sonos Aceもかなり健闘していると思うが、私もその意見には概ね賛成だ。
ただ、個人的にはソニーのヘッドホンの中音域の表現により好感を持っており、低音にもわずかにキレを感じている。非常に深い低音を含む楽曲でも、ソニーのヘッドホンはその低域を見事に再現し、全体として非常に安定したサウンドを実現していた。
ワイヤレスBluetoothヘッドホンの課題の一つは単純に、音質に限界があることだ。ソニーをはじめとする各社から、250ドル程度でこのモデルと同等、あるいはそれ以上に良い音質の有線ヘッドホンを購入できる。
そこで、XM6を有線モードで使用し、最高の音質を聴き込んでみた。AirPods MaxのようなUSB-Cオーディオは非対応だが、同梱の有線ケーブルをポータブルヘッドホンアンプに接続し、ロスレス音源を再生したところ、明らかに音の透明感が増したのだ。有線モードではAirPods Max同様に特別な音質を体感できる、オーディオマニアにとってより魅力的なヘッドホンといえよう。
バッテリー駆動時間にも簡単に触れておこう。XM5と同様に、XM6はノイズキャンセリングをオンにした状態で中程度の音量なら最大30時間、オフにすれば最大40時間の使用が可能とされている。バッテリーが切れた場合でも、3分間の急速充電で約3時間の使用できる。また、新たに「充電しながらヘッドホン使用」可能となった。
XM6の要点をまとめてみよう。
ソニーがAudezeを買収し、150ドルの同社の「PULSE Elite ワイヤレスヘッドセット」に平面磁界ドライバーを搭載したように、XM6にも取り入れられることを期待していた。それは実現しなかったが、XM6は確実に全体的な進化を遂げた。私の概算では20~25%程度の向上と見積もっている。
すでにXM5を持っていれば、XM6を急いで定価で購入する必要はない。一方で、XM4のユーザーは欲しくなるかもしれない。
他の高級ノイズキャンセリングヘッドホンと比べると、わずかながらXM6に軍配を上げたい。デザインの改良、音質の向上、ノイズキャンセリング性能、そして卓越した通話性能を兼ね備え、ノイズキャンセリングヘッドホンとして非常に完成度の高いパッケージといえる。
将来的には、AirPods Maxの第2世代モデルが登場するかもしれないし、いずれBoseも2023年10月に発売したQuietComfort Ultraの後継機を出すはずだ。しかし現時点では、Sony WH-1000XM6がノイズキャンセリングの王者であると言って差し支えはないはずだ。450ドルという価格は残念だが、秋やホリデーシーズンの割り引きを期待したいところだ。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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