アーティストの努力はAIに奪われるのか? 共存の可能性を問う

Sabrina Ortiz (ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎2025年03月19日 07時30分

 生成AIの人気が急上昇し始めた頃から存在する、簡単で楽しい利用法の1つが、テキストでの説明からメディアを生成することだ。ビジネスにAIを利用しているプロフェッショナルか、一般人を問わず、簡単にテキストでプロンプトを入力してボタンを押すだけで、思い描いた画像や動画など生み出す楽しい経験を味わうことができる。

生成AIのイメージ画像 提供:Adobe/ZDNET
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 その体験は一見無害に見える。しかしその裏側では、アーティストにさまざまな影響が及んでいる。

  1. 何が問題なのか
  2. 企業にできること

何が問題なのか

 画像生成AIブームの火付け役となったOpenAIの「DALL・E 2」をはじめ、世の中に出回っているテキストからメディアを生成するAIの多くは、インターネット全体からかき集めたデータをクリエイターからの明確な許諾がないまま使ってトレーニングされたものであり、これにはアーティストが生み出したさまざまな作品が含まれている。

 これは、写真や、絵や、詩や、アートや楽曲といった、アーティストたちが創作活動をしながら積み上げてきたものすべてが、本人の許可なく簡単に複製できてしまうことを意味する。作品がトレーニングに使われてしまったことで、アーティストは自分たちの作品を勝手に再生産され、創作スタイルのオーナーシップを制御する手段を奪われ、アーティストのアイデアをコピーすることでAI企業が得ている収入に対して権利を主張することもできなくなっている。

 AI企業やAIモデルとアーティストの関係は収奪的なものだ。AI企業は、アーティストが人生を賭けて作ってきた作品を奪い、それを利用して利益を上げている。この問題には多くの人々が声を上げており、モデルを構築する際にはアーティストのことを考慮すべきであり、その作品の利用に対して公正な対価が支払われるべきだと要求している。

 2010年からAI音楽の分野に携わっており、自身も作曲家であるEd Newton-Rex氏は、2024年に生成AI企業のトレーニングデータに関する取り組みが公正であることを認証する非営利組織「Fairly Trained」を設立した。同氏は以前、Stability AIで「Stable Audio」の開発チーム責任者を務めていたが、アーティストからの許諾なしに作品を使ってトレーニングを行うことに対する同社の立場に反対して、その役職を辞した。

 Newton-Rex氏は、South by Southwest(SXSW)で行われたカジュアルな対話形式でのセッションで、著作権が抱えている大きな問題に光を当て、アーティストの作品を作者の許諾なしに使用するのは不当であるだけでなく、すでに飽和状態にある市場の競争をさらに厳しくするものだと指摘した。しかもそれには、アーティストら自身の作品が利用されているのだ。

 「生成AI市場に参入している企業の多くは、莫大な資金をつぎ込んで、クリエイターの意向に反して、クリエイターを利用してクリエイター自身にとって非常に強大な競争相手を生み出している」と同氏は言う。

 米国の著作権法にはフェアユースの概念があり、AI企業は、著作権で保護された素材を使って合法的にAIモデルをトレーニングすることができる。フェアユースとは、公正な利用であれば著作物を許可なく利用できるとする考え方だ。

 今ある法律が明確にクリエイターの味方をしてくれていない中で、クリエイターとAIシステムの両方が共存共栄できる方法はあるのだろうか。端的に言えばその答えはイエスであり、その解決策は利用許諾の取り扱い方にあるかもしれない。

企業にできること

 テキストからメディアを生成するAIには、スキルやリソースを持っていない人でも何かを生み出す手段にアクセスできるという明確なメリットがある。しかし理想を言えば、そうしたAIは、クリエイターに取って代わるものではなく、クリエイターを支え、創作のエコシステムを豊かにするものであるべきだ。Newton-Rex氏によれば、その目標に向けた最初の一歩は単純なことだという。

 「まず、何かを盗むべきではない」と同氏は言う。

 すでに一部の企業は、このアプローチを採用し始めている。例えばGetty Imagesは、2023年に「生成AI by Getty Images」を発表した。このAIはGetty Imagesが持つ豊富な画像ライブラリーのみを使ってトレーニングされており、その際に作品が使用されたクリエイターは収益を得られる仕組みになっている。

 Adobeの生成AI「Firefly」でも同様のアプローチが採用されており、より安心して商業利用できるものになっている。このモデルのトレーニングには、「Adobe Stock」の画像、オープンライセンスのコンテンツ、パブリックドメインのコンテンツだけが使用されている。同社はまた、トレーニングセットに作品が使用されたクリエイターへの補償も行っている。

 しかしこのアプローチには、ライセンス的に安全なデータセットの入手や作成にはコストと時間がかかるといった本質的な課題があり、多くの企業はこのやり方を採用していない。これは、AI開発競争を勝ち抜くために、急いで次のモデルをリリースしたいと考えているAI企業にとって非常に不利だからだ。

 「そうすれば確かに動きは遅くなるだろうが、最終的に同様のレベルにたどり着けることは明らかであり、法律を破らず、しかもクリエイティブ業界全体やクリエイターの世界を敵に回さずにそれを実現できる。多くのAI企業は、その大きな間違いを犯している」とNewton-Rex氏は言う。

 また、メディア生成AIの使われ方については、もう1つしっかりと考えておくべきことがある。それは、これだけ簡単にコンテンツが生み出せるようになると、メディアプラットフォームがAIが生成した音楽や、画像や、動画などで溢れかえってしまう可能性があるということだ。Newton-Rex氏は、そうなれば、いずれクリエイターが作品から得ている収入やロイヤルティに対する関心が希薄化してしまうことに繋がる恐れがあると考えている。

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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