指輪が「小さな医師」になる--業界リーダーOuraのCEOが語るスマートリングの未来

Nina Raemont (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2025年03月18日 07時30分

 筆者はスマートリング「Oura Ring」をかれこれ1年以上つけている。使い勝手を聞かれた時は、看板に偽りなしと言える珍しい製品だと答えることが多い。

スマートリング 提供:ZDNET
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 Oura Ringは体調の悪化を予測し、心拍数の変動を検出し、朝食の写真をもとに食材を正確にリスト化し、身体的・精神的なストレスをリアルタイムで記録してくれる。初めてOura Ringをつけて空港のセキュリティチェックを通過したとき、「日中のストレス」の値が驚くほど跳ね上がったことを今でも覚えている。

 Oura Ringとそのブランドは、広告通りに動くテクノロジーが生み出す魔法のような体験を体現する存在だ。このことを先日、Ouraの最高経営責任者(CEO)Tom Hale氏に伝えたところ、テクノロジー製品への期待値が低すぎないかと笑われた。そうかもしれない。Ouraは飽くなきイノベーションによって市場でのポジションを獲得した。その背中を今では多くのテクノロジーブランドが追う。

 Ouraがスマートリングを初めて発売したのは2015年のことだ。一方、サムスンが初のスマートリングを発売したのは2024年だ。Appleがスマートリングを開発しているといううわさもあるが、仮に事実だったとしても、発売は早くて数カ月後、もしかしたら数年先になるかもしれない。他社がなんとか追いつこうとしている間に、Hale氏はさらに壮大な計画を描いている。それは、Oura Ringによって人々の健康を増進するというミッションだ。

医師が足りない

 この大きなミッションの背景には、現代の医療システムが抱える問題、つまりプライマリケア(初期診療)を担う「かかりつけ医」が不足しているという状況がある。「人口に対する医師の数は過去最高の水準にあるのに、プライマリケアを提供する医師が足りていない」とHale氏は言う。

 一人ひとりに合わせた予防的なケアを常時提供することで、Oura Ringは「コンシェルジュドクター」として、この問題の解決に貢献できるのではないか――。

 このビジョンは、歩数や睡眠時間を記録するだけの従来のヘルストラッカーとは一線を画す。Ouraが目指しているのは単なる歩数計ではなく、パーソナライズされたかかりつけ医のような存在だ。

 このビジョンに向けて、Ouraは精度の向上、プライバシー保護の強化、病気を予測し、休息を促す機能(例えば「症状レーダー」)の導入、医療機関との提携、ヘルスケア分野の有力ブランドの買収などを進めてきた。

 「機械が守護天使、あるいは小さな医師のように自分を見守ってくれるという、この種のモデルの力によって、状況はがらっと変わるだろう」とHale氏は語る。

 現在のOura Ringは、基本的には健康関連のデータを収集・記録できるウェアラブル製品にすぎないが、同社の目線は高い。2025年1月には民間医療保険プログラム「Medicare Advantage」を展開するEssence Healthcareと提携し、会員にOura Ringを無償で提供し、健康管理に役立ててもらう取組みを開始した。

 会員はOura Ringのセットアップ時に、効率的なケアを受けるためにOura Ringが収集する健康データをEssenceのケア担当チームと共有するかどうかをたずねられる。この斬新なパートナーシップについて、Ouraのヘルスケア担当バイスプレジデントのJason Oberfest氏に話を聞いたところ、今後も代謝・心血管の健康や女性の健康といったカテゴリーで同様の提携を進める計画があるという。

Oura Ring 4 最新のOura Ring 4
提供:Lisa Eadiccico/CNET

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プライバシーを最優先

 新たな提携や機能の開発を進める一方で、Ouraは最近、一部のAI機能の処理を現在のクラウドベースからデバイス上での処理に変更することを発表した。これはAI企業webAIとのパートナーシップを通じて可能になったもので、処理とストレージの安全性と速度の向上が期待できるという。「ユーザーのデータをユーザーの健康増進以外の目的で使用する動機やインセンティブは当社にはない」とHale氏は言う。

 多くの人はOuraをテクノロジー企業と認識しているかもしれないが、Hale氏はOuraを健康やヘルスケアのブランドに近いと考えているという。もちろん、Oura自体は医療機関ではないが、医療サービスを提供しているさまざまな組織と提携している。

 そのため、Ouraが掲げるプライバシーポリシーや基準は非常に厳しく、安全性を追求したものでなければならない。現在のようにAIが急速に進化している不確実性の高い状況では、これは非常に重要な意味を持つ。「当社のような企業には、規制の整備を待たずに正しい行動を取ることが求められる」とHale氏は語る。

 テクノロジーからヘルスケアへ――Ouraブランドが目指す進化は、IT業界全体で進んでいる大きなトレンドとも符合する。Apple傘下のイヤホンブランドBeatsは最近、心拍センサーを搭載したワークアウト用イヤホン「Powerbeats Pro 2」を発表した。ウェアラブルブランドのWithingsは2025年1月、ユーザーの心臓関連のデータを認定心臓専門医に送り、医療レビューとフィードバックを受けられる「Cardio Check-Up」を発表した。

 2024年にはAppleが「AirPods Pro 2」に聴力チェック機能を追加し、「Apple Watch Series 10」と「Apple Watch Ultra 2」に睡眠時無呼吸症候群の検出機能を搭載した。どちらの機能も2024年に米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けており、収集したデータは診断や治療の参考資料として医師に提供できる。

 なぜテクノロジー企業はこぞって健康機能に力を入れているのだろうか。Hale氏の意見はこうだ。Oura Ringのようなウェアラブルデバイスは常時身につけ、計測を続けることを前提としているので、かかりつけ医による30分間の診察やバイタル測定では捉えきれない、多面的な健康データを入手できる。

 技術自体の精度も上がり、医療レベルに近づきつつあるため、診察に取り入れる医療機関も増えつつある。こうした要因と、コロナ危機によって露呈した米国の医療システムのもろさ、他の富裕国の平均2倍に達する医療費などを考え合わせると、テクノロジー企業が健康機能に注力する理由が見えてくる。

持ち運べる小さな医師

 2024年、Ouraは代謝の健康に特化したプログラムを提供するVeriを買収し、持続血糖モニター(CGM)を製造するDexcomとの戦略的提携を発表した。

 CGMは、もともとは糖尿病やインスリン抵抗症の患者だけが使うものだったが、現在は健康管理ツールとしても人気が高い。腕につけるだけで、食事が身体に与える影響を瞬時にデータ化してくれるからだ。CGMは食事やストレス、運動に対する反応は人によって違うことを証明しているとHale氏は言う。

 Oura Ringが個人の睡眠や活動量を分析し、パーソナライズされた情報を提供するように、CGMは食事がエネルギーや身体に与える影響を教えてくれる。CGMの最大のポイントは、健康を増進する方法は人によって違うということだ。

 「何世紀もの間、科学は『平均値』に基づいて展開されてきた」と、Hale氏は言う。「しかし、今後は『N-of-1』が大きな力を持つようになる」(N-of-1は、1人を対象に最適な解決策や診断を見つける臨床試験のこと)

 「どう呼ぶにせよ、この『持ち運べる小さな医師』というビジョンは、遅かれ早かれ実現すると考えている。一気に起きるわけではないし、世界中で同時に起きるわけでもない。しかし、確実に実現しつつある」とHale氏は言う。

 「これは世界で起きている重大な問題、つまり人々が十分な医療を受けられていないという問題の解決につながる。このプロセスに少しでも貢献したい。人々が信頼し、安心できる形で役に立ちたい。それが当社のビジョンだ」

Oura Ring

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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