「壊れたら買い替え」はもう古い?全米で広がる「修理する権利」がもたらす変革

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 石橋啓一郎2025年03月05日 07時30分

 米国では、消費者の権利とサステナビリティの問題が交差する、ある領域の問題で大きな節目を迎えた。2月第4週をもって、米国の50州すべてで「修理する権利」に関する州法案が提出された。この権利は、人々が自分が所有する機器を自分で修理したり、自分が選んだ人に修理してもらう法的権利を保証するものだ。

ばりばりに割れたiPhoneの画面 提供:James Martin/CNET
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 この権利を最初に法制化したのはニューヨーク州で、2022年に法案が可決され、カリフォルニア州、ミネソタ州、オレゴン州、コロラド州がそれに続いた。この法案が最後に提出されたのはウィスコンシン州だった。まだすべての州で法案が可決されたわけではないが、もはや米国内にこの法案が真剣に議論されていない州が存在しないという事実は、技術製品を持っているあらゆる人にとっての勝利であり、地球環境にとっての勝利でもある。

 この運動を推進しているオンラインコミュニティであり、修理用部品小売業者でもあるiFixitの最高経営責任者(CEO)Kyle Wiens氏は、電子メールでの取材に対し、この節目を迎えられたことは「単なる法制度上の成果ではなく、文化の革命だ」と語った。

 筆者は長年のあいだ消費者向け技術や気候変動について取材してきたが、この2つの領域が最も密接に関わり合っているのが、電気電子廃棄物(E-waste)の問題と、機器が修理できるようになることで何が解決できるかという問題だ。CCS InsightのチーフアナリストBen Wood氏は、修理する権利の法制化の機運が高まっているのは、「消費者向け電子製品に由来するE-wasteの量があまりに膨大であることへの懸念の高まりを反映している」と述べている。

 2024年に発表された国連のレポート「Global E-waste Monitor 2024」によれば、人類が1年間に排出する電子電気廃棄物の量は、2022年に6200万トンに達したという。これは、40トントラックの車列で赤道一周分に相当する量だ。これによって公害のリスクが高まるだけでなく、廃棄される機器を買い換えるための新しい製品の製造にもエネルギーが消費されるため、二酸化炭素排出量も増加する。どちらも気候変動問題を悪化させる要因であり、地球温暖化や異常気象の増加に繋がる。

 この問題を解決するための小さいが重要な取り組みが、私たちが購入する機器の寿命をできる限り長く使い、ゴミとして埋め立てられられないようにすることだ。残念ながら、技術製品メーカーは必ずしも消費者にそうして欲しいとは思っていない。製品を修理せずに買い換えてくれた方が、利益が増えるからだ。

 AppleやサムスンなどのIT企業は、この10年ほど、メーカー自身による再生製品販売プログラムの導入や、一定程度消費者が自分で製品を修理できるようにするなど、製品寿命を延ばすための重要な取り組みを進めている。しかし、これらの取り組みは完璧からはほど遠い。

 技術製品を計画的に陳腐化させる行為は、20世紀初頭の自動車メーカーにまで遡るもので、高価な製品のライフサイクルの短さは、現在でも広く見られる一般的な問題だ。技術製品のメーカーは今でも、常に消費者に次の買い換えのことを考えて欲しがっている。

 心待ちにしていた新型スマートフォンを購入する時には忘れていることが多いが、その製品の動作が鈍くなって使い物にならくなったり、単純に壊れてしまったりするまでにそれほど時間はかからない。

 「消費者はガジェットが大好きだが、製品が動かなくなった時に何が起きるかについてはあまり考えていない」とWood氏は言う。「製品を修理しやすくしたり、製品寿命を延ばそうとするあらゆる取り組みは、賞賛されるべきものだ」

 米国中で「修理する権利」に関する法案が次々に提出される(欧州でも同様のことが起こっている)原動力になっているのが、公益団体や、農家や、専門家や、私たちのような一般的な技術製品ユーザーによる運動だ。草の根の努力が、連邦政府レベルではないとしても、米国全体に影響を及ぼしている。

 Wiens氏は、「私たちが目撃しようとしているのは、計画的な製品の陳腐化よりも持続可能性が重視され、製品の使われ方を縛ろうとする企業よりも個人の権利を強くする、修理経済の再誕だ」と述べている。

 同氏は、これはハイテクトラクターを修理できるようにしたいと願う農村部の農家や、IT製品に対する真の所有権を求めている都市部のITマニアが共通の目的の下に団結できる、政党や派閥を超えた問題だと付け加えた。

 「法案が提出された各州のさまざまな関係者もまた、自分には理解できず、メンテナンスも、改造もできないものを『所有』しても、実際にそれを所有していることにはならず、前払い料金でレンタルしているのと変わらないことを理解している」とWiens氏は言う。

 次に巨大で低品質なテレビを買い換える時や、スマートウォッチのバッテリー容量が減り、買い換えが必要だと感じた時には、別の選択肢があるかもしれないと思い返してみてほしい。住んでいる国や州にもよるが、「修理」という選択肢がすでに法律上の権利になっているか、近い将来そうなるかもしれない。その場合、皆さんがIT製品をできるだけ長く使うために手を加えることを、いかなるIT企業も邪魔することはできない。

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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