企業向けAI「クリスタル」に透ける「サム・アルトマンを死ぬ気で支えたい孫正義」の構図(石川温)

 ソフトバンクグループとオープンAIは2月3日、生成AIの共同出資会社「SB OpenAI Japan」を設立すると発表した。

 両社で企業向けのAI「クリスタル・インテリジェンス」を開発。企業内で持つあらゆる内部データをすべてAIに取り込み、企業が営業や経営戦略の立案にAIを活用できるようになるという。企業専用のAIエージェントにより、社員に変わって顧客対応や営業活動をしてくれるだけでなく、会議に出席し、意思決定の際のサポートも行ってくれるという。

 ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏は「大企業向けの最先端AIを世界で初めて日本からつくっていく。企業のなかに最先端の知性をつくる」と語り、企業向けから最先端AIの事例を構築し、世界展開を目指していく。OpenAI CEOのSam Altman氏も「日本を手始めに世界中で展開したい」と意気込んだ。

  1. 企業向けAIで重要な「長期記憶」の特許を取得
  2. 年間4500億円の支払いは妥当か

企業向けAIで重要な「長期記憶」の特許を取得

 孫氏は企業向けAIにおいて「長期記憶」が重要だと力説する。例えば、会議では過去の議事録を記憶し、過去の情報とリアルタイムのデータを照らし合わせることで、適切な回答、助言が可能になるとしている。

 孫氏は「実は私が長期記憶に関する基本特許を2015年に取得していた。特許を出願していたことは覚えていたが、取得できていたかは定かではなかった。先ほど、調べてもらったら取得できていたということで、今日は気分がいい」と満面の笑みで語った。

年間4500億円の支払いは妥当か

 この「クリスタル・インテリジェンス」、採用する大企業の第一号となるのがソフトバンクグループだ。携帯電話事業を手がけるソフトバンクだけではく、LINEヤフーやPayPay、ZOZOなどの会社があり、2500のシステムが稼働しているという。人事、労務、財務、法務、マーケティング、R&Dなどの部署に蓄積されたデータがあり、カスタマーサービス、インフラ構築、エンジニアリング、営業、店舗などで活用されている。そのデータをすべてAIに読み込ませ、「クリスタル・インテリジェンス」として、活用していくというわけだ。

 今回、ソフトバンクグループはOpenAIに対して、年間4500億円のシステム利用料を支払うという。孫氏は「SB OpenAI Japanは創業1年目から4500億円の売り上げを得ることができる」と胸を張るが、この4500億円がソフトバンクグループにとって「重荷」にならないか、とても心配だ。

 確かに、社内にあるあらゆるデータを読み込み「AIエージェント」として、企業の意思決定に貢献してくれる夢のようなシステムになるのかも知れない。しかし、初年度からきちんと稼働する保証はない。また、既存の技術で似たようなことはできないのか。技術革新によって、もっと安価に実現できる可能性はないのだろうか。

 いきなりOpenAIに対して年間4500億円を支払うのが妥当なのか、正直、首をかしげたくなってくる。

 今回の資金的な流れを見た瞬間、「こりゃ、孫さんがOpenAIに継続的に資金を提供するためのスキームだな」と思わずうがった見方をしてしまった。クリスタル・インテリジェンスを素直な目で見ることができない自分を反省したい。

年間4500億円のシステム利用料を支払う 年間4500億円のシステム利用料を支払う
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 生成AIを開発、運用して行くには莫大な資金が必要となっている。世界最先端の技術で、他社をリードするOpenAIは開発費の負担が重く、いまだに赤字が続いている。パートナーであるマイクロソフトでさえ、手を焼いていると伝えられている。

 ソフトバンクグループは同社が運営するファンドを通じて、2024年11月にOpenAIに対して5億ドル(約770億円)を出資したばかりだ。OpenAIは2024年9月に66億ドル(約1兆円)を調達しており、その募集に合わせた格好だ。

 当然、OpenAIとしては、資金がいくらあっても足りないわけで、まさに今回のソフトバンクグループとの話は、今後、数年間、継続的に収入を得られる金策として「渡りに船」だったのだろう。

OpenAI CEO Sam Altman氏 OpenAI CEO Sam Altman氏
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 もちろん、ソフトバンクとしてはSB OpenAI Japanは連結子会社なので4500億円の収入が入ってくるという側面もある。しかし、ソフトバンクグループにとっては4500億円を毎年、負担しなくてはならないのは相当、重荷なのではないか。

 実際、ソフトバンクグループの2023年度における売上高は6兆7560億円だ。4500億円を十分、負担できる企業体力は持ち合わせているが、4500億円を毎年、負担するだけの価値を生み出せるのかが注目といえるだろう。

 孫氏はこれまで起業家として、これまでインターネットや携帯電話、ロボット、太陽光発電などの事業に取り組んできたが、AIは孫正義にとっての「集大成」になろうとしている。孫氏はAGI(人工汎用知能)革命を本気で実現しようとしている。そのためのパートナーであるOpenAIのサム・アルトマンCEOを死ぬ気で支える覚悟なのだろう。

 孫氏の情熱にソフトバンクやLINEヤフー、PayPayとZOZOは道連れとなり、まさに人質にされたようなものだ。ソフトバンクが単なる「金づる」でおわらないためにも、クリスタル・インテリジェンスによってソフトバンク全体がさらに成長し、他の企業も導入したくなる成功事例に絶対にする必要がありそうだ。

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