電気自動車(EV)はもはやエコな交通手段というだけではない。未来のEVは、家庭用のバッテリーとしても機能する可能性がある。
EVの普及は緩やかだが、技術の進化は急速だ。2024年第3四半期時点で、米国での軽車両(米国の基準ではテスラ モデルYなども該当)の販売台数のうちEVが占める割合はわずか9%に過ぎなかった。
しかし、その割合は急速に増加しており、米再生可能エネルギー研究所(NREL)は、2030年までに米国で3000万台から4200万台のEVが普及すると予測している。こうした進化は、単にガソリン代を節約したり、二酸化炭素排出量を削減したりする以上の意味を持つ。
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EVの次なるフロンティアは双方向充電技術にある。この技術を使えば、車の大容量バッテリーを停電時に家庭のバックアップ電源として活用できる。フォード、GM、ボルボ、テスラ(サイバートラックのみ)といったメーカーがすでに一部のモデルでこの双方向充電に対応しており、2025年や2026年までには多くのメーカーが同機能を搭載するとみられる。
EVメーカーが双方向充電技術を採用する動きが進む中、この技術はテスラの「パワーウォール」のような家庭用バッテリーバックアップの代替となる可能性がある。太陽光発電バッテリーは必要なときにバックアップ電力を提供するが、設置には数千ドルがかかり、使い道も限定されている。それに対し、双方向充電は移動手段としての役割に加えて、ガレージに停めている間にもEVを活用できるという一石二鳥のソリューションを提供する。
「双方向充電技術は今後さらに普及し、2025年はその技術が転換点を迎える年になるでしょう」と、複数入居者向け建物にEV充電ソリューションを提供するSwtch社のセールスエンジニアリングディレクター、トーマス・マーティン氏は語る。
CNETは自動車メーカーの専門家やこの技術を研究する研究者に取材し、家庭と車の接続の未来について掘り下げた。この技術は本当に独立した家庭用バックアップバッテリーに取って代わるのだろうか。また、この技術がEVの中でもまだ限られたものから主流になるためには、どのような課題を克服しなければならないのだろうか。
2025年における双方向充電技術の進化について、以下に詳しく見ていく。
2025年の双方向充電は、主要な自動車メーカーが自社EVに導入することで、さらなる普及が期待されている。メーカー各社は、家庭向けの車両充電、いわゆる「V2H」だけでなく、あらゆる用途に対応する双方向充電充電、つまり「V2X」への移行を進めるだろう。
「GMのような企業が2026年までに全車両でV2X技術を展開する計画を立てていることから、V2X対応の車両数は急速に増えるだろう」と、Swtch社のトーマス・マーティン氏は述べた。この進展は、V2Xが普及フェーズに入ることを後押しするだろう。
ここでは、ユーザーがV2Xを使うかや技術的な能力だけが重要なわけではない。「商用車両群」と「家庭のエネルギー管理」という2つの大きなトレンドが注目されるだろう。
タクシーなどの商用車両群の所有者にとって、双方向充電の未来は一般消費者とは異なる。たとえば、UPSがトラック向けに車両から電力網へ電力を供給する「V2G」システムを採用している事例がある。オークリッジ国立研究所の研究スタッフであるオマー・オナール氏によれば、UPSが使用するシステムはワイヤレスで充電しながら電力を送電網に戻すことが可能だという。
このようなマイクログリッドの仕組みは、学校のバス、教会、レンタカー会社、運送会社、公共交通機関など、大規模な商用車両群を運営するどの組織にも技術的に適用できる。こうした大規模な商用車両群は、管理が容易でスケジュールが予測可能であるため、V2Gプログラムにおいて特に価値があるとされている。
ボルボ・カーズ・エナジー・ソリューションの責任者であるアレクサンダー・ペトロフスキー氏は、顧客がEVの充電と放電を最適化するアルゴリズムを備えたエネルギー管理システムを必要とすると考えている。このシステムは家庭での消費量や電力価格に応じてEVの充放電を自動的に調整することが求められる。
このような仲裁機能はすでにSolarEdgeのホームバッテリーや、「Tesla Powerwall 3」のような家庭用バッテリーに搭載されているが、車両メーカーやEcoFlow、Savant、Jackery、Bluettiのような企業も同様の技術開発に参入している。
車両側では、フォードがSunrunやBGEと提携して、同社初のEVピックアップトラック「F-150ライトニング」のパイロットプログラムを実施している。
同プログラムでは、家庭への電力供給や電力網へのエネルギー供給が可能だと実証した。GMもまた、同様の蓄電システム「GMエナジー・パワーバンク」を展開している。同システムには、停電時にEVから家庭に電力を供給したり、ピーク時の電力料金を抑える家庭用電力管理システムが含まれている。
仮想発電所(VPP)の実現には、いくつかの追加要素が必要になる。車両と家庭用インバーターを仮想発電所プログラムに接続する必要があり、このシステムはVPPや電力会社によって維持管理される必要があるが、それは思ったほど簡単なことではない。
(編集部注:仮想発電所とは、分散された多数のEVの蓄電池がネットワークで繋がり仮想的な発電所を構築するもの)
さらに、すべての家庭用充電器を設定してインターネットに接続する必要がある。これにより、VPPは、充電が十分にある車両がその時点でどれだけ接続されているかを推測できるようになる。たとえば、充電残量が5~10%しかない車両からはエネルギーを取り出すことができない。そのような車両はまず充電を行う必要があり、オーナーが引き続き使用できる状態を維持することが求められる。
さらにマーティン氏によると、VPP(仮想発電所)や電力網サービスが大きな成功を収めるには、市場規模の拡大が必要だという。システムを導入する人が増え、接続される車両の数が増加すれば、予測がより容易になり、安定性や効果が向上するという理由だ。
CES 2025では、スマートエネルギー管理システムが大きな注目を集めた。EcoFlowは「Oasis」というAI駆動の家庭用エネルギー管理システムを発表した。同システムは既存のEcoFlow製品や家庭全体のバックアップ電力ソリューションと連携する。AI、予測分析、自動化を組み合わせて家庭の電力需要を管理し、家庭用の太陽光発電システムとも連携できる。将来のエネルギー需要や太陽光発電量、電気料金や天候パターンを考慮して、電力使用を調整できる。
Savantもまた、新しい「Smart Budget」電力パネルを発表した。同パネルは既存の電力配電盤に追加できる電力モジュールで構成され、付属のソフトウェアは家庭のエネルギー使用量を調整し、需要が容量を超えないようにする。優先順位をつけて電力を利用し、リアルタイムの消費量を監視し、必要に応じて負荷を減らし、使用量をバランスさせてくれる。
Bluettiもスマートエネルギー管理システムと新製品を発表した。同社の「EnergyPro 6K」は、小規模から中規模の住宅向けのバックアップ電源として設計されている。既存の屋根設置型ソーラーシステムと統合できるほか、AT1スマート配電ボックスと組み合わせることで双方向EV充電や発電機充電もサポートする。
最後に、Jackeryの「HomePower EnergySystem」は今年後半に発売予定だ。このシステムはモジュール式で、7.7キロワット時から15.4キロワット時まで積み重ねて拡張可能だ。バッテリーユニット、ハイブリッドインバーター、負荷を管理するハブで構成され、EV充電器やバックアップ発電機、既存の家庭用ソーラーシステムに簡単に統合できるよう設計されている。
「私は家庭用バッテリーを持ったことがない」と語るのは、フォードでエネルギーサービスとV2G事業を担当するライアン・オゴーマン氏だ。「私が持っているのは『F-150ライトニング』(フォード初のEVピックアップトラック)だけです。2024年の夏、ミシガンで非常に激しい嵐があり、私の地域では木々や電線が倒れ、3日間も停電しました。でも、私は問題ありませんでした。その間ずっとトラックの電力で生活し、電力が復旧したときには約100マイル分の充電が残っていました」
平均的なEV所有者は、車をバッテリー代わりに使用した場合のエネルギー消費をほとんど感じないだろう。「車両が接続されているとき、車両から15~30マイル分(25km〜50km)の電力を取っても、ドライバーにとってほとんど支障がない」とオゴーマン氏は説明する。「車両によるが、1時間以内で減った分の電力を充電で取り戻せる」
しかし、取材に応じた専門家の全員が、EVの双方向充電が完全に家庭用バッテリーを置き換えるとは考えていない。「もしあなたが人里離れた場所に住んでいて、長期間のエネルギーバックアップが必要であれば、家庭用バッテリーシステムを購入する方が経済的だ」とSwtch社のトーマス・マーティン氏は指摘する。「家庭用バッテリーはより多くのエネルギーを蓄えられる可能性が高く、長期間の停電中でも移動の必要がある場合に問題が生じにくいためだ」
「私たちは、どちらか一方の選択肢とは見ていない」と語るのは、電力業界に独立かつ客観的な専門知識を提供する研究所のシニアプロジェクトマネージャーであるベン・クラリン氏だ。 「どちらも停電時に人々を支援できる」──。クラリン氏は、双方向充電が家庭用バッテリーシステムと共存する余地があると考えており、テスラのパワーウォールのようなシステムが双方向充電によって完全に置き換えられる可能性は低いと述べた。
また、クラリン氏は、EVの双方向充電が家庭用バッテリーの導入が実現困難なケース、例えば多世帯住宅のような場所で有効に機能する可能性があると指摘する。多世帯住宅では、スペースやコストの問題から個別のバッテリーバックアップを導入することが難しいからだ。
双方向充電はその名の通り、車両に蓄えられた直流(DC)エネルギーを交流(AC)電気に変換し、それを自宅や電力網に供給するプロセスだ。これは、従来の一方向型のEV充電プロセスとは逆の仕組みも備える。通常のプロセスでは、壁のコンセントからEV充電器を通じて交流電力を車のバッテリーに供給し、それを直流エネルギーに変換して蓄えるという流れだからだ。
技術的な実装は比較的シンプルだが、双方向充電の本当の可能性は、様々な活用方法にある。例えば、「V2H(Vehicle-to-Home)」充電では、停電時に車をバックアップ発電機として利用できる。
「基本的なユースケースは2つある」と語るのは、GMエナジー(GMのエネルギー貯蔵やEV充電ソリューションを提供する部門)の収益責任者であるアシーム・カプール氏だ。「一つは純粋にレジリエンシー(回復力)を重視したもので、停電時に車を使って自宅に電力を供給するというものだ。このシナリオでは、車を単なる移動手段以上のもの、つまり二重の資産として活用できる。車をエネルギー資産として利用し、固定型の蓄電設備と組み合わせることで非常に価値のある用途が生まれる」
平均的なEVはフル充電で60kWhの電力を蓄えることができ、これは家庭の約2日間分に相当する。使用状況によってはさらに長持ちし、家庭の電力バックアップとして実用的だ。
「一般的な市販の固定蓄電システムでは、7~13kWh程度の電力を蓄えられる」とフォードのライアン・オゴーマン氏は説明する。「それは素晴らしいが、車両で言えばわずか15~30マイル分の走行距離に相当します。一方でEVでは300マイル以上の走行が可能です」──。これにより、緊急時にEVを電力供給源として使用しても、車両の走行距離に大きな影響を与えることはなく、実用的なバックアップ手段となる。
「V2L(Vehicle-to-Load)」のような選択肢もあり、これは車両の電力を使ってキャンプ用品、電動工具、家電製品などのデバイスを動かすためのアダプターを利用する。「基本的なV2Lであれば、ほとんど導入の障壁はない」とマーティン氏は言う。「車に延長コードを差し込むためのコンセントがあれば、デバイスに電力を供給できる」
これにより、V2Lは一般消費者が最初に体験する双方向充電のユースケースとなるだろう。また、「V2V(Vehicle-to-Vehicle)」という選択肢もあり、これは電力を使い切ったEVに電力を供給する仕組みだ。これは車のバッテリーで別の車をジャンプスタートする方法に似ているが、より適切な例えとしては、自分の車の燃料を他の車に移すようなイメージだ。
「双方向充電やその他の車両とさまざまなものを繋ぐ技術(V2X)の最大の障壁は、車両自体の対応能力だ」とSwtchのマーティン氏は述べている。「現場にはV2Xをサポートする充電器が存在するものの、対応する車両の数が限られているため、現在では充電器の技術があまり効果を発揮していない」
しかし、これも今後数年で変わる見込みだ。GMだけでも、カプール氏は新たに発売されたChevroletのEV、Equinox、Blazer、Silveradoをはじめ、Cadillac LyriqやGMC Sierraを挙げている。これらの車両はすべて双方向充電に対応しており、GMの車両用ホームシステムと連携して動作する
現在の最も代表的な例は、Ford F150 ライトニングとその専用充電器「Ford Connected Charge Station Pro」だ。この双方向充電器は1310ドル(約20万円)で販売されているが、一部の電動トラックモデルには無料で付属している。
他の自動車メーカーも追随し、双方向充電に対応した車両を増やすと予想される。ボルボは、Volvo EX90が双方向充電に対応すると発表しており、ヨーロッパでは交流(AC)対応の双方向充電器の開発を進めている。また、スウェーデンの自動車メーカーは、家庭用エネルギー会社「dcbel」と提携し、米国市場に直流(DC)対応の双方向家庭用エネルギーステーションを導入する計画も進めている。
双方向充電は基本的なEV充電よりも設置費用がかかる。「車を自宅の予備電源として利用したり、V2G(Vehicle-to-Grid)プログラムで電力網に接続するには、費用が最大の障壁になる」とマーティン氏は指摘する。「互換性のある充電器と切断スイッチを購入する必要があり、それだけで数千ドル(数十万円)がかかる。さらに、その設置スペースも確保しなければならない」
特に集合住宅では、空きスペースや費用が双方向充電の導入を難しくする場合があるが、一戸建て住宅でも予想外の費用が発生することがある。古い配線や分電盤を使用している家庭では、200アンペアの電気サービスに対応していない場合があり、双方向充電の利点を最大限に活用するには分電盤などのアップグレードが必要になることがある。このアップグレード自体も追加費用となる。
フォードのオゴーマン氏は、自社のCharge Station Proのような特定の双方向充電器は、設置場所への負荷に合わせて給電能力を調整できることを指摘している。そのため、フルの給電能力を活用しないことに問題がなければ、分電盤のアップグレードが必須というわけではない。
双方向充電の重要な要素の一つは、規制だ。電力を送電網に売買するプロセスは通常、各州や電力会社に委ねられている。一部の州では、太陽光パネルで生産した余剰電力を買い取り、その分を電気料金から割り引く「ネットメータリング」を導入している。
「業界では通常『相互接続契約』と呼ばれます」と語るのは、国立再生可能エネルギー研究所で電気自動車充電と電力網統合の主任エンジニアを務めるアンドリュー・メイツ氏だ。「家庭に設置される電力網に電力を供給する装置はすべて登録されている必要があり、その装置が発電装置であることを電力会社に申告しなければなりません」
また、「夜間の電力料金が安い時間帯に車やバッテリーに電力を蓄え、電力需要が高まり料金が上がる昼間にその電力を電力網に戻すことで、家庭が利益を得る」という行為への金銭の支払いは、米国では州によって大きく異なる。また、国際的には、欧州連合が電力の購入と売電に対する送電網料金や税金の変更を求めており、これが一般消費者の参加を難しくしている。
これらの課題は、仮想発電所が直面する問題と非常に似ている。RMI(旧ロッキーマウンテン研究所)の電力部門でマネージングディレクターを務めるマーク・ダイソン氏は、「米国における仮想発電所の規制環境は、50州それぞれが異なるだけでなく、各州内の電力会社ごとにも異なる仕組みになっている。この複雑さが市場の成長を妨げる大きな要因の一つだ」と指摘する。
最大の課題は、顧客が電力を電力網に戻すことに魅力を感じられる仕組みを作ることだ。ダイソン氏は続けてこう述べる。「電力会社や規制当局が適切な料金設計やインセンティブプログラムを提供し、電力網の計画や運用方法を見直さない限り、顧客にとってそのメリットは十分に享受できません。これらの取り組みを進めることで、初めて仮想発電所の持つ潜在力をユーティリティ規模で最大限に活用できるようになるのです」
平均的なEVユーザーは、双方向充電による車のバッテリーの摩耗をあまり心配する必要はなさそうだ。
「私たちのデータでは、これが一般消費者にとって問題になることはないはずだ」とペトロフスキーは言う。「双方向充電が適切に制御され、限定的に行われる限り、バッテリー寿命に大きな影響を与えることはない」ペトロフスキーによると、ボルボはバッテリーを過度に使用する顧客に対し、双方向機能を制限する予定だという。これは、顧客ごとの条件や運転・充電の行動に基づいて判断される。
「バッテリーを最も劣化させるのは、理想的な条件から外れてストレスを与えることだ」とマーティンは言う。「頻繁に急速充電を行い、満充電に近い状態を維持することや、非常に暑いまたは寒い環境で充電することが、目に見える劣化を引き起こす主な要因だ」
そうは言っても、技術的には、家庭用バッテリーバックアップとして使用してもEVに問題は生じないとマーティンは説明する。「現在のEVのバッテリーは、電力を送電網に戻したり、数日間家庭に電力を供給したりするような追加の負荷にも十分対応できる。年間数回そのような使い方をしても、大半の車両オーナーに問題は生じないだろう」
さらに朗報として、話を聞いたすべてのメーカーが、双方向充電が自社EVの標準機能であると確認している。この機能を使用することで保証が無効になったり変更されたりすることはないという。これは顧客からよく寄せられる懸念点だ。
3年ぶりに登場した新「iPad mini」(価格をAmazonでチェック)
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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