テクノロジーバブルの内側にいる人、それこそサンフランシスコのベイエリアにいて最新の技術を当たり前に感じている人でもない限り、筆者が自動運転車の話をすると、大抵は「本当に実現すると思う?」という反応が返ってくる。筆者の回答はこうだ。「もう実現している」
例えばWaymoは、ベイエリアの一部をはじめとする少数の都市で、24時間365日営業のロボットタクシーを運行させている。ここでは、どこを見ても自動運転車が走っているという感じで、驚いた観光客がスマートフォンを取り出して動画を撮っていたりする。個人的には、何か用事があるときでも友だちに会いにいくときでも、ロボタクシーを拾うことは日常になっていて、筆者にとってはもう珍しい光景ではなくなった。
だが、それと同時に、Waymoなどの自動運転車企業が限定的にしか展開していない現状を見ると、スペキュレイティブ・フィクション作家のWilliam Gibson氏の言葉も思い出される。「未来はもうここにある。均等に広まっていないだけだ」
自動運転車といえば、SFでは古くからの定番だったが、今や確かな現実として普及しつつある。とはいえ、その歩みはゆるやかだ。最近ではAlphabet傘下のWaymoやAmazon傘下のZooxといった企業が展開を拡大しつつあるが、自動運転車開発の道は長く、見通しも悪い。あまりの険しさに、大手のAppleでさえ自動運転車への取り組みを中止したとされる。General Motors(GM)は計画を軌道修正しており、2024年12月はじめ、ロボタクシーを扱う傘下のベンチャー企業Cruiseへの資金提供を停止し、個人向けの自動運転車に注力すると発表している。
こうした方向転換の例を見ても、自動運転技術の開発と規模拡大は容易でないことが分かる。膨大な費用がかかり、競争も厳しいうえに、当然ながら規制に関する障壁も少なくない。
それでも、自動運転を手がける企業各社は、2025年に着々と前進し続けるようだ。Waymoは、Uberとの提携を通じてジョージア州アトランタとテキサス州オースティンへサービスを拡大することを計画しており、海外初となるテストを東京で始めようとしている。Zooxは、ラスベガスを皮切りとして一般利用者への開放を目指す。また、スタートアップ企業のAvrideは、自動運転車とデリバリーロボットの展開を目的として、同じくUberと提携しており、2025年にはダラスでロボタクシーの運用を開始したい意向だ。Lyftも、May Mobilityなどの自動運転車企業と提携し、トヨタの自動運転化された「シエナ」を使って2025年からアトランタで一般利用を開始しようとしている。
こうして営業範囲を徐々に広げつつあるロボタクシー企業ではあるが、その歩みは着実ながらゆっくりしたペースにとどまる可能性が高い。つまり、2025年に自動運転車が多くの都市に普及するということにはならず、Waymoが車両数を増やしたりZooxが少しずつ展開範囲を広げたりするなど、慎重な拡大になるだろう。そう予測するのは、Lux Researchでアナリストを務めるAnirudh Bhoopalam氏だ。
「2025年のうちに目覚ましく大きな進展はないと思う。一定の収益を生むには、規模の拡大が必要だ。そして、拡大を急ごうとすると、大きな問題が発生する確率が高くなる。まさにそうなったのがCruiseだった」(同氏)
テクノロジーに関して規制がより厳格な国や地域がある、一般市民が自動運転車を敬遠しがちであるといった障壁も、自動運転車の発展を遅らせる可能性がある、とBhoopalam氏は指摘する。
「自律走行車に期待する人も多いが、その一方で強い警戒心を示す層も少なくない。どちらの立場をとるかは、それぞれの世界観次第だ」
規制上の障壁だけではなく、自動運転車が安全であることを一般に納得させるという大きな難題もある。ロボタクシー企業各社の発するメッセージが、事実上どれも自社の車両や技術の安全性に終始しており、人間の運転と比較していることが特に多いのも、そのためだ。
2024年9月に公開されたWaymoのデータハブによると、2200万マイル(約3540万km)以上を走行した結果、同社の自動運転技術は「人間の運転と比べて、傷害につながった衝突事故は73%少なく、警察が報告した衝突事故は48%少なかった」という。Cruiseによる2022年のレポートでは、「人間が運転するときの過誤が、路上の死傷事故を引き起こす主要な要因の1つであることは間違いない」と指摘されている。また、Zooxは2023年の公開書簡で、同社の最高安全イノベーション責任者がこう記している。「米運輸省道路交通安全局(NHTSA)のデータによると、衝突事故の94%は人間の選択やミスによって発生している」
こうした声明が出されるのも、不思議ではない。近年、この新しい技術に関連した事故が相次いでいるからだ。
Cruiseは、人間が運転していた別の車に先にはねられた歩行者を同社の無人運転自動車がさらにはねるという事故を起こし、カリフォルニア州で期限不確定の営業停止を受けている。Waymoの自動運転車も、サンフランシスコで自転車と接触する、アリゾナ州フェニックスでけん引されていたピックアップトラックに接触する(この問題に対処するため、Waymoはソフトウェアをリコールしてアップデートしている)など、複数の重大事故を起こした。5月には、NHTSAがWaymoとZooxの車が予期せぬ動作を起こした事故に関して両社に対する調査を開始。NHTSAによると、対象になったのはWaymoの車が駐車中の車に衝突した事故や、Zooxのテスト車両で突然ブレーキが作動した事故などだという。
それでも、こうした企業のいずれも、自動運転の技術は車両が必要な動作を常に正確にこなせるようにすることで、実際に死傷事故を減らす可能性があると提唱している。
ロボタクシーに乗ったことがある人から見ると、安全性に対する不安は行きすぎに感じられるかもしれない。車が独力で走るという最初の不思議さを通り過ぎてしまえば、乗っていてもごく当たり前で、普通の車に乗っているのと全く変わらなく感じるようになる。しかし、人は「テクノロジーの成熟度を過剰評価する傾向がある」。カーネギーメロン大学の電気・コンピューター工学准教授で、自律走行車の安全性を専門とするPhil Koopman氏はこう話している。
「人は、正常に動作するように見えるものをたちまち受け入れる。だが、安全な走行を1回体験しても、また100回、1000回と体験しても、安全性については何の情報も得られない。安全性を判断するには、何千万回という走行が必要になるからだ」
自動運転車企業が安全性を高らかにうたっているだけに、たとえ1回の事故でも多すぎると感じられるのかもしれない。
一方、ロボタクシーに一度も乗ったことがない人は、ネガティブな報道で不安になり、技術そのものに対して疑心暗鬼になりがちだ。米自動車協会(AAA)が3月に実施した調査によると、米国で車を運転する人の66%は完全自動運転の車に不安を示しており、疑念を抱いている人も25%に達するという。この気持ちはよく分かる。筆者自身も、初めてWaymoに乗ったときには不安があった(ハンドルが勝手に回っているというのは、普通の光景ではない)。だが、数分もするとリラックスしていた。交差点にさしかかったときも、自転車走行者や歩行者の間を通り過ぎるときも、車は抜かりなく動作しているように見えたからだ。
だが、「人は悪い知らせに過剰反応する。これも人間らしい反応だ」、とKoopman氏は指摘する。
各社は今後も、自社の自動運転の技術開発に積極的に取り組み続けるだろう。特に、雨の多い地域など、多様な天候に応じた技術に焦点が当てられる(Zooxはシアトルでテストを実施しており、Waymoもまもなくマイアミに進出する予定)。車両団の安全性をアピールするために、無人運転の走行距離も引き続き重ねていく見込みだ。
人工知能(AI)の発達が自動運転車の開発を加速させる可能性もあり、特に、初期段階にある企業でそれが期待される、とBhoopalam氏は指摘する。AIは、シミュレーション環境で「無数のシナリオを生成」できるため、公道テストの回数を減らすことができるからである。それでも、公道テストの重要性は変わらないのだが。
「理論的には、開発から導入までの期間が短縮される」と、Bhoopalam氏は言う。「だが、規模の拡大となると、問題は全く別だ。Waymoは現在、規模を拡大しているところだが、そこに至るまでには何年もの時間が必要だった」
ロボタクシーの登場を受けて、UberやLyftといった配車アプリの将来に疑問が生じている。これらのアプリ自体も、最初に登場したときは、タクシー業界を揺るがす存在だった。UberもLyft(どちらも独自の自動運転プラットフォームの開発に取り組んでいる)も、マイナスの影響を軽減しようと、早い段階でWaymoやAvrideなどの企業と提携している。Uberは、高度な運転支援技術と自動運転技術の開発でWayveとも提携しており、最終的にWayveのテクノロジーを搭載した自動運転車をUberのネットワークに加えることを目指している。
自動運転車サービスをUberやLyftのアプリ内で直接提供することは、配車サービス企業にとっては増収につながり、ロボタクシーが普及した際にも存在感を維持できるだけでなく、スマートフォンを余計なアプリで煩雑にしたくない人にとっては、無人自動車サービスの手配をより魅力的なものにすることもできる。
「新しいアプリをインストールするというのは大したハードルではないように思えるが、人々は現在スマートフォンにインストールしているアプリで利用できるものを使用する傾向がある」(Bhoopalam氏)
もう1社、自動運転の分野で話題を呼びたいと考えている大企業がTeslaだ。同社は2024年10月、とある華々しいイベントでロボタクシーのプロトタイプを発表している。このテクノロジー自体の詳細は不明だが、最高経営責任者(CEO)のElon Musk氏は「2027年までに」車両の生産を開始するという野心的な目標を発表した。さらに野心的なのは、2025年にテキサス州とカリフォルニア州にてTeslaの「Model 3」と「Model Y」で、監視が不要な完全自動運転を開始するという目標だ。
専門家は懐疑的だ。
「ハードウェアを構築したからといって、成功が保証されるわけではない。重要なのはソフトウェアだけだ」(Koopman氏)
Zooxの共同創設者で最高技術責任者(CTO)のJesse Levinson氏も、10月下旬に行われた「TechCrunch Disrupt」のパネルディスカッションで、Teslaの野望について率直に語っている。
Levinson氏は、「きちんと機能するテクノロジーがTeslaにあるのなら、規制当局の審査を通過できるはずだ。もっと根本的な問題は、きちんと機能するテクノロジーをTeslaが持っていないことだ」と述べ、Teslaの言う「フルセルフドライビング」と真の自動運転システムは別物であるとした。Musk氏はこの批判に反論している。
しかし、莫大な利益を生むこの分野に参入したがっているのは、業界の巨大企業だけではない。スタートアップ企業のAvrideは数カ月前からオースティンで安全エンジニアを車両に乗せてテストを実施しており、2025年にはUberとの提携を通して、ダラスでロボタクシーサービスを開始することを計画している。ただし、まずはオースティンでUber Eatsと提携して、配達ロボットを展開し、その後でダラスとニュージャージー州のジャージーシティに事業を拡大する予定である。さらに、Avrideは韓国のソウルで自社の配達ロボットを運用し、自動運転車のテストを実施しているほか、日本にも配達ロボットを拡大する予定だ。
Nuroも自動運転配達や配車サービスの分野に参入している企業で、個人が所有する自動運転車向けの無人運転テクノロジーの開発も手がけている。配達分野では、FedExやKroger、Uber Eatsといった企業と提携して、商品の輸送を行っている。個人向け自動運転車やライドシェア事業を開発したいと考える第三者に対して、「Nuro Driver」テクノロジーのライセンスを供与することも予定している。Nuroは現在、カリフォルニア州のマウンテンビューとパロアルト、テキサス州ヒューストンで自動運転配車サービスを展開しているが、一般の人が乗車することはまだできない。
Nuroの共同創設者でプレジデントのDave Ferguson氏は12月中旬にマウンテンビューで乗車中に、「数年前に比べると、この分野では(自動運転車の)潜在的なプレーヤーが大幅に減っている」と筆者に語った。「これが意味することは、エコシステムの一部のプレーヤーは、自動運転車分野の残りのプレーヤーとの提携に対して、より前向きになっているということだ。エコシステムで自分の役割を果たすことに関心のあるすべての人が、それを実行するのに必要なパートナーを確保したいとより意欲的になっている」
結局のところ、自動運転車分野の競争で行き着くのは資金だ。
「今後5年~10年分の資金を調達できるリソースを持つ企業が生き残るだろう」(Koopman氏)
前途に困難が待ち受けていることは間違いない。ロボタクシーは一部の地域では冷ややかな反応しか得られておらず、Waymo、そして過去にはCruiseの車両が破壊されたという報告が複数ある。
サンフランシスコのような場所では、「Autonomous Vehicles and the City Initiative」などの取り組みがある。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が主導するこの取り組みでは、企業や政策リーダー、学者が協力して、交通やクリーンエネルギーなどの問題に対する懸念の軽減に努めている。スポンサーには、現在と過去を含め、WaymoやUber、Lyftなど、自動運転の台頭に期待している企業が名を連ねている。
おそらく、最終的にはメリットがデメリットを上回るはずだ。自分以外の人間がいない配車車両を利用できることや、自分が所有する自動運転車に乗って、道路に全く注意を払わずに移動できることに対して、人々が徐々に魅力を感じるようになる可能性もある。一般の人々は、(比喩的な)ハンドル操作を機械に任せた方が安全だと実際に感じるようになることもあるかもしれない。
「こうした車両が問題なく走行し、生活を楽にしてくれることが分かれば、自動運転車はもっと世間に受け入れられるだろう」(Bhoopalam氏)
自動運転を手がける企業にとって、これは全速力で取り組みたい課題のようだ。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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