Pixel 9の実質価格が一夜で24円→1万6380円に値上げ--総務省の「ソフトバンク潰し」は妥当なのか(石川温)

 12月26日、ソフトバンクはスマートフォンの価格改定を行った。

 これは総務省による電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドラインが改定された影響を受けたものだ。

 このガイドライン改正は検討当時から「ソフトバンク潰し」と指摘されており、まさにソフトバンクは総務省にひれ伏した感がある。

  1. 「ソフトバンク潰し」とは
  2. RMJのデータだけを参考にするのは正しいのか

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「ソフトバンク潰し」とは

 総務省はこれまで「1円スマホ」の根絶を目指していた。ちょうど1年前のこのタイミングにもガイドライン改正を行い、1円スマホを売らせないようにしていた。しかし、ソフトバンクは販売方法を見直すことで1円スマホを継続。メンツを潰された総務省が激起こりし、今回のガイドライン改正に至ったようだ。

 そもそも総務省ではスマートフォンの端末割引価格を規制することで、通信料金の値下げを狙ってきた。そのため、2万2000円や4万4000円といった割引上限価格を設定してきたのだ。

 そこで、ソフトバンクは1年後もしくは2年後にユーザーから端末を下取りする際の価格を高めに設定することで、ユーザーの月々の負担額を減らすという回避策を編みだした。さらに最初の1年もしくは2年間は月々1円や3円という分割払いを設定しつつ、後半の1年や2年は高めの分割価格にすることで、見た目上、「1年で12円や36円」という見せ方を編み出したのであった。

 さすがに堪忍袋の緒が切れた総務省は今回から中古端末市場の業界団体であるリユース・モバイル・ジャパン(RMJ)のウェブサイトに公表されている買い取り平均価格を、各キャリアの買い取り予想価格に使用することを義務づけたのだ。こうすることで、キャリアが独自に高めの下取り価格を設定できなくなる。

 では、実際にソフトバンクのスマートフォン価格はどうなったのか。

 例えば、グーグル「Pixel 9(128GB)」は、12月25日までは実質負担額24円(1円×24回)で売られていたのだが、26日には実質負担額1万6380円(1365円×12回)に変更されていた。

 他の端末も「1円×12回」「3円×12回」といった値付けだったものが、完全に消滅してしまった。もはや1円スマホは過去のものになろうとしているようだ。

RMJのデータだけを参考にするのは正しいのか

 今回、ソフトバンクが素直にガイドラインに応じているが、必ずしも総務省に対して納得しているわけではないようだ。ガイドラインへのパブリックコメントなどでソフトバンクは「RMJが公表しているデータだけを参考するのは正しいのか」と反論している。ソフトバンクとしては、中古スマホは必ずしも買い取り業者の間だけで流通しているわけではなく、メルカリやヤフオクなど個人間でも取引されている。そこでの金額も参考にすべきというわけだ。

 また、4キャリアがすべてRMJのデータを参考すると、4キャリア間での競争が起きないという懸念も生じる。

 将来的な下取り価格を高く設定し、月々の支払いが安価に済むのであれば、そこで新製品を購入したいと考えるのは当然だろう。最近では、総務省のおかげで通信プランと端末価格が分離しており、ユーザーは表向き、どのキャリアでも端末を購入できる環境になった。

 しかし、4キャリアがRMJのデータを参考にして下取り価格を設定すれば、結局、4キャリアで同じ下取り価格という横並び状態が発生し、販売競争はなくなってしまう。

 本来は、4キャリアで売られているiPhoneにおいて価格差が生じれば、それによってユーザーが安いiPhoneを求めてMNPを行うなどの競争が起き、結果として、通信料金の値下げにつながる可能性だって考えられる。しかし、総務省が下取り価格のルールを設けてしまったことで、 ユーザーの流動性は減ることになってしまうだろう。

 また、RMJが公表している買い取り価格のデータはメーカー、端末名、容量だけでなく、買い取り平均価格の時期が月ごとに表示されており、びっくりするぐらい巨大なPDFファイルとなっている。ここから数値を読み解くのも大変だし、これを引用し、キャリアがちゃんとした下取り価格を設定しているか、確認する総務省の担当者も相当な労力を必要とするはずだ。

 果たして、こんな無駄な作業にキャリア、販売代理店、総務省の人的リソースを割くことが本当に意味のあることなのか。2025年のガイドライン改定では改めて、いまの運用が正しく、市場に競争を起こし、国民のメリットにつながったのかを検証してもらいたい。

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