SpaceXは日本時間10月13日夜、次世代ロケット「Starship」の5回目の打ち上げ試験を実施。使用済みの第1段ブースターを射場の「箸」(発射台の構造)で回収する快挙を成し遂げた。
Starshipは100人乗りにも対応する設計の超大型宇宙船で、第1段ブースターの「SuperHeavy」と組み合わせた全長は100mを優に超える。
アポロ以来の有人月面探査計画「アルテミス」では月着陸船に選定されており、最終的にはStarshipで火星に人類を送ることもめざす。人類の活動領域が本格的に地球外に広がり、SFで描かれた未来への扉が開かれる。
そんなStarshipの初の軌道打ち上げ試験は2023年4月だった。筆者もその速報を書くべくライブ配信を見ていたが、「Falcon 9」や日本の「H-IIA」などと違い、巨大な図体ゆえに地上から飛び立つ模様がゆったりして見えるのが印象的だった。この時は1段、2段ともに途中で爆発したが、中継で映されたSpaceXの管制センターからは歓声が溢れていた。
2回目の打ち上げは8カ月後だった。この時も第1段、第2段は爆発したが、1回目よりも飛行時間が大きく伸びた。さらに、第1段と第2段を結合させたまま、第2段エンジンを点火し、推力の損失を抑える「ホットステージング」にも成功した。
3回目試験では第2段の安定した軌道飛行に成功。4回目試験では第2段の地球への帰還に成功した。まさに「完成してから打ち上げる」のではなく「打ち上げながら完成させていく様子」をリアルタイムで追うことが出来た。
そして5回目の試験で挑んだのが、第1段ブースターを射場の「箸」で回収することだった。Falcon9ロケット第1段は着陸脚で帰還するが、Starshipの巨体で同様の仕組みは困難だ。そこで、射場の箸に引っ掛けて帰還させる方法にした。
この方式によって、着陸脚そのものが不要となり、より多くのペイロードを搭載できるようになった。さらに、射場へ移動させる手間も不要となった。イーロン・マスク氏によれば、箸でキャッチした第1段ブースターは1時間程度の再整備で、再度打ち上げに使えるようになるという。
そして迎えた試験当日、見事ブースターの「箸でキャッチ」に成功。SNSではその模様が拡散され、新たな偉業として多くの人の目に刻まれた。
Starshipの初回打ち上げから、ブースターの箸でキャッチまで、わずか1年半の出来事だ。イーロン・マスク氏は2026年までに人類を火星に送ると宣言しているが、本当に実現してしまうかもしれない。
そんなSpaceXについて、野口聡一氏は2022年7月に開催された宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2022」で「変革が速いアジャイルな組織」「考え方がフレキシブル」「ドラスティックな変化をいとわない」と前置きし、次のように述べていた。
「もし失敗があったときに(JAXAやNASAなどでは)報告書を上司に提出するが、SpaceXはその間に改良試験が終わって、次のロケットを打ち上げているくらいのスピード感がある」(宇宙ビジネスメディアUchuBizより引用)
税金を預かる官主導の宇宙開発で同様のスピード感は難しいのかもしれない。しかし、日本ではカイロスロケットのスペースワンや、インターステラテクノロジズなど、続々と宇宙輸送を手掛ける民間企業が登場している。彼らになら民間ならではのスピード感を期待できるかもしれない。
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