街中で「S.RIDE」とラッピングされているタクシーを見たことがある人も多いのではないだろうか。タクシーの配車アプリを手がける、S.RIDE(エスライド)との提携タクシーだ。
配車アプリが台頭する一方で、コロナ禍を経た上での移動の担い手不足が叫ばれて久しい昨今。日本での現状をどう捉え、今後どういった展開を考えているのか。S.RIDE 代表取締役社長を務める橋本洋平氏に話を聞いた。
ソニーグループとタクシー事業者のジョイントベンチャーで2018年5月に設立した同社は、「革新的なモビリティサービスで、心動かす移動体験を創る。」というパーパスの実現に向けて事業を展開。タクシー事業者などに向けた配車ソフト、システムなどを提供し、約5年が経過している。
タクシーの配車アプリとなるS.RIDEは、「GO」「DiDi」「Uber Taxi」といった競合がひしめく中、7月にはアプリの累計ダウンロード数が300万、月間乗車回数が100万回を突破。また、アプリは9月1日時点でAndroid版が4.6、iOS版が4.7という高いユーザー評価を獲得したという。
橋本氏は、「(9月1日時点の評価は)他の配車アプリと比較しても高い評価をいただいた。アプリの作りがシンプルで操作しやすい、呼んだらタクシーがしっかり捕まえられる、配車や流しのタクシーもアプリからのオンライン決済で簡単に支払えるという3点が強みだ」と、ユーザーから実際に届く声を元に説明する。
配車対応エリアも、政令指定都市などの都市圏を中心に徐々に拡大。現在は全国で約1万9400台の提携タクシーが走行しているという。
4月には、法人向けサービス「S.RIDE Biz」(エスライド ビズ)の受注を開始。利用するユーザーは、管理者から発行されるビジネスアカウントと連携して法人支払いをS.RIDEアプリに設定すれば、アプリ画面内で法人・個人利用を簡単に切り替えられる。法人支払いは、「S.RIDE WALLET」(エスライドウォレット)の支払い方法に選択することで流しの提携タクシーでも利用可能だ。導入企業は領収書の管理が不要となり、費用精算の手間を削減可能。7月には申し込みが500社を突破したという。
橋本氏は、「S.RIDEの特徴として、月10回以上使うユーザーが全体の配車数の半分を占めている。また、タクシーの捕まえやすさが向上する『バーチャルタクシースポット機能』や、ワゴン車種の指定配車、予約などが無料になるサブスク『S.RIDEプレミアム』も好調だ。都市圏を中心に展開していることもあり、法人を中心としたビジネス用途など、タクシーを頻繁に利用するユーザーに支持されている」とし、法人を含めて頻繁かつ定期的なユーザーが多いと話す。
ビジネス用途での機能を強化しているとはいえ、1人のユーザーとして個人で利用する場合の使いやすさは気になるところ。特にタクシーの配車アプリとなると、最近は人手不足も相まって「捕まらない」の声が目立つ。
同社は、カスタマーサポートと企画・開発を1つのチームで運営。ユーザーからの問い合わせやアプリストア、タクシー事業者から届く声は常に改善ポイントに入れているという。前述の通り捕まりやすさが特徴の1つで、基本的なアプリの満足度は高く、平均の到着時間は約4分。しかし、橋本氏は現状を「富士山で言うと1~2合目」と表現する。
「遠い車が捕まってしまう場合はある。全(配車アプリ提供)社共通の課題として、ユーザーが(配車手配中に別の)流しのタクシーを捕まえる、複数アプリを使って遅い配車をキャンセルするといったことは起こっている。飛行機や電車といった他の手段と比較しても、タクシーのキャンセルは多いという認識だ。ドライバーはキャンセルされてしまうと、次(のアプリ経由)は取りたくないとなってしまう。さらに、ライドシェアの完全解禁などで供給過多になるとタクシー事業者が儲からず、ドライバーが減ってしまう。技術の力とオペレーションを強化することで、ユーザーとドライバー双方の満足度を高めるためにマッチング効率を最大限に高めることが取り組むべき喫緊の課題」(橋本氏)と話す。
一方で、「改善の余地はたくさんある。例えば迎えに行くところのルーティングや逆に止まらないような向きの考慮など、近い車を配車するために技術で解決できるところはある。昨今増えている強い雨が降るなどの突発的な状況も含め、対応できる状況作りに取り組みたい」(橋本氏)
同社は並行して、将来の自動運転時代を見据えてモビリティデータ事業に取り組んでいる。車両にカメラやセンサーを設置してタクシー走行時のデータを取得する取り組みだ。
「われわれは配車アプリ(の事業)のみならず、自動運転走行のロボットタクシー時代を見据えたサービス技術の向上に取り組んでいる。その観点では、ソニーのセンシング技術やIPコンテンツといったグループのシナジー効果も進めたい。海外では相乗りやダイナミックプライシング、相互レーティング、自動運転などが実現しているところもある。法整備や心理的な課題なども絡むが、やることはまだまだ多い」(橋本氏)と意気込む。
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