睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の有無を確認するには、基本的にセンサーを体中、しかも鼻の中にまで取り付けるという、多くの人が不快に思うであろう検査を就寝中に受けなければならない。
「Apple Watch」は睡眠の検査と同じ役割を果たしたり、睡眠状態を診断したりすることはできないし、それを目指しているわけでもない。しかし、Appleは、人々が少なくとも医師に相談して検査を受ける必要があるのかどうかを判断できるように支援したいと考えている。
新しい「Apple Watch Series 10」をはじめ、「Apple Watch Series 9」、そして「Apple Watch Ultra 2」では、中度~重度の睡眠時無呼吸症候群の兆候を検出することができる。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に一時的に呼吸が停止する睡眠障害で、世界中で9億3600万人の成人がこの障害を抱えていると推定されている。
Appleのヘルステクノロジーチームの研究者であるMatt Bianchi博士によると、睡眠時無呼吸を適切に検出できるようにするために、1万1000件以上の夜間睡眠記録を収集する必要があったという。
Bianchi博士は、この機能の開発に関する米CNETとのリモートインタビューで、「その(睡眠時無呼吸の)ような動きを誤認するのを防ぐ方法の1つとして、われわれは、研究室や睡眠センター、自宅の自然な環境で眠っているさまざまな人々から膨大な量のグラウンドトゥルースデータ(訳注:推論ではなく、実際に計測したデータに基づく真実であることが分かっている情報)を収集している」と語った。
Appleの最高経営責任者(CEO)であるTim Cook氏は2019年、のちに振り返ってAppleの「人類に対する最大の貢献」は何だったかと聞かれたら、その答えは「健康」に関することになるだろうとCNBCに語った。そして、その目標に向かって前進する上で、Apple Watchが重要な役割を果たしてきたことは明白である。
今から10年近く前、Apple Watchは「iPhone」のニッチな高級アクセサリーとして登場したが、それからの10年間で、不整脈や転倒、体温変化など、健康やウェルネスに関するさまざまなデータポイントを検出できる総合的な健康モニタリングデバイスへと進化した。睡眠時無呼吸の検出機能は、そうした方向へのさらなる一歩だ。
AppleでApple Watchとヘルスケアの製品マーケティング担当シニアディレクターを務めるDeidre Caldbeck氏は、Apple Watchの健康管理機能について、「そうした機能の提供を開始してから短期間のうちに、自分の健康やフィットネスについて、これまでなら気づかなかったかもしれないことに気づくようになった、という声がユーザーから届くようになった。そこで、われわれはその方向に力を入れるようになった」
睡眠時無呼吸は通常、睡眠の検査や自宅での睡眠時無呼吸テストによって診断される。Cleveland Clinicによると、睡眠の検査(睡眠ポリグラフ検査と呼ばれる)では、睡眠の各段階で発生する脳波を測定するセンサー、心臓の活動を監視するECGセンサー、筋肉と眼球の動きを検出するセンサー、気流を監視する呼吸センサー、血中酸素濃度を測定するパルスオキシメーターを装着する必要があるという。
自宅で睡眠時無呼吸の兆候を検出できるApple Watchのようなデバイスの主な利点は、医師が利用できる就寝中のデータが増えることだ。さらに、症状が悪化する前に、医師に相談してみようとユーザーが判断するきっかけにもなる。
睡眠専門家でスタンフォード大学医学部臨床教授のRafael Pelayo博士は米CNETのLexy Savvides記者に対して、「われわれは(スマートウォッチを)ツールとして歓迎すべきだ」と語った。「睡眠検査を受ける場合、検査するのは1晩か、せいぜい2晩しかない」
Apple Watchには、睡眠時無呼吸の兆候の検出に重要な役割を果たすセンサーが1つある。動きを検出する加速度センサーだ。睡眠中に呼吸すると胸が上下に動くが、このわずかな動きは腕に反映されるため、Apple Watchの加速度センサーを使って手首で検知することができる、とBianchi博士は言う。これらの測定値は、「呼吸の乱れ」と呼ばれる新しい指標に表示され、「ヘルスケア」アプリに記録される。この機能は、血中酸素濃度測定機能を備えたApple Watchでなくても利用可能だ。
「呼吸が中断して浅くなったり、20~30秒間停止したりすると、機械学習アルゴリズムでそれを読み取って、検出することが可能だ」(Bianchi博士)
Apple Watch Series 10とSeries 9、Ultra 2に搭載されているチップも、Apple Watchの睡眠時無呼吸検出機能の重要な部分を占めている、とCaldbeck氏は話す。この機能がこの3機種でしか利用できないのは、そのためだ。アルゴリズムが呼吸の乱れのデータを分析し、睡眠時無呼吸の兆候があれば、通知を送信する。
「加速度センサーのデータを使用して、そのデータをデバイス上で処理し、精度を確保しながら、われわれが目標としているパフォーマンスを達成するには、加速度センサーと高性能チップの両方が必要だった」(Caldbeck氏)
しかし、睡眠時無呼吸は、睡眠中に呼吸が乱れる唯一の原因ではない。飲酒や病気による鼻づまり、睡眠中の姿勢なども影響を及ぼすことがある。そのため、Apple Watchでは、30日単位で呼吸の乱れをチェックしてから通知を送信するという仕組みになっている。
ただし、この機能を適切に利用するには、少なくとも10日間Apple Watchを装着した状態で寝るだけでいい。この10回という最低回数は、現実的でありながら(誰もが毎晩寝るときにApple Watchを着用するわけではない)、十分なデータを収集できるという点で、バランスの取れた数字だ。
「普段の生活習慣とは変わってくる3連休やちょっとした体調不良といった状況に反応することは避けたい。ユーザーの通常の状態を記録したい」(Bianchi博士)
臨床検証プロセスの一環として、Appleはさまざまな学術医療センターの病院システムや臨床研究組織と協力して、1万1000件以上の夜間睡眠データを収集した。
さらに、米食品医薬品局(FDA)の規制プロセスの一環として、1500件以上の夜間睡眠データも追加で収集した。睡眠時無呼吸検出テクノロジーの認可を得るためにFDAに提出された検証研究としては最大の規模だ、とBianchi博士は話す。臨床検証プロセスの一環として実施されたこれらの手順とは別に、Appleの社内には、睡眠追跡機能の試作と開発を行う独自の睡眠ラボもある。
Appleの最大の課題の1つは、大規模かつ多様なデータセットを確実に入手して、テクノロジーがミスを犯すあらゆる可能性に対処できるようにすることだった。
「臨床レベルの検証、規制の基準を満たすあらゆるもの、そして、この機能を支持すると言うために必要な自信は、次の次元に達している」(Bianchi博士)
この機能に対応するApple Watchのユーザーは、アラートの有無を問わず、iPhoneのヘルスケアアプリで夜間の呼吸の乱れを確認できる。通常とみなされる呼吸の乱れもあるため、呼吸の乱れは「高い」か「高くない」かに分類される。夜間の呼吸の乱れが「高い」と判定されることが複数回続いた場合は、睡眠時無呼吸の兆候が疑われる。通知にはユーザーに医師の診察を促す文言が表示されるほか、関連データも通知から簡単にエクスポートできる。
Apple Watchなどのウェアラブルデバイスが潜在的な健康の問題を検出できるほど高度化した今、Appleがこうした測定値に関する背景情報を伝達し、提供する方法は特に重要になっている。Cardiovascular Digital Health Journalに2020年8月に掲載された論文では、スマートウォッチの通知が「心機能の悪化」の兆候であると信じていた70歳の女性の例を挙げ、スマートウォッチが健康に対する不安を引き起こす可能性を示唆している。
しかし、睡眠時無呼吸に関しては、Pelayo氏などの臨床医はさらに早い段階で検出できるようになることを期待している。
「軽度の睡眠時無呼吸を検出できるものを心から求めている」「それが将来的にわれわれの役に立つことを期待している」と、同氏は述べた。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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