年間約9000万円のコスト削減に結びつけたENEOSリニューアブル・エナジーのデータ活用術

村島夏美 (primeNumber 広報)2024年09月25日 08時30分

 DXやSaaS等の浸透を通じて、データは企業にとって身近なものになってきています。たとえば製造業における生産ラインの稼働状況、経営企画の財務データ、マーケティングの過去のキャンペーンデータなども全てデータです。一方、こうしたデータがあふれてしまい効率的に活用することができていない、といった企業も多いのではないでしょうか。

 総務省による「令和5年版情報通信白書」では、顧客の基本情報等の「パーソナルデータ」の活用状況について「活用できている」と回答した日本企業の割合は52.8%であり、諸外国の企業と比較すると低いと述べられています。また、データ活用を通じてどういった成果が得られるのか、取り組み前には分かりづらいという声もあります。

 今回は「企業がデータを上手く活用するにはどうすれば良いのか」「データ活用を通じてどういった成果が得られるのか」といったヒントをつかむべく、primeNumberとお付き合いがあるENEOSリニューアブル・エナジーを訪問しました。同社においてデータ活用プロジェクトを推進しているコーポレート本部 情報システム部の丸睦氏、根津本樹氏から、プロジェクトが始まった背景や課題、成果をお話いただきました。

  1. 再生可能エネルギー事業者が直面する、FIT制度からFIP制度への移行
  2. 再生可能エネルギー事業推進に必須のデータ活用と、実現に向けての課題とは
  3. primeNumberはデータ基盤構築や運用をサポート
  4. 「あらゆるデータを、ビジネスの力に変える」世界の実現に向けて
ENEOSリニューアブル・エナジー  コーポレート本部 情報システム部 部長 兼 インフラチーム チームリーダー 丸睦氏(左)、ENEOSリニューアブル・エナジー コーポレート本部 情報システム部 アプリチームリーダー 根津本樹氏(右)
ENEOSリニューアブル・エナジー コーポレート本部 情報システム部 部長 兼 インフラチーム チームリーダー 丸睦氏(左)、ENEOSリニューアブル・エナジー コーポレート本部 情報システム部 アプリチームリーダー 根津本樹氏(右)

再生可能エネルギー事業者が直面する、FIT制度からFIP制度への移行

 ENEOSと聞き、真っ先に思い浮かべるのはガソリンスタンドかもしれません。ですが、実際はエネルギーや金属事業、石油・天然ガスの開発、電気・都市ガス事業など、多種多様な事業を営む会社がグループに所属しています。

 「ENEOSリニューアブル・エナジーは、再生可能エネルギーの開発、運転を担う会社です。弊社のように発電所の開発から運転までを一気通貫で手掛ける会社は、実はそれほど多くはありません。2022年に石油元売で日本最大手のENEOSの子会社になったこともあり、弊社で所有している運転中の発電所は9月現時点で大小合わせて100発電所以上です。4月よりENEOSグループの再生可能エネルギー開発・運営を担う中核会社となり、エネルギー自給、地球温暖化という社会的課題の解決に向けて日々取り組んでいます」(丸氏)

 再生可能エネルギーは化石燃料とは異なり発電の過程で、温室効果ガスをほとんど排出せず、脱炭素という観点から注目されている分野です。

 ENEOSリニューアブル・エナジーがどのようなビジネスモデルで事業を推進しているか、もう少し詳しく紹介します。そもそも、電力の取引は一般的には卸電力市場を介して行われています。発電事業者は、卸電力市場に電力を売り入札し、小売り電気事業者等が市場から電力を買い入札した上で、消費者へと電力を供給する、といった流れになっています。


 ただ、従来は再生可能エネルギーの普及を目的とし、電力会社が再生可能エネルギーを一定価格で買い取る「FIT制度」が導入されており、再生可能エネルギーの発電事業者は、市場価格を考慮することなく事業を推進できていました。

 しかし、再生可能エネルギーを主力電源にするためには、需要を踏まえての発電が重要になります。そのため、再生可能エネルギー電力も卸売市場にて売り入札を行い、その売電価格に対して一定の補助額が上乗せされるという「FIP制度」が2022年から開始されたのです。丸氏は「ENEOSリニューアブル・エナジーも、従来のFIT制度から、FIP制度へと順次移行しています」と説明します。

 「ENEOSリニューアブル・エナジーでは長野県のJRE長野大町太陽光発電所と熊本県の八代メガソーラー発電所のFIP切り替え、茨城県のJRE稲敷蒲ヶ山太陽光発電所への蓄電池併設、20年間のFIT制度を満了した秋田県の土浜風力1号発電所の卒FIT運用を行っています。FIT制度からFIP制度への切り替えは他の発電所でも現在進行系で進められています」(丸氏)

再生可能エネルギー事業推進に必須のデータ活用と、実現に向けての課題とは

 「FIT外運用における収益最大化には、発電量予測データや市場価格のデータなどをもとにした電力の需給バランスを考慮しての入札が必須条件」と丸氏は語りますが、こうしたデータ活用を行うためにはいくつかの課題があったそうです。

 まず、発電実績データや天候データはENEOSリニューアブル・エナジーが保有する発電所ごとの管理システムの中に点在していました。そのため気象予測会社から提供される発電量予測データと発電実績データ、天候データを連携できておらず、精緻に発電量を予測することができなかったそうです。加えて、予測データも需給管理システムに連携されていなかったと言います。

 「この連携をシステム化しなければ、手作業でそれぞれのデータをダウンロードし、Excelで結合、計算をして入札することになります。しかしその対応を人力で行うには限界があるため、効率的に運用可能な仕組みづくりが求められていました」(丸氏)

 そこで、ENEOSリニューアブル・エナジーは発電所ごとに散らばる発電実績データや天候データと、気象予測会社から提供される発電量予測データを統合したDWH(データウェアハウス)を新たに構築し、需給管理システムとの自動連携、自動入札を行う環境を整備しました。

データ基盤構成図
データ基盤構成図

 FIP制度への切替案件第一号であるJRE長野大町太陽光発電所を皮切りに、八代メガソーラー発電所もFIP制度に切り替えました。また、今後もこの環境をベースに他の発電所もFIP制度への切り替えを進めていくと共に、自社データ活用の要となる「データ基盤」として、更なる拡張を進めていくと言います。

 こうしたデータ基盤を構築できた成果について、根津氏、丸氏はこう振り返ります。「発電所ごとにサイロ化されたデータをダウンロードし、必要なデータを集計、入札までをもし手作業でこなすとなれば、膨大な工数がかかるだけでなくヒューマンエラーも避けられませんので、売電事業を軌道に乗せることすら困難だったでしょう。今回のデータ基盤を適応したJRE長野大町太陽光発電所、および八代メガソーラー発電所では、既にFIT収益を超える売上となっています。また、その他の発電所にもこのデータ基盤が適応されていくことを踏まえれば、連結売上高数百億円である自社再生可能エネルギー事業にとって、今後なくてはならない基盤を構築できたこと自体が成果と言えます」(根津氏)

 「また、もし一連の流れをシステム化せず手作業のまま行っていたと考えると、おそらく従来のExcelを駆使したオペレーションに強い人材を6、7名集めた部署がひとつ必要になるでしょう。ざっくり推定すると8~9000万円前後の年間コストがかかるはずです。これをデータ基盤に置き換えられたのは大きなコスト効果です」(丸氏)

 また、発電実績データは機器の故障などを予測する予防保全をはじめとする発電所のオペレーションや、発電事業者が需要者と直接電力購入契約を取り交わすコーポレートPower Purchase Agreement(PPA)のレポートにも活用されています。

 「RE100、これはRenewable Energy 100%の略称なのですが、各事業者で利用するエネルギーを100%再生可能エネルギーにすることを目標とする国際的なイニシアティブです。これに加盟する企業の間で再生可能エネルギーを購入したいという機運が高まっています。こうした背景から、ENEOSリニューアブル・エナジーでもコーポレートPPAを通じて工場やメーカー等に電力の直接販売を実施しているのですが、『いつどのくらいの量を発電したか』といったレポートにデータ基盤を活用しています」(根津氏)

 さらには、データ活用の取り組みは蓄電池の運用にまで広がっていると言います。「再生可能エネルギーは、太陽光や風力といった変動性の高いエネルギーを元にしており、原子力や火力のベースロード電源と比較すると不安定な電源です。また、太陽光発電は電力需要の高まる夕方から夜間にそもそも発電ができない特性もあります。こうした課題を解消するために、電気を溜めることが可能な『蓄電池』の活用検討も進んでいます。この蓄電池をいつ、どのように充電し、放電するのかといった最適な蓄電池運転計画を立てるためにも、気象条件や電力需要の変動データを用いています」(根津氏)

primeNumberはデータ基盤構築や運用をサポート

 primeNumberは、FIP制度への切替のモデルケースとなるJRE長野大町太陽光発電所において、予測データと需給管理システムの連携を支援しました。また、蓄電池の運転計画立案に必要なデータの連携等も、コンサルティングやエンジニアリングの観点からサポートしました。各種データの統合・連携にはSaaSの「TROCCO」を用いています。

 「再生可能エネルギーの市場そのものがまだまだ発展している途中です。そのため、取引先がどのようなシステムを採用するかも未確定ですし、将来どのようなシステムと連携する必要が出てくるかも予測することが困難です。TROCCOは標準で約100種類以上のコネクタが実装されており、さらにユーザーからの要望を受けて随時追加しているため、今後の運用にも柔軟に対応できると考えました」(丸氏)

 「primeNumberの担当の方には『データ基盤が何か』というレベルの質問から丁寧に教えていただくことができました」(根津氏)

「あらゆるデータを、ビジネスの力に変える」世界の実現に向けて

 ENEOSリニューアブル・エナジーの事業推進にデータ活用は欠かせない存在であったようです。また、データ活用の第一歩として、各所に点在するデータを統合、連携した上で、分析や活用に繋げる環境を整備すること、すなわちデータ基盤を構築することが大事だということも、本事例から分かったのではないでしょうか。さらには、こうした取り組みを通じて再生可能エネルギーを普及させることが脱炭素社会の実現にもつながっていて、今後の持続可能な社会を支えるという、データの持つ新たな可能性も見ることができました。

 primeNumberはデータ活用における環境整備をサポートしながら「あらゆるデータを、ビジネスの力に変える」というビジョンを実現できるよう、また、データの持つさらなる可能性をお客さまとともに見つけ出し、社会に還元できるよう、邁進していきたいと思います。

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