VRIコラム

インディーゲームクリエイターを見つけろ!--「パルワールド」に見る大ヒットゲームへの期待

上床 光信(角川アスキー総合研究所)2024年08月07日 08時30分

 インディーゲームという言葉がある。大手のパブリッシャーやメーカーなどの制作したゲームとは対局にある、個人や少数のチームが制作したゲームのことだ。

 最近では、ポケットペアの「パルワールド / Palworld」のヒットが代表例であろう。「Steam」での購入数が1500万本、「Xbox Game Pass」で1000万人、総プレイヤー数が2500万人を超えるという大ヒットだ。

ポケットペアの「パルワールド / Palworld」
ポケットペアの「パルワールド / Palworld」
  1. インディーはエンタメコンテンツのカンフル剤ともいえる
  2. ハードルが高かったゲームの自主制作
  3. 年々整ってきたインディーゲームの環境
  4. すでに「AI」「流通」「SNSコミュニティー」などの環境は整った
  5. だがインディーゲームはカンフル剤に過ぎない

インディーはエンタメコンテンツのカンフル剤ともいえる

 音楽業界でも大手のパブリッシャーに属さない、独立系レーベルとしてindependent labelや、indiesとかが広く認知されており、その楽曲などもインディーミュージックと呼ばれている。

 エンタメビジネスにおいて、インディー・コンテンツは大手がドライブするだけの硬直化しがちな業界のメインストリームに対するカウンター的な側面があり、それ故にインディーは、エンタメコンテンツのカンフル剤ともいえるのである。

ハードルが高かったゲームの自主制作

 ただゲームにおいては、他のエンタメである書籍や音楽、映画などと比べても、その制作がより複雑なためインディー制作のハードルが高かったのも事実だ。

 ゲーム内で使うビジュアルやキャラクターはもちろん、音楽、プロット、分岐シナリオ、それらを制御するプログラム、プレイする機種で動かすための制約、デバック、出来上がった作品の流通、配布形式等々、多岐にわたるノウハウや技術が必要だ。

 特に2000年以降のゲーム産業においては、大手パブリッシャーのクオリティーにインディーゲームが匹敵するのは並大抵のことではなかったといえる。今までもインディーゲームがヒットした事例はあるが、他のエンタメコンテンツにおけるインディー作品活躍ぶりからすると見劣りがあったのも事実だ。

 しかし、どうやらその潮目が変わってきた可能性がある。実は、今だからこそインディーゲームが注目なのである。

 そのキーポイントは、「AI」と「流通」、「SNSコミュニティー」の3つである。どうやら年々整ってきたインディーゲームの開発・普及の下地に、今この3つが上手く重なってきたようなのである。

年々整ってきたインディーゲームの環境

 ゲーム業界における近年のインディーゲームの流れは、まずはAndroidやiPhoneアプリゲームである。アプリゲームの開発は、それまでのPCゲームやコンシューマーゲームプラットフォームの、インディークリエイター視点での参入対するハードルを一気に下げ、グローバルでの流通をも可能にした。

 次にゲームエンジンの「Unity」の登場である。アプリ含むマルチ展開が可能なUnityの成功は、「Unreal Engine」のインディークリエイターへの解放も後押しをした。

 極め付けは任天堂がインディーデベロッパーとの連携を推進したことである。以降のタイムラインは一概には言えないが、おおよそ以下の流れである。

  • 2004年頃:Steamが本格スタート
  • 2008年:日本でのiPhone3Gの発売
  • 2013年:国内最大のインディーゲームイベント「BitSummit」の開催
  • 2016年頃:「Nintendo Developer Portal」をはじめとした任天堂のインディー連携
  • 2018年頃:eスポーツ元年
  • 2020年頃:2018年からのeスポーツの盛り上がり&コロナ禍の巣籠もり需要の相乗効果で日本のPCゲームマーケットが大きく拡大
  • 2022年頃:ChatGPTが登場からのAIの進化

すでに「AI」「流通」「SNSコミュニティー」などの環境は整った

 「AI」によってインディーゲームの開発は劇的にハードルが下がる。ボカロ文化のポピュラー化はその際たるものであろう。これと同じことがゲーム業界においても起きようとしている。インディーゲームという文脈においても、良くも悪くも「AI」の動きは要注意だ。

 ところで作品ができても、これを広め、配布・販売できる場所が必要だ。これも音楽を参考にすれば分かりやすいが、iTunesストアを筆頭に音楽を発表販売する流通は整備をされていて、ゲームもSteamをはじめとしてこの辺の流通は整ってきているのである。つまり「流通」もすでにクリアだということだ。

 これらを宣伝普及させるためのコミュニティーはすでにさまざまに存在し、ゲーム界隈のコミュニティーは、他のエンタメ業界よりさらにトップレベルに進化しているといっていい。

 「Roblox」や「Minecraft」などゲーム自体がコミュニケーションプラットフォームになっているケースもある。Robloxはその中でゲーム開発も可能だ。

だがインディーゲームはカンフル剤に過ぎない

 今後、発想豊かなゲームクリエイターにより大手では不可能な大ヒットゲームが出てくる可能性がある。まだ見たことのない新しいゲーム性を帯びたジャンルがインディーゲームから生まれてくるかもしれない。

 しかし、インディー作品も最初は挑戦者かもしれないが、やがて防衛者となるものである。防衛者になる前に飽きられて消えていくものもあるだろう。

 他業界を見てもインディー文化というものはそういうものだ。スタートアップ企業が大きくなっていくことと同じで、いつまでもインディーやスタートアップのままではないということだ。

 インディーゲームの時代だというと、既存プレイヤーは構えるかもしれないが、その必要は全くない。新しいものが生まれることは、業界にとっては歓迎すべきことだから、そう思いたい。

 次のインディーゲームクリエイターを探せ!

◇ライタープロフィール
上床 光信(うわとこ みつのぶ)
株式会社角川アスキー総合研究所 「ファミ通ゲーム白書」編集長

2000年、エンターブレイン社に入社。ゲームを中心としたエンタメマーケティングに従事し、『ファミ通ゲーム白書』では創刊から編集長を務めている。日本eスポーツ連合/JeSUが発行する『日本eスポーツ白書』の編集長。総務省『eスポーツ産業における調査研究』やNewzoo社の『GlobalMarketReport』の日本語翻訳版なども手掛けている。
2020年よりKADOKAWAグループである角川アスキー総合研究所に所属、ゲーム業界だけでなく隣接するエンタメ業界にもフォーカスしたマーケットアナリストして活躍

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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