「スマートリング時代」の到来を予感させる3つの理由

Nina Raemont (ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎2024年08月06日 07時30分

 サムスンが、7月にパリで開催した「Galaxy Unpacked」で「Galaxy Ring」を発表したことで、スマートリング市場は新時代を迎えた。Galaxy Ringは、日中の活動レベルや夜間の睡眠を状態を記録することによって、健康状態を総合的に把握できる健康・睡眠トラッキング機能を提供するとうたった製品だ。

3色のGalaxy Ringの写真
提供:Kerry Wan/ZDNET

 スマートリング自体は決して目新しい技術ではないが、Galaxy Ringの登場以前はニッチな存在だったと言わざるを得ないだろう。実際、私がこれまでにテストしてきたスマートリングは、どんなパーティーでも歓談の話題に使えるほどニッチなものばかりだった。筆者の人差し指に緑色に光る「Ouraリング」を目にした知人は、一様に戸惑い、興味を引かれた様子を見せる。いわゆる最先端技術のアーリーアダプターである20代の友人たち相手でさえ、スマートリングについてはいまだに説明が必要だ。

 しかしGalaxy Ringの発売をきっかけに、説明の必要は減りそうな感触がある。スマートリングは今後、もっと社会で一般的な存在になり、サムスンの広報担当者がUnpackedのイベントで述べたように「ウェアラブル健康デバイスの新たなスタンダード」になるだろう。最近発表されたDataHorizzon Researchのレポートでは、スマートリング市場の規模は2032年に10億ドル(約1540億円)以上にまで成長すると予想している。

 スマートリングがITの世界で最も話題を集めるアクセサリーになりつつあることで、スマートウォッチやフィットネスバンドは今後不要になるかもしれないし、筆者はそのことにワクワクしている。その理由はこうだ。

 この10年間は、(文字時通り)派手派手しい画面を持つスマートウォッチの時代だったし、その画面はスマートフォンを拡張するものだった。スマートフォンが社会に幅広く浸透し、車を呼んだり、休暇中の滞在場所を借りたり、ロマンチックな出会いを探したり、政治的な抗議活動に参加したりと、あらゆることに利用されるようになる中、スマートウォッチはスマートフォンの秘書の役割を果たした。

 スマートウォッチは電話に出たり(スマートフォンほどは通話に向いていないことを、母が「Apple Watch」で筆者からの電話に出るたびに意識させられるのだが)、多少扱いにくいものの他のコミュニケーション手段(メッセージングなど)を提供したり、朝起こしてくれたり、心拍数や体温を計測したりするのに使われ、通常はスマートフォンが手元にないときや、スマートフォンでは得られない生体情報を収集するために使用されている。

 しかしスマートフォンや時計、冷蔵庫、車などのあらゆるものに画面が搭載され始めたことで、われわれが画面を見ることに費やす時間が過多になり始めた。時代は振り子のようなもので、定期的に揺り返しが起こる。人々は体温や、睡眠スコアや、心拍数の記録などをチェックできる技術を欲しているが、それらの情報を見るもう1つの画面を求めているわけではない。画面はすでに身の回りに溢れている。かつてのウェアラブルはあらゆる機能を備えていたが、控えめで用途が1つしかないスマートリングが流行し始めていることが、揺り返しが起きていることを証明している。今求められているのは、特定の機能に秀でているデバイスだ。

 米CNETのLisa Eadiccico記者は、「心拍数の記録、小型の電話、車のデジタルキーなど、あらゆる役割を果たせる今日のスマートウォッチとはまた違った、単独で機能する健康トラッカーというアイデアには別の価値がある」と述べている

 それから、画面を持たず、1つの用途に特化したウェアラブルにはもう1つ利点がある。それは、スマートウォッチのバッテリーは数日しか持たないが、スマートリングのバッテリー持続時間は最大で1週間に達するということだ。

 スマートリングを歓迎すべき理由は、用途を1つに絞った製品が持つメリット以外にもある。この技術が一般に普及しつつあることも、その理由の1つだ。うわさによれば、Appleも独自のスマートリングの投入を検討しており、Google傘下のFitbitにも同様の気配が見える。

 サムスンがスマートリング市場に参入したことで、この市場は大きく広がり、より多くの企業が自社のリングを投入する余地が生まれるはずだ。そこでの競争はさらに激化するだろう。実際、サムスンのGalaxy Ringは、すでに現状のスマートリング市場を揺るがしている。そのサブスクリプションが不要な利用モデルは、業界の中心的存在であるOuraと、その299ドル(約4万6000円)のデバイスを購入した後も、毎月5.99ドル(日本では税込999円)を支払う必要があるサブスクリプションモデルを脅かしている。Ouraリングは最高水準のスマートリングだと考えられているが、永続的なサブスクリプションが必須で、自分の生体情報にアクセスするのにお金を払う必要があるという点には、多くのユーザーが不満を感じている。

 筆者は以前の記事で、サムスンが掲げたサブスクリプション不要という施策は、「1つのスマートリングに200ドル(約3万1000円)以上の値段を支払う顧客にとっては歓迎すべき展開」だと述べた。Ouraは、研究や新機能の開発に対する継続的な投資にはサブスクリプションモデルが必要だと主張しているが、サブスクリプションが不要なスマートリングを投入するブランドが増えれば、ビジネスモデルを変えざるを得なくなるかもしれない。競争は顧客にとって有利に働く場合が多いが、スマートリング市場では、今まさに厳しい競争が始まろうとしている。

 筆者がスマートリングを身に付ける人が増えると考えている理由はもう1つあるが、こちらはもう少し表面的なものだ。筆者の考えでは、スマートウォッチは不格好すぎる。見た目が派手で、そのバンドはほとんどの服装と合わない。自分の持つ服に合わせてさまざまなバンドを用意しない限り、スマートウォッチが浮いてしまうのだ。しかも大きすぎる。

 一方で、スマートリングはファッションに溶け込ませることができる。ゴールドとシルバーがぶつかる心配はあるが、目障りなネオンカラーをしたシリコン製バンドの大きな時計と比べればはるかにマシだ。また、スマートリングは目立たない作りをしており、他のジュエリーやアクセサリーとも調和させられる余地がある。

 私たちは、スマートリング市場が大きく変わる瞬間を目撃しようとしている。この市場はまだ生まれたばかりだが、この市場がニッチだと言われるのは2024年が最後になるだろう。

 筆者は、まだ友人たちがスマートリングを見慣れていない今のうちに、なるべくパーティの話題として活用しておくとしよう。2025年になれば、どんな奇抜ななウェアラブルが話題になっているか分からない。ひょっとすると脳内チップが流行しているのかもしれない。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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