パナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」は、イベント「AWARENESS」を開催している。「本能的な心地よさ」からイメージした5種類のプロトタイプを展示し、機能性や便利さだけではない、新しいデザインを表現する。
会期は6月30日まで。東京都台東区の「nomena gallary Asakusa」(東京都台東区浅草7-4-21 上菊ビル2F)で開催している。開場は11~19時。
今回のイベントを手掛けたFUTURE LIFE FACTORY Product CMF Designerの根岸美月氏は「入社以来作ってきた家電は、機能性や便利さを追求したもの。暮らしが豊かになる一方で、自分の感覚が弱くなるような感じがした。今回のイベントでは、便利さからくる心地よさではなく、本能的な心地よさやこれいいなという説明しがたい感覚から発想したもの」とイベントのコンセプトを話す。
イベントスペースには、「Intimation 気配、ほどよい曖昧さ」「Transition うつろいと没入」「Presence 伝える動き、愛着」「Continuity 連続性となびき」「Ununiformity 不均一性と陰」と名付けられた5つのプロトタイプを展示。根岸氏がイメージ、デザインしたものをエンジニアに伝え、モーターやスピーカーなどを組み合わせ、動きや音をつけているという。
Intimationは、レンズにより生み出される光の気配により、穏やかな情報伝達をする照明器具のようなプロトタイプ。LEDランプの前にレンズを3本のワイヤーでつるし、別々のモーターでワイヤーを動かすことで、レンズが屈曲し、光が回ったり、真ん中に集中したり、ボケて拡散したりする動きを表現する。
「生活の中にあったら、不意に意識が向くようなものを作りたいと思った。照明器具のような一般的なブラケットを採用したのは、光が主役であることを意識づけたかったから」という。
水の中にある葉や木の実を動かすことで、音を奏でるTransitionは、「変化し続けること、没入することによって心地よさを生み出す」ことをコンセプトに作られたもの。「アウトドアでは風を受け、葉は水の上を揺らいでいく。動き続けている間はずっと音を奏で続け、止まったオブジェクトはどんどん音を失っていく。変化し続けるものを見ていると没入できるという発想から生まれた。水は制御できない部分があり、偶発性やアンコントロールの状態が面白いと感じた」とイメージの原点を話す。
四角い箱の中には、カメラが内蔵されており、そのカメラが葉や木の実の動きを見て音を出す仕組み。会場では実際に木の枝や石などを動かしながら楽しめる。
会場内でもっとも大きい作品となるのがUnuniformityだ。SMA(形状記憶合金)を動力とし、熱を感じることでゆっくりとアクリルのルーバーが動く仕組み。「SMAは熱を感じると堅くなり、冷えると柔らかくなるという特性がある。熱すれば堅くなり、じわじわとゆっくりと動く。ルーバーにモーターをつけて動かすことも考えたが、動く音が大きく、電気も必要。心地よくないなと考え、SMAを採用した」と動力にも工夫を凝らす。
ルーバーは熱を感じてそれぞれが違う動きを見せる。「すべてのルーバーが均一に動くのではなく、異なる動きを見せる。そういう不均質さも心地よさの1つの要素になっていると開発時点では話していた。家電を作っていると均一さや再現性があることは当然だが、答えに差があるのも良いこと。便利さではない軸で、自分にとっての気持ちよさを追求するのであれば、不均一な動きは豊かなことだと思い、こうしたアウトプットにした」という。
Transitionは、布の上に垂らした水滴が、不規則に移動したり、変形したり、光を反射したりと生き物のように動く作品。水滴の動きは布を磁石でひっぱりへこませることで表現しているという。
「発想の根源になったのは、優しい気持ちや穏やかな気持ちになれるのはどんな時かということ。そう考えたときにいじらしさというか、かわいらしさ、見守っていたくなるようなものがあると、私たちは優しくなれると思い、生き物らしさを表現しようとして作った」と可愛らしい動きが発想の原点になっているという。
洗濯機の開発チームメンバーがアイデアを出して生み出したというContinuityは、「機構自体は同じ動きを繰り返すものだが、素材が持つ自由さや柔軟性によって表情を変えられると思った。風が吹いているわけではないのに風を感じるような動きを表現している」と、新たな動きを生み出している。
根岸氏は「デザイナーとして美しいものを作りたいという気持ちは変わっていないが、美しいの定義は機能性や美観、利便性だけではないと思う。家電のデザインチームにいたときは、表現が偏っていたし、1つの正解を作るんだという意識だった。でもFLFで今回のようなイベントをやってみて、正解は1つではなくて、たくさんあるということに気づいた」とイベントで展示したプロトタイプの制作を振り返った。
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