宮崎県のこゆ財団が地域で育む、地元経済の新しい循環モデル--1粒1000円「新富ライチ」生みの親

 テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする連載「BTW(Business Transformation Wave)」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏が、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。

 今回ゲストとしてご登場いただいたのは、宮崎県児湯郡新富町で地域商社として活動する一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構(こゆ財団)で代表理事を務める齋藤潤一氏と宮崎県新富町町長の小嶋崇嗣氏。観光協会を発展的に解散し、持続可能な地域経済の作るために立ち上げた、こゆ財団の成り立ちから、現在の取り組み、将来に描くビジョンまでを聞いた。

宮崎県新富町町長の小嶋崇嗣氏
宮崎県新富町町長の小嶋崇嗣氏
一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構 代表理事の齋藤潤一氏
一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構 代表理事の齋藤潤一氏
  1. 観光協会を発展的解消し立ち上げたこゆ財団
  2. 専門会社に任せず、町の経済が循環する仕組みを自分たちで作る
  3. がむしゃらさと必死さでハードルを乗り越えた創業時のメンバーとは
  4. 属人化せず、「回る組織を作ること」を考える

観光協会を発展的解消し立ち上げたこゆ財団

大野氏:こゆ財団はどんな事業をされていて、どういった背景でできた組織なのかから教えていただけますか。

齋藤氏:2017年に設立した財団になります。もともとあった観光協会を解散し、持続可能な地域経済を作る後押しができるような組織として生み出されました。おもにふるさと納税関連の事業として、地域の特産品の開発や町の新規事業の立ち上げ、人材育成なども手掛けています。

大野氏:ふるさと納税関連事業をメインに、1粒1000円の「新富ライチ」のような高付加価値商品のブランディングをしたり、最近では空き家再生事業なども手掛けられているそうですね。

1粒1000円の「新富ライチ」 1粒1000円の「新富ライチ」
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齋藤氏:空き家再生は、すでに4年ほど取り組んでいて、空き家を改装し、一棟貸切宿として提供している「茶心」は、「Traveller Review Awards 2024」を受賞しました。さらに、第3日曜日にキッチンカーや店舗を出して、町民と外の人との関係構築の場になっている朝市は始めてから7年が経っています。

空き家を改装し、一棟貸切宿として提供している「茶心」 空き家を改装し、一棟貸切宿として提供している「茶心」
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大野氏:地域の取り組みを数多く取材していますが、その中でもこゆ財団はかなりの成功事例だと思います。

小嶋氏:しっかり稼げる自治体を作っていこう、スピード感を持って課題解決しようという中で、行政だけではできることが限られています。そのためにも一度外に出して、やってみようということで作ったのがこゆ財団です。中でも重視したのがスピード感を持って課題解決にコミットすること。それが当初の目的でした。

大野氏:それだけ町全体が抱える課題は大きかったのですか。

小嶋氏:当時は財源的にすごく厳しい時期で、役場の職員が少なくなり、公務員採用が減り、いろいろな課題がある中、解決する手段が見いだせていない状態でした。そのためにも民間活用や、自分たちとは違う考え、アプローチができる団体の必要性を強く感じていましたね。

大野氏:実際のスピードはイメージ通りでしたか。

小嶋氏:スピード感はありました。ただ、現在はフェーズが変わってきていて、何か新しいことにスピード感を持って取り組むよりも、今手掛けているものを安定させることに重きが置かれているように感じます。そうなると次の新しいものがなかなか生まれてこない。その段階に入ってきているように思います。

大野氏:そういう意味では、今までは新しいものを積極的に、アグレッシブにやっていたのでスピード感もあったが、安定フェーズに入ってきて今はその伸びが落ちているような印象ですか。もう一度チャレンジフェーズに戻す施策ということは。

小嶋氏:当初から話しているのは「なんでも屋さんはいらない」ということです。こゆ財団にすべてを求めるのではなく、まずはふるさと納税をしっかりと作り上げてもらいたい。これをもとに地域経済をしっかり循環することが一番大事で、それに付随してくるのが人材育成になります。地域経済を作っていける人たちを育てていく。それが新富町の経済の支えていく人になる。

 安定フェーズに入っていても、ここをしっかり改善していることが重要です。ほかの新しい課題を解決するには、新しい別の団体を立ち上げたいと考えています。

専門会社に任せず、町の経済が循環する仕組みを自分たちで作る

大野氏:地域経済を作る、人材を育成する取り組みは各自治体の方もかなり取り組まれていると思います。そんな中、こゆ財団のふるさと納税の取り組みは成功している。加えて人材も育成できている。成功のポイントはどのあたりでしょうか。

小嶋氏:最初のスキームが良かったとおもっています。例えば金額を追い求めるだけであれば、専門的な知識を持った方はたくさんいる。しかし、そうした専門会社などに頼らず、自分たちでこゆ財団を作り、その利益をもう一度町に還元しました。この仕組みを作れたのが大きかったのかなと。

大野氏:専門会社などに依頼するのが一番楽だと思いますが、自分たちで手掛けたのはかなり大変だったのではないでしょうか。

小嶋氏:当時、役場からこゆ財団に出向していた担当者は本当に大変そうでした。ただ、マネジメントというか、外部の人の視点を入れるのは大事だと考えていて、そのタイミングで齋藤さんに助けを求めました(笑)。

大野氏:齋藤さんはなぜこゆ財団への参画を決めたのですか。

齋藤氏:こゆ財団の代表を探しているという相談を受けて、責任の重い仕事なので、実は一度お断りしました。ただ、一緒に人を探してほしいということで、探していたのですが、なかなか候補の方が見つからず……。

 一緒に代表探しをする中で、みなさんの地域経済をより良くしていこうという思いや強い危機感などが伝わってきました。この人たちであれば、ゴールも共有できますし、持続可能な地域づくりは私の人生のミッションでもありますので、一緒にやれるのではないかとおもったのが大きかったですね。

大野氏:こゆ財団がうまくいった理由は、スキームもそうですが、推進するスタッフの方や齋藤さんなど、人材の部分が大きいですね。齋藤さんご自身は、いつ頃から持続可能な地域づくりを目標にされていたのですか。

齋藤氏:2011年の東日本大震災を機に地域課題解決の活動を開始しました。それまでは、米国シリコンバレーの音楽配信スタートアップでクリエイティブ・ディレクターを務めていたのですが、帰国し、いろいろな地域を見て回ると、地域の課題解決をコンサルタントに丸投げにして、地域ごとに表紙だけつけ変えたようなプレゼン資料にそのまま予算をつけて取り組んでいるという現状がありました。一方で、NPOの現場では、すごくがんばっているのに「お金がない」と言っている。これはおかしいなと。持続可能な地域づくりにチャレンジするのは、人生をかけてやる価値があるなと思って活動しています。

大野氏:コンサルタントに丸投げしておけば、イベントなどへの集客もできますし、課題解決につながっているように感じてしまう。しかし、現場の人たち、生産者の人たちの困りごとにはリーチできていない。この部分は私自身も大きな問題だと思っています。地域課題の本質にリーチしながら取り組まれているこゆ財団は、特に創業時の苦労が多かったように感じますが。

齋藤氏:とにかく大変でしたね。8年前ですが、本当に何をやっているかわからないというような状態でした。今思い返して見ると、まったく新しい取り組みだったので、暗中模索というか、答えがない中でやっていたのが大変だったのだと思います。

 その中でも「とにかくお金を稼がなくては」ということで、新富ライチを約2カ月でブランド開発し、そこで勢いづいたのがよかったと思います。その後もスピード感をもって取り組んでいきました。

がむしゃらさと必死さでハードルを乗り越えた創業時のメンバーとは

大野氏:誰もやったことのない、未知の取り組みを乗り越えられた理由というのは。

齋藤氏:乗り越えたとは思っていませんが、岡本さん(新富町役場 総務課秘書広報室長の岡本啓二氏)と二人三脚で取り組めたのが大きかったですね。岡本さんは本当に天才的で、多くのハードルに食らいついて乗り越えていく。その次もその次もと乗り越えてくる力がすごいなと思いました。今までと同じことをやっていても、誰もついてこなくて、岡本さんが持っていたようながむしゃらさというか必死さ、みたいなものが、こゆ財団をここまでにしてくれたのだと思います。

 この必死さを、実はもう一度取り戻さなくてはと思っているのが現在で、創業時の気持ちを思い出して、今のメンバーと創業時のメンバーが一緒になって、新規事業を作っていく。課題解決に通じる事業を作っていくことをやっていきたいと思っています。

大野氏:創業時の熱意を取り戻さないといけないと思われたのはどうしてですか。

齋藤氏:日々取材を受けたり、視察があったりと、非常にありがたい状況ではありますが、こゆ財団がやるべきミッションは実はまだ達成していないし、継続的に成長させていかなければならないフェーズにあると思っているんですね。そう感じている一方で、自分たちはできている、やれていると勘違いしている部分がすごくあるなと。

 先ほど、町長はフェーズという言い方をされたと思いますが、そういうフェーズだから仕方がないと思うのは大きな間違いで、「やばい」と思わなければいけない時期にきていると思っています。

大野氏:このあたり町長のリーダーシップが発揮されるところだと思います。齋藤さんからみてどう映っていますか。

齋藤氏:総合的にすごいリーダーだなと思いますね。言葉にするのは難しいのですが、作られたリーダーではなくて、ありのままでリーダーシップを発揮できる人だと思っています。本当にうらやましいですし、尊敬しています。私自身はそこまでできていないので、すごく勉強もさせていただいています。

大野氏:小嶋町長ご自身は、こゆ財団を導くために心がけていることは。

小嶋氏:普通、行政はハレーションを起こさないように注意するのですが、私はハレーションを起こさないとだめだと思いました。なぜなら、ハレーションの大きさで、新しいことに取り組んでいるかどうかがわかると思ったからです。その上で、行政としてどんな立ち位置ができるかと考えました。

大野氏:そこから始められて、今は徐々に状況も変わってきているのではないでしょうか。

小嶋氏:ハレーションが起こらなくなったというか、大分緩やかになってきました。こゆ財団が、町にとって「あって当たり前」の存在になり、この次は融合フェーズに入ってくると思っています。地域とともに何をつくっていけるかを議論するフェーズに入ってくる思いますが、そこを担う人たちが、現状の業務などに追われていてなかなか見つからない。

大野氏:ハレーションを起こして立ち上げて、起こらなくなって、それをまた変えていく。この動きはどのくらいの周期で起こるものですか。

小嶋氏:どうでしょう。任期1期ごとかもしれません。こゆ財団を立ち上げたのは前町長で、私が町長になることを推してくれた人たちは、こゆ財団寄りでない人もいました。

大野氏:それでもこゆ財団がここまで来られたのは地域にとって必要と判断されたからでしょうか。

小嶋氏:私自身「まちづくり株式会社」を作るとずっといっていたので、そのあたりを理解していただけたのかなと思っています。例えば、葉は外に向かって広がることで栄養分を取り込みますよね。こゆ財団の役割はこの葉だと思うのです。外に広がり、いろいろなところから物事を吸収する。一方で地域の人たちは根であり、ここがなければ葉を広げることはできない。こうした話しをずっとし続けてきました。

属人化せず、「回る組織を作ること」を考える

大野氏:役場の職員の方のモチベーションにも関連してきませんか。

小嶋氏:少なからずそういう思いはあるかと思いますが、基本的には惑わされないようにと。きちんとやるべきことを明確にするというのを続けていますね。私自身は職員に向かって話しをするというよりも、議会で思い切り話しをするというスタンスを取っていて、それは、私がいなくても大丈夫な組織を作りたいからなんです。「小嶋だからやれる」のではなく、「新富町役場だからできる」ようにしていかなければならないと思っています。

大野氏:これは町長就任当初から意識されていたのですか。

小嶋氏:はい。町長になった瞬間から考えていたことです。私でなくてもできる組織を作ることがすべてだと思っています。

齋藤氏:私もこの町長の考えにかなり影響を受けていて、私がいなくても大丈夫な組織を作っていきたいと思っていますし、法人は生き物なので、根本的に変えるのは難しいと思うのですが、結果をしっかりと見せて、方向性を示せれば変えていける。小嶋町長はそれを結果で見せているなと感じています。

 私はその町長のすごい背中を見ながら、地域の経済活動を動かし、かつ地域課題を解決し、雇用を生み出すチャレンジをしていきたいと思っています。

大野氏:人材獲得やがむしゃらさなど、こゆ財団の成功要因はいろいろあるかと思いますが、中でも「ここが」という部分を教えて下さい。

小嶋氏:岡本さんと齋藤さんのペアでスタートを切れたことだと思います。やはり人ですね。

齋藤氏:何を持って成功というのかという問題はありますが、初期に町民の方にヒアリングした時に言っていたのが「新富町は通り過ぎる町」だと。それが、最近は人が来たり、経済が動いたりする町になってきたと言われるようになりました。それは1つ良かったことだと思っています。それをきっかけにふるさと納税も伸びてきました。今、こゆ財団のスタッフは町民の方半分、移住者の方半分という比率ですが、それもすごくよかったと思います。

 町長がおっしゃったように、岡本さんと組めたのは、成功要因のすごく大きい部分ですが、役場を含めた新富町全体の町のあり方や文化が持続可能な地域を作る試みに寛容であり、かつマッチしたという部分が成功要因だと思います。

大野氏:労働人口減や原価高騰など、地域ごとにさまざまな悩みを抱えていると思います。こゆ財団のような成功を収めるポイントというのは。

小嶋氏:課題に本気でコミットし、愚直にやり続けるしかないと思っています。役場の職員に町の課題について聞くと、住民との距離が離れているや、農家の高齢化が大変といった返事が来ますが、これはもう30年も50年も言われ続けていること。少しでも解決したいと考えるならば、その時やれることをやっていくしかない。

 高度成長と人口増の時代は終わり、日本の前提は変わりました。口ではみなさんそう言いますが、本当に認識しているのかということに尽きます。そこを問い続けないとだめだと思いますね。

齋藤氏:結論はいいリーダーを選ぶことだと思います。加えて、新富町に視察に来てくださった方の中には、新富町の取り組みをそのまま真似されたり、財団をつくってみたりという方もいるのですが、それでは意味がない。町が今後10年20年でどうなるのかをじっくり考えて取り組む必要があります。

大野氏:ありがとうございました。

こゆ財団のみなさん こゆ財団のみなさん
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大野泰敬氏


スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー


事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。



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