就活の早期化が進むなか、企業が使いわけたい「攻め」と「守り」の2チャネルとは

草深生馬(RECCOO CHRO)2024年05月28日 11時00分

 就活スケジュールの早期化が進む中で、学生たちの動向にも変化が見られ、企業側にも採用のスケジュールや戦略の見直しが必要とされています。2026年卒学生に向けた夏インターンを目前に控えたこの時期に、企業側が準備すべきことは?

 前回(「就活の早期化が進むなか、企業に求められる『戦略の見直し』とは」)に引き続き、今回は、企業が取り組むべきことの3つ目のステップについて、Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が、解説します。

  1. 学生との接点を作る「攻め」と「待ち」の2つのチャネル
  2. 大規模イベントや大手ナビサイトは、攻めの効果が低い
  3. 待ちのチャネルを使った母集団形成のポイントは「ターゲット含有率」

学生との接点を作る「攻め」と「待ち」の2つのチャネル

 前回は、就活の早期化が進む中で、企業が取り組むべき新卒採用の基本的なステップについて、(1)注力ターゲットを決める、(2)スケジュールを決める、について解説しました。今回はステップ(3)学生との接点を作るチャネルを決める、について考察します。

 注力ターゲットと採用スケジュールを決めた後には、いよいよターゲット学生たちと効果的に接点を持つためのチャネルを選定する必要があります。それには、ターゲット学生の企業に対する認知度によって、大きく分けて2つの「攻め」と「待ち」のチャネルを効果的に使い合わせることが重要です。

 まずは、攻めと待ちについて説明します。

 攻めのチャネルとは、簡単に言うと、企業から学生へ積極的にアプローチすることによって、応募を促すことができるチャネルのことです。どのような企業でも活用できて、その企業をまだ知らない、という学生に対しても有効です。

 一方、待ちのチャネルは、すでにその企業に興味を持っている学生からの応募を待つというスタンスです。これは、ブランド力の強い大手企業などが活用すれば効果的ですが、そうではない企業にとって、待ちのチャネルだけで採用候補の母集団を作るのは難しいでしょう。

大規模イベントや大手ナビサイトは、攻めの効果が低い

 まず、攻めのチャネルについて解説します。

 一度に多くの学生に出会えるということで、不特定多数の学生が集まる合同説明会などの大規模イベントに参加したり、大手のナビ媒体を利用するのは、新卒採用の王道的手法だと思われています。しかし、これらを攻めのチャネルとして活用するのはもったいない、というのが私自身の持論です。

 その理由ですが、合同説明会はその仕様上、知名度が高い企業に学生が集中する傾向があります。会場の企業を全て回って丁寧に話を聞く学生はほとんどおらず、お目当ての企業の話だけ聞いて帰ってしまうケースが多いようです。

 同じように、大手ナビサイトは、「自分が気になる企業を調べるために利用している」という学生がほとんどです。そもそも掲載されている企業数が非常に多いので、偶発的な出会いのチャンスを得られる確率はわずかだと言えます。両方とも「攻め」のチャネルとしては効果が低いのです。

 それよりは、企業の知名度に依存せず、コンテンツで勝負できるようなチャネルを選ぶといいでしょう。例えばイベントであれば、参加する学生が企業名ではなく、どのようなコンテンツを提供している企業か、ということに注目して参加を決めるような仕組みのイベントが理想的です。

 そこで、「デジタル広告について学びませんか?」「エントリーシートの書き方講座をやります」というようなテーマを掲げれば、企業名を知らなくても関心を持つ学生も少なくないでしょう。

 特にその企業に興味がない、社名も知らないという学生でも興味を持てるようなコンテンツを考え尽くして、内容を作り込むことがとても大切となります。いずれにしても、イベントに出ること自体は有効だと思いますが、イベントごとの特徴を理解し、うまく活用する作戦があってこそ「攻め」のチャネルとして活きるのです。

 また、ダイレクトリクルーティングサービスの活用も効果的だと思われます。一般的には、中途採用市場で一般的に活用されていましたが、最近、新卒向けのサービスも成熟してきた感があり、使い勝手も良くなってきています。これをうまく活用すれば、ターゲット学生を探して直接打診することも可能です。

待ちのチャネルを使った母集団形成のポイントは「ターゲット含有率」

 待ちのチャネルの活用は、ブランド企業のように母集団となる就活生が企業側から働きかけなくても応募してくる状況にあることが前提になります。前述の合同説明会など、就活の大規模イベントに出展するだけでも集客は問題なくできるでしょう。

 こういった場合は、ブースを訪ねてくる学生の中に、どれだけターゲットがいるかという「ターゲット含有率」がポイントになります。本当に獲得したいターゲット学生を多く集めるためには、そのチャネルにターゲット学生がどの程度の割合で存在するのかを考慮しないと「数は集まったものの欲しい学生ではない…」ということになりかねません。

 母集団形成のポイントは、「ターゲット含有率」が高い、つまり「ターゲットが多く含まれていること」ですが、同時に「ターゲットではない学生がいかに含まれていないか」も工夫できるポイントです。

 例えば、エンジニアを採用したいのであれば、「理系学生限定」と謳うようなセグメント別の小中規模のイベントに出展すれば、たとえ参加者数が少なくても、ターゲットに接する割合は高くなります。極端に言えば、数百社が出展し、不特定多数の学生が参加する大規模イベントよりも、理系のエンジニア志望学生限定で、出展企業も5社のみといったような説明会の方が効率的ではないでしょうか。

 そこで、ターゲットたちと接触し、学生たちにしっかりと刺さるような言葉を伝え、応募してくれるところまでエンゲージを深めるように努めてください。

 最後に、まとめになりますが、就活動向の早期化は深刻です。優秀な学生を早期に確保したい企業と、不安感から早期に動き出し内定を獲得したい学生の関係は、まさにイタチごっこです。このような状況だからこそ、ただ早く動き出すということではなく、改めてターゲットを見直し、そのターゲットに合わせて採用スケジュールを立て、適切なチャネルを選定する。そこで企業は、適時適切なメッセージを伝えながら、効果的かつ効率的にターゲット学生の母集団を形成していくように取り組んでほしいと思います。

草深 生馬(くさぶか・いくま)

株式会社RECCOO CHRO

1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。

2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。

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