ソフトバンクは5月9日、2024年3月期の通期決算を発表した。
売上高は前年度比3%増の6兆840億円で、営業利益は前年度比17.4%減。しかし、第3四半期に計上したPayPayの子会社化に伴う再測定益を除いた営業利益は、前年度比14%増の8761億円になるという。
事業別で見た内訳は、「エンタープライズ」「ディストリビューション」「メディア・EC」「ファイナンス」「コンシューマ」全事業で増益で、コンシューマ以外の4セグメントは増収も達成した。中でも、エンタープライズとメディア・ECは2桁増益だった。
ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏は、「値下げの影響を受けてきたコンシューマ事業をついにプラスへ転じることができ、全ての事業で増益だった。Cubic Telecomへの675億円の出資を除けば、昨年並の高い水準のフリー・キャッシュ・フローが創出でき、実力ベースでは増収増益の決算となった。2月に発表した修正後の予想も全て上回る結果で、売り上げ・営業利益・純利益を着地できた」とし、政府による要請を受けて実施した携帯電話料金引き下げの影響から脱出できたと話す。なお、1株あたりの配当金は期初の予想通りとしている。
事業別の主なトピックスとしては、コンシューマ事業における2024年3月期のスマートフォン契約数が147万件の純増を達成。また、「PayPay」の還元率を上乗せできる新プラン「ペイトク」の提供開始など、ARPU向上に向けてさまざまな付加価値・新サービスを提供したと振り返る。
5月8日には、5G展開の早期化と設備投資効率の最大化に向け、5G JAPANを通したKDDIとの協業を拡大することも発表している。現状の地方都市および5Gとしている範囲を、全国および5G+4Gに拡大するという。共同構築の基地局を2030年に累計で10万局とし、1社当たり累計1200億円の設備投資コスト削減を目指すとした。
グループの「経済圏」の拡大に取り組む新たな施策も発表した。従来の株式を10分割するとともに、株主優待として「PayPayポイント」1000円分の進呈を新設するという。宮川氏は、「キャリアの顧客基盤としては比較的若年層が多いが、株主構成は40歳未満が非常に少ない傾向がある。最低購入額の引き下げと優待の用意で若い株主層を増やしたい」と狙いを話す。
エンタープライズ事業では、4月25日にSBテクノロジーの完全子会社化を発表している。「SBテクノロジーは、クラウド、セキュリティ、AIに強いエンジニアを抱える。ソフトバンクとしてもAIやクラウドビジネスを順次拡大していく中で、技術力とリソースをグループとして一体化する」(宮川氏)と狙いを説明した。
4月26日には、コネクテッドカーおよびSDCV向けIoTプラットフォームを展開するCubic Telecomの子会社化を完了。Cubic Telecomとして、2030年度末に1億超の契約回線数を目指すという。また、ホンダが同IoTプラットフォームの導入検討を進めることに合意したことも発表している。
昨今の大きなトピックの1つとなる生成AI関連では、「本当に需要が多く、すでに400社以上から受注した」(宮川氏)と好調をアピール。現状ではOpenAIの「ChatGPT」をベースとするが、自社開発の生成AIも完成次第提案していくという。
営業面で生成AI導入をリードするGenerative AXの本格的な稼働も開始し、「技術・営業の両輪がそろったが、AIとの共存社会の時代ではそれを支えるデータセンターも不可欠。現在稼働しているデータセンターは17箇所だが、まだまだ顧客ニーズにこたえきれていない」(宮川氏)とし、今後はデータセンターの拡張に注力すると話す。
また、「事業基盤が想定よりも早く安定してきたので、次期中期経営計画に向けての成長を加速すべく、2024年度は生成AI関連に追加投資する」(宮川氏)。具体的には、エヌビディアが3月に発表した最新のAI計算基盤「NVIDIA DGX B200」へ追加投資し、現在の計算能力を37倍まで引き上げ、1兆パラメータの生成AIを構築するという。
「急速な拡大が見込まれる生成AI市場は、2030年に日本だけでも2兆円規模と予想されている。AIの計算基盤は底堅い需要があり、設備の貸し出しだけでも投資は回収できるが、生成AI時代のマーケットリーダーとなるべく、自社の1兆パラメーターの生成AI構築にも活用する。独自の生成AIが完成した暁には、企業や自治体への営業を一気に進める」(宮川氏)とし、ソフトバンクの長期ビジョンの柱と表現する。
なお、自社生成AIサービスの具体的なイメージとしては、マイクロソフトと共同開発するコールセンター業務の自動化ソリューションを挙げた。「リアルタイムでも変化する状況を把握しながら、自律的に応答する。携帯電話のコールセンターでは、1時間前に電話があったという履歴や、つながっている基地局の電波状況、直近の振り込み状況など、リアルタイムな情報が非常に重要だ。そういった膨大な情報と関連づけて処理できる、『スーパーAI』みたいなものを構築したい。まずは自社から、それから法人向けソリューションとして利用を展開する」(宮川氏)と構想を話した。
傘下に置くLINEヤフーを中心に展開するメディア・EC事業は、営業利益としては前年比24%増。2024年度も16%増を目標に掲げるなど好調だ。
今後の具体的な方針は、LINEヤフーが5月8日に発表した「LYPプレミアム」の魅力拡充、「LINE」のリニューアル、「Yahoo! JAPAN」アプリのリニューアルなどを繰り返すにとどめた。また同様に、LINEヤフーの個人情報流出を受けたセキュリティガバナンス強化、およびNAVERとの資本関係見直しの取り組みについても、LINEヤフーの発表の復唱にとどめた。
しかし、メディアから多くの質問を受けるなかで、「NAVERとは、LINEヤフーのセキュリティガバナンスの強化、自身の事業戦略という観点を含めて、何がいいかを本当に、真剣に議論している。何か障害を感じているわけではない」(宮川氏)と、交渉が滞っているわけではないと話す。また、NAVERとしてもソフトバンクとしても、「かわいい子会社から言われたことに、真剣に向き合っている」と表現し、NAVERからの消極的な反応はないと言い切った。
一方で、NAVER・ソフトバンクともに上場企業であり、多くのステークホルダーがいる営利団体であるため、「今はとにかく、お互いにプラスになる方法」(宮川氏)を探している段階と説明した。
ただし、取締役の数について宮川氏は、「(LINEヤフーの親会社である)Aホールディングスの取締役が1人、(NAVERよりも)多い環境となっている。過半数は私どもがコントロールしている状況」と、多少の資本の変化で大きく変化するものではないと話した。
なお、コンシューマ事業の黒字化について宮川氏は、「(宮川氏が社長に就任して)4年目の任期となるが、最初の任期のスタートから値下げの影響が始まり、2年半本当に胃が痛い思いで、ありとあらゆる勉強をした。コンシューマーの値下げ分を何かでカバーすべく、コストダウンや法人事業の成長、ファイナンスなどさまざまなことを考え、動いた。積み重なって気づくと、コンシューマー事業が落ち着く一方で他の事業が伸びたまま。苦労のかいがあった」と振り返る。
ソフトバンク 代表取締役 副社長執行役員 兼 COOの榛葉淳(しんば・じゅん)氏も、「社長と同等というか、(コンシューマ事業の)責任者だったので社長以上に、本当にこの2年は厳しかった。予想より半年、1年早くさまざまな数字が達成できたことは当然ながらうれしく、関係者に感謝を申し上げたい。しかし、われわれの事業ではサービスを使っていただいている方の解約もある。まだまだやることがあるので安心せず、AI活用やLINEヤフーとのシナジーのさらなる具現化などに注力していきたい」と話した。
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