サムスンは1月に開催した製品発表会「Unpacked」の終わりに、自社のモバイル製品ラインに加わる新たなガジェットとして「Galaxy Ring」を発表した。しかし、発売日や価格は明らかにされなかったため、この発表はサムスンが健康・ウェルネス分野で新たなウェアラブル製品の発売を計画していることをほのめかすだけで、Galaxy Ringの対象ユーザーは分からないままだった。
サムスンは、「Samsung Health」アプリにデータを送るウェアラブル製品やスマートフォンを多数展開している。サムスンの表現を借りるなら、Galaxy Ringはこのネットワークに加わる新たなガジェットだ。サムスン電子のバイスプレジデントで、モバイルエクスペリエンス事業デジタルヘルスチームを率いるHon Pak氏は米CNETのLisa Eadicicco記者に対し、「このリング(Galaxy Ring)を、マルチデバイス連携に向けた多くのステップの1つと捉えてほしい」と語った。
つまり、Samsung Healthアプリに送る睡眠、栄養、運動、ストレス関連のデータを追跡する新たな方法がGalaxy Ringというわけだ。Galaxy Ringは、「Galaxy Watch」のような手首につけるタイプのウェアラブル製品は苦手だが、自分の健康状態はモニタリングしたいと考えている人々にも向いている。この種の消費者は、スマートウォッチよりもスマートリングの方が身につけやすいと感じるかもしれない。
「指輪は腕時計よりも邪魔にならない。しかも健康指標によっては、手首よりも指の方が生理学的データをとりやすい」と、Techsponentialのプレジデント兼主席アナリストのAvi Greengart氏は指摘する。同氏もサムスンのPak氏から、開発中のGalaxy Ringを見せてもらったことがあるという。
Greengart氏は、スマートリングとスマートウォッチの両方をほしがる消費者もいれば、どちらかにしか興味を持たない消費者もいることをサムスンは理解していると述べる。中には見た目が気に入って、スマートリングを選ぶ人もいるかもしれない。米CNETのEadicicco記者によれば、Galaxy Ringのデザインは「すっきりとミニマルで、(内側にセンサーが並んだ)新郎用の結婚指輪を思わせる」という。
「個人的には、このデバイス(Galaxy Ring)に大いに期待している。スマートリングはほしいが、既存の製品はごついものが多い。すでに『Galaxy Watch6 Classic』は持っているので、私にはGalaxy Ringがぴったりかもしれない」と語るのは、Moor Insights and Strategyの主席アナリスト、Anshel Sag氏だ。
スマートウォッチにはディスプレイがあり、センサーの数も多いため、スマートウォッチのユーザーが一気にフィットネスリングに乗り換えることは考えにくいとSag氏は言う。むしろ、スマートリングは充電のためにスマートウォッチを外さなければならない就寝中も健康データを確保するための手段として活用される可能性がある。Galaxy Ringが箱から出してすぐ使える手間いらずの製品であれば、さらにいい。Sag氏は、サムスン製スマートフォンのユーザーは、新しいアプリをインストールすることなく、Galaxy Ringのデータと他の健康データを統合できるのではないかと予想している。
スマートウォッチの愛用者は操作しやすい鮮明なディスプレイを求めるが、すべての処理がバックグラウンドで行われ、自分は何もしなくていいデバイスを求めている人もいる。Galaxy Ringは、健康データは追跡したいが、スマートフォンのような手間のかかるガジェットはいらないと考えている層に訴求するかもしれない。
International Data Corporation(IDC)のデバイスリサーチ担当バイスプレジデントを務めるBryan Ma氏は、「スマートリングの肝は、スマートウォッチよりも安いことではない。スマートウォッチよりもずっと小さく、睡眠中でも邪魔にならないことだ」と語る。
Samsung Healthアプリを使って健康データを記録したいが、サムスンの最近のスマートウォッチやウェアラブル製品とは連携できないiPhoneユーザーも、Galaxy Ringに関心を持つ可能性がある(サムスンは2021年にGoogleと提携し、Galaxy Watchに「Wear OS 3」を採用した。以来、Galaxy WatchシリーズはAndroid端末にしか対応していない)。
Galaxy Ringの価格はまだ発表されておらず、他の健康管理に重点を置いたウェアラブル製品と比較して、価格や機能面でどのような違いがあるのかも不明だ。このため、競合製品と比較した際のGalaxy Ringの差別化ポイントや訴求ポイントを予測することは難しいが、現在の市場環境をもとに、Galaxy Ringに関心を持ちそうな層を推測することはできる。
無視されがちだが、健康データを追跡できるスマートリングはすでに存在する。特に人気が高いのは「Ouraリング」とMovanoの「Evie Ring」だ。Evie Ringはセレブリティやアスリートの間で大人気だが、今のところ一般庶民の間では普及していない。こうした先行製品との競争は厳しいものとなるだろうが、サムスンには規模のメリット、複数のデバイスからなるエコシステム、それが生み出す柔軟性といった優位性があると指摘するのは、Forresterのバイスプレジデント兼主席アナリストのJulie Ask氏だ。
「Ouraは、最初はハードウェアのみを売っていたが、現在はサブスクリプションモデルを導入し、有料メンバーにはより多くの分析データを提供している」とAsk氏は言う。「サムスンはハードウェアをOuraよりも安い価格で売ればいい」
すべてのガジェットに言えることだが、価格は普及率を左右する。高い製品を買ってもらいたいなら、消費者を説得できるだけの材料を提供しなければならない。比較的新しいジャンルの製品ならなおさらだ。サムスンの「Galaxy Watch6」(300ドル、日本では5万160円)を、同じスマートウォッチの「Apple Watch Series 9」(400ドル、日本では5万9800円)や「Garmin Venu 2」(450ドル、日本では5万4800円)と比較するのは簡単だが、Ouraリング(300ドル、約4万6000円)と比べるのはそれほど簡単ではない。
だからこそ、Galaxy Ringは価格が重要になるとAsk氏は言う。もし100ドルから200ドル(約1万5000〜3万円)程度なら、たとえ数カ月後にはタンスの隅に転がっていたとしても、ガジェット好きは買って試してみようと思うかもしれない。しかし300ドル(約4万6000円)を超えるなら、買う前にそれだけの価値があるかを知りたいと考えるはずだ。
実際に動いているところを見せられれば、説得力は高まる。発売日が近づく頃には、Galaxy Ringに関する情報も増えているだろう。しかし、サムスンは価格や技術スペック以上に、Galaxy Ringの使いやすさを証明する必要がある。ゲーミフィケーションや競争、コーチング、サポートといった動機付けは、多くの人にとって有効なエンゲージメント戦略となってきたとAsk氏は言う(例えば、椅子から立ち上がるよう促すリマインダーは、いらつきはするが効果的だ)。
サムスンは、Samsung Healthアプリに新機能「Booster Card」を追加する計画を明らかにしている。これは健康データの分析結果をもとにアドバイスやヒントを提供する機能だ。例えば、睡眠スコアが低いときは「寝返りが多かった」などの理由を教えてくれ、改善のためのアクティビティーを提案してくれる。
この機能は、フィットネスに関心があり、直感的で使いやすく、既存のソリューションよりも正確な健康データを入手できるウェアラブル製品が欲しいと考えている消費者の心をつかむかもしれない。
既存のスマートリングは収集した健康データをスマートフォンに送信する。サムスンもフィットネスや健康関連の指標をスマートフォンにインストールされたSamsung Healthアプリに集めてきた。この仕組みはGalaxy Ringでも変わらないだろう。Galaxy Ringに関する疑問の1つは、ペアリングされたスマートフォンの進化(2024年の場合は生成AI)から、どのような恩恵を得られるかだ。
1月中旬に発表されたサムスンのスマートフォン「Galaxy S24」シリーズは生成AI関連の機能が目玉だ。例えば「かこって検索」、生成AIによる写真編集などがこれに当たる。サムスンは、こうした機能をまとめて「Galaxy AI」と呼ぶ。Galaxy S24シリーズに搭載されているプロセッサー「Snapdragon 8 Gen 3」には、さまざまな生成AI関連機能が詰め込まれているため、その一部をSamsung Healthアプリに取り入れ、Galaxy Ringが収集したデータと連携させることは理にかなっている。
前述したように、Galaxy Ringに関する公式情報はあまりにも少なく、具体的にどのような生成AI機能が搭載されるのか、すでに発表されているGalaxy S24シリーズのGalaxy AI機能にどのような影響を与えるのかを読み解くことはできない。しかし、サムスンのこれまでの投資を考えれば、Galaxy Ringが収集するデータが加わることで、生成AI関連の機能はさらに強化されるはずだ。
「(Galaxy Ringは)AIデバイスの市場を拡大する一方で、成長し続けるAIデバイスのエコシステムにも組み込まれることになる」と、Gartnerのアナリスト、Ranjit Atwai氏は言う。
AppleはAIを利用した健康データの追跡機能をまだ発表していないが、Googleは2024年内に「Fitbit Labs」機能を導入し、AIを利用した健康関連のアドバイスやヒントをFitbitデバイスで利用できるようにする準備を進めている。AIは、Galaxy Ringの大きな特徴であるだけでなく、2024年に登場する健康志向のウェアラブル製品に後れをとらないために、最低限必要なものでもあるのかもしれない。
ForresterのAsk氏は、サムスンがフィットネス用ウェアラブル製品市場で確固たる足場を築くためには、スマートウォッチやスマートリング以上のものが必要だと言う。それは情報の提供であり、市場の構築だ。まずは、Galaxy Ringの有用性を消費者に理解してもらわなければならない。
「簡単なセットアップ、的を射たアドバイスやヒント、効果的な顧客エンゲージメントといった優れたデジタル体験を提供する必要がある」とAsk氏は言う。しかし、「(これは)容易ではない」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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