ディズニーの動く床「HoloTile」と進化するロボット--体験レポート

Bridget Carey (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2024年04月24日 07時30分

 筆者は、Walt Disney Imagineeringの薄暗い研究開発ラボの床に立ち、新しい発明のデモを直接体験している。その発明とは、ジェダイの力を与えてくれる「魔法」の床だ。手をかざすと、遠くにある箱を自在に動かすことができる。

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提供:Disney

 この巧妙な念力のトリックを行う直前、筆者は、この床が全方向性ランニングマシンとしても機能する様子を見た。このテクノロジーは、人間が同じ場所にとどまりながら、あらゆる方向に永遠に歩き続けられるようにすることで、仮想現実(VR)の未来を変える可能性を秘めている。「スタートレック」のホロデッキはこのようにして生まれたのだろうか。

 Disneyのチームはこの床を「HoloTile」と呼んでいる。HoloTileは、回転したり傾いたりするディスクで構成されるモジュール式システムで、LiDARカメラとセンサーの助けを借りて、床の上のあらゆる物体や人間を滑らせることができる。短時間ではあったが、HoloTileの表面に触れたり、ゲームコントローラーで操作したりする機会を得た筆者は、このイリュージョンがどのように作り出されているのか、そして、用途としてはどのような可能性があるのかを懸命に考えてみた。

 4月2日の午後、筆者は動画撮影禁止の見学ツアーで、カリフォルニア州グレンデールにあるWalt Disney Imagineeringのキャンパスの奥深くにいた。そこで垣間見えたのは、テーマパークの未来だ。新しいオーディオアニマトロニクス(Disneyのアトラクションなどで使われるロボット)がいくつかあり、なかには自由に歩き回りながらリアルタイムで環境に適応しているものもあった。

 Disneyは、新しいテクノロジーでエンターテインメントを再定義するという使命を帯びている。「Disney+」は、Appleのヘッドセット「Vision Pro」に搭載された最初のアプリの1つであり、Appleは自宅で楽しめるテーマパークへの入り口として独自の没入型環境を提供するために、エンターテインメント大手であるDisneyの力を借りたのだ。

 そして、今回、Disneyの最高経営責任者(CEO)Bob Iger氏は今後10年間で同社のバーチャルではない実際のテーマパークに600億ドル(約9兆1000億円)を投資することを約束した。同社は先ごろ、フロリダ州の「マジックキングダム」の拡張計画について語った。3日の年次株主総会では、映画「アバター」をテーマにした新しいアトラクションがカリフォルニア州のDisneylandに建設される可能性も、Iger氏によって示唆されている。

 Disneyには、プレッシャーもかかっている。フロリダ州では、近隣にあるライバルのUniversal Studiosが10億ドルをかけて4つ目のテーマパーク「Epic Universe」を建設中であり、2025年に完成予定だ。5つの没入型ワールドと敷地内ホテルを1つ備えたEpic Universeは、間違いなくDisneyから人々の注目を奪うだろう。

報道陣に向けて語るIger氏とテーマパーク事業の責任者Josh D'Amaro氏
報道陣に向けて語るIger氏とテーマパーク事業の責任者Josh D'Amaro氏
提供:Disney

 ツアーが始まる前に、Iger氏は少人数の記者に語りかけ、Walt Disney Imagineeringのキャンパスとその技術研究開発チーム(Disneylandから自動車で35分の距離にある)がテーマパークの拡張目標の中心にいることを強調した。

 「アーティストたちは、『この素晴らしいストーリーを伝える技術的な解決策を作ってほしい』と、常にテクノロジー側に頼っている」(Iger氏)

ホロデッキフロアとそのほかの多くのテクノロジー

 1月、YouTubeのDisney Parksチャンネルに投稿された動画で発表され、一夜にして大きな話題となったHoloTileは今、さまざまな用途が検討されている。伝説的なDisneyイマジニアであるLanny Smoot氏によって発明されたHoloTileは、傾斜したフロアディスクで構成されるモジュール式システムだ。好きな形に組み合わせることが可能で、必要な床の面積に合わせてレイアウトできる。

 デモで見せてもらったフロアには、HoloTileが19個あった。Disneyのデモ動画で使われていたものと同じレイアウトだ。それぞれのタイルは、ボードゲームのチェッカーの駒や小さな車輪のように、外周部が盛り上がった複数の丸いディスクで構成されている。

 このハイテクタイルの周囲には、LiDARセンサー(「iPhone Pro」に内蔵されているのと同様の深度センサー)が配置されており、周囲の動きを検知する。動きを検知すると、ディスクが動き始め、回転したり、傾いたりしながら、タイルの上の物体をプログラムされた場所に移動させる。小さな円形のランニングマシンがいくつも組み合わされたような仕組みになっており、それらが連携して、物体を動かしている。

 離れた場所にある物体をコントロールして、動かすことも可能だ。筆者はゲームコントローラーを使用して、方向スティックを操作するだけで、サンプルタイルの上に置かれたルーク・スカイウォーカーの人形を動かすことができた。

 次に、上に設置された特殊なセンサーとカメラを使って操作してみた。この場合はハンドトラッキングを使用するので、イリュージョンがワンランク上になる。筆者はまるで、物体を操る力でも手に入れたかのような気になった。手を右に動かすと、HoloTile上の箱が右に移動し、手で押す動作をすると、箱は後ろに動いた。

HoloTileの上で椅子に座ったSmoot氏と、それに向かって手をかざす人物
HoloTileの上で椅子に座ったSmoot氏を、同僚が「フォース」のようにハンドトラッキングセンターを使って動かす様子
Smoot提供:Disney

 Smoot氏は、HoloTileにはまだ明確な用途がないことを認めているが、Walt Disney Imagineeringのほかの多くのプロジェクトと同様、最終的には、予想されていなかったさまざまな方法で応用されるようになるかもしれない。Smoot氏は、複数の人間がHoloTileに乗ってもぶつからないということもデモしてくれた。これによって、新しいゲームやステージパフォーマンスの可能性が広がる。Smoot氏によると、現在、ダンスの振付師らがさまざまなルーティンのテストをしているという。人間や物体を魔法のチェスの駒のように動かせる機能は、新しいアトラクションや乗り物にも利用できるかもしれない。

 HoloTileはVR向けの全方向性ランニングマシンになる可能性もある。この特許技術を開発したSmoot氏は、ヘッドセットの「Meta Quest」を装着した状態で、HoloTileの上を歩き回り、バーチャル版Disneylandの中を散策してみせた。しかし、これは、テーマパーク以外の場所で、どこでもVRを強化できるHoloTileの用途として、筆者が想像したものの1つだった。映画「レディ・プレーヤー1」の全方向性ランニングマシンのようなものが現実世界で利用可能になるかもしれない。

 HoloTileがDisneyのテーマパークに登場する時期については、何も明かされていない。HoloTileが実際に使用されるようになるのは、何年も先かもしれない。しかし、筆者はロボットの進化を目の当たりにした。まもなく登場しそうなものもあれば、すでにテーマパークに導入されているものもある。

自由に動き回るロボットたち

 Disneyは、Disneylandの「Star Wars: Galaxy's Edge」に時々現れる、よたよたと歩く小さなロボットをテストしている。これらの愛らしい「BD-X」ドロイドは、NVIDIAのCEOのJensen Huang氏が同社の「GTC」AIカンファレンスにて先ごろ行った基調講演で披露したNVIDIAチップセットを搭載している。ナビゲーションのための環境認識機能をある程度備えており、複雑な地形に適応することができる。

 BD-Xは、強化学習と呼ばれる一種の人工知能(AI)を使用して、さまざまな動きを再現したり、草や凹凸のあるコンクリートなど、さまざまな表面に適応したりできるように訓練されている。現実世界ではなく、シミュレーションで、あらゆる種類の歩行シナリオの問題を迅速に解決する。

 Disneyはこれらのロボットを「操作」している。ハンドラーが「スター・ウォーズ」の装備のように装飾されたValveの「Steam Deck」を使って、テーマパーク内のロボットたちを制御しているのだ。そのため、BD-Xは自律型ではないが、世界を認識してはおり、予期せぬ障害物や滑りやすい表面に適応することができる。

3体のBD-Xと、それらを操作する5人の人物
提供:Disney

 Disneyのロボットのほとんどは、制御された環境で動作する。しかし、このプログラミングは、ロボットが予測不可能な来場者と対話できるようにする道を開くもので、Disneyのアニマトロニクスロボットの今後の方向性を示唆している。つまり、極めて優れた可動性と驚異的な流動性を備えたロボットだ。

新しいキャラクターがまもなく登場

 筆者は「Tiana's Bayou Adventure」(「Splash Mountain」に代わる新しい乗り物で、「プリンセスと魔法のキス」をベースとしており、まもなく登場する予定)で、新しいオーディオアニマトロニクスロボットも見ることができた。これらのキャラクターは現在も開発中で、2024年中の登場を予定している。中の機械装置がまだむき出しの状態のロボットもいくつかあった。しかし、かつては2Dのイラストにすぎなかったキャラクターが等身大になり、その表現や細部、動きを見れば、初期の「魅惑のチキルーム」のしゃべる鳥とは完全に別世界になったことは明らかである。

オーディオアニマトロニクスをテストするイマジニアたち
オーディオアニマトロニクスをテストするイマジニアたち
提供:Disney

 エグゼクティブ研究開発イマジニアのJosh Gorin氏は、次のように述べている。「オーディオアニマトロニクスは、これまでずっと、地面にボルトで固定されていた。しかし、今では、これらの新しいテクノロジーと新しいツールを使用することで、ボルトから自由にすることができ、オーディオアニマトロニクスを空中で回転させたり、走らせたり、ジャンプさせたり、ホップさせたり、想像もできない、あり得ないようなことを実行させたりできる」

 「Disney California Adventure Park」では、毎日、「スパイダーマン」のロボットがスタントショーで空に打ち上げられる。イマジニアたちは、ローラーブレードをさせることで、ロボットを共感できるものにする方法をテストしてきた。筆者が見たデューク・ウィーゼルトンのデモのように、1台のロボットがショーの主役になることもある。そのデモは、漫画から飛び出してきたような、ひょろ長いイタチのロボットがカートを押しながら歩き回った後、カートの上に立って、アニメーションされた一連の動きをするというものだった。

デューク・ウィーゼルトンのデモ
提供:Disney

 Disneyのロボットのほとんどは通常、制御された環境で動作するが、そうした状況は変わりつつある。地上でも斜面でも歩き回ることができるBD-Xドロイドのように、自由に動き回るこれらの新型ロボットは、テーマパークのデザインを一変させるかもしれない。あるいは、テーマパークから完全に解放される可能性だってある。

 厳重な警備の下で魔法が作られる建物を出て、ロサンゼルスのグレンデールの日常に戻った今、Disneyのこうした発明のすべてが何を意味するのかを考えるのは難しい。

 しかし、テーマパークの外側で提供される魅力的な没入型体験の水準が上がり続ける中で、人々を驚かせるという課題がますます困難になっていることをDisneyのイマジニアたちは認めている。

 「われわれが理解しているのは、素晴らしい体験を自宅で楽しめる人が増えれば増えるほど、テーマパークへの来場をより魅力的で特別な体験にするために、テーマパークの価値をさらに高めなければならなくなる、ということだ」(Gorin氏)

 Disney、そして、Universal Studiosなどの競合テーマパークが依然として所有しているのは、自社で管理する広大な物理的空間だ。テーマパークは、通常の混沌とした世界では必ずしも可能ではない方法で新しいテクノロジーをテストできる安全地帯だ。今は、自由に歩き回るロボットと個人用のホロデッキをテストしている。次は何になるだろうか。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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